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From 首相官邸ホームページ

TPP強者の論理。安倍政権の秘密交渉で「食われる側」に立った日本

TPPの本質は、米国など国際競争上優位な「強者」が大きなメリットを享受する一方、「弱者」が大きな負担を強いられる“弱肉強食”にある。日本はいま「食われる側」に立たされようとしている。(『マンさんの経済あらかると』)

国会で広く議論されるべき、TPPの「秘密」問題とISDS条項

自画自賛の安倍首相、TPPに疑義あり

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が大筋合意に達したことを受けて、政府は早速、全閣僚をメンバーとするTPP総合対策本部を設置しました。

安倍総理は、日本が交渉をリードする形で、最善の成果を得たと自画自賛し、財界も評価していますが、あわてて対策本部を設けなければならないところに、後ろめたさと問題が隠されています。

TPPで関税の引き下げ・撤廃が進むことは、世界貿易が高まり、世界経済の拡大に資する面はあります。しかし、米国など国際競争上の優位性を持った「強者」が大きなメリットを受ける反面、「弱者」には負担になります。

日本の場合、自動車では「強者」である一方、農業、金融などは「弱者」とみられます。

「強者」米国が得るもの、「弱者」日本が失うもの

では国ベースの「成果」は何で計るのか。米国のクリントン女史の批判が参考になります。彼女は今回の大筋合意に対して、「雇用の創出、賃金増、国家安全保障の強化という観点から、今回の成果はまだ不十分」とし反対しました。

つまり、国としての成果は、雇用賃金を増やすのか、国家安全保障強化につながるか、で評価されると言っています。

日本の場合、この基準に照らすとマイナス面が強いと見られます。自動車および部品の関税撤廃には25年かかり、しかもすでに現地生産化が進んでいるために、このメリットは限定的です。

一方、農業などでは葡萄や一部魚介類は、承認後ただちに関税が撤廃されるものがあり、こちらは必ずしも「守られて」いません。輸入品に代替されれば雇用賃金は減ります。

この農業などのマイナスを穴埋めするために、総合対策本部が設置され、税金などで損失補てんを検討するのでしょうが、そうなると国民の税負担増や財政悪化につながります。

すでに日本の食料自給率は40%弱と先進国では突出して低く、食料安全保障上のリスクにさらされていますが、将来の負担が明確になれば、廃業が増え、自給率はさらに低下します。

Next: 拡散されるべき「ISDS条項」の危険性/安倍政権による説明責任の放棄


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拡散されるべき「ISDS条項」の危険性、国際訴訟は負け確定?

さらに、一般に報じられない大きなリスクを秘めているのが「ISDS条項」です。これはInvestor-State Dispute Settlementの略で、企業や投資家が国を相手取って訴えることができることを定めた条項です。

訴訟となれば、世銀の下部組織で国際裁判を行うことになりますが、そこでの構成メンバーを考えると、米国有利、日本不利と言わざるを得ません。

一例を挙げましょう。米国が遺伝子組み換えの大豆などの農産物を日本に売り込もうとします。日本では商品の表示をきちんとすれば、消費者がこれらを敬遠する可能性がありますが、米国企業は、日本で売れないのは、国が輸入品の扱いを差別しているからだ、として国際訴訟を起こしてくる可能性があります。

一旦訴訟となると、これまで米国は負けたことがなく、日本が敗訴する可能性が高くなります。日本が負けると、日本政府は罰金をとられるうえに、米国企業が「差別されない」と思う形のルールを受け入れざるを得なくなります。

その結果、日本の消費者は遺伝子組み換え食品などを知らずに消費することになるかもしれません。食の安全が揺らぎます。

臨時国会「開催見送り」は説明責任の放棄だ

今回のTPP協議においては、実は国民が知らされずに秘密裏に進められた交渉が少なからずあります。

ISDS条項はもちろんのこと、この「秘密」問題についても、引き続き国会で説明を求めるべきで、与野党ともに問題を包み隠さず、国民に開示し、広く議論すべきです。

それなくして、農業などに「TPP補助金」を与えて手打ち、とされては困ります。

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マンさんの経済あらかると』(2015年10月12日号)より一部抜粋、再構成
※見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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