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杭打ち1次下請けの日立ハイテクが否定する「禁断の丸投げ」疑惑=近藤駿介

横浜市のマンション傾斜問題で、杭打ち工事に1次下請けとして関与した日立ハイテクノロジーズ<8036>は26日、2次下請けの旭化成建材に工事を「丸投げしていた認識はない」と釈明しました。

これについて元ファンドマネジャーの近藤駿介氏は、「会社側がこのように発言するのは当たり前」としたうえで、「万一、工事の丸投げが明らかになれば、建設業法で禁じられた『一括下請負』を認めることになり、営業停止処分となる恐れもある」との認識を示しました。

問題は旭化成建材に留まらず、発注者や元請を巻き込む展開に

「丸投げしていた意識はない」日立ハイテクの苦しい釈明

横浜市のマンション傾斜問題が発覚してから約2週間経過した10月26日、1次下請けという重要な立場にあった日立ハイテクノロジーズ社の社長が、ようやく公に謝罪をしました。

しかし、それは公の記者会見でも、住民説明会の場でもなく、同社のアナリスト向け決算説明会の席上であったことが理解できないところ。

「旭化成建材に丸投げしていた認識はない」(幹部)という日立ハイテクも品質管理への関与などが求められる現行の建設業法に照らせば、対応が十分だったとはいえない。
出典:傾斜マンション1次下請け 日立ハイテク、対応遅さ際立つ 事実関係は「調査中」 – 日本経済新聞

日立ハイテクノロジーズ社側は「2次下請けの旭化成建材に丸投げしていた意識はない」という認識を示しているようですが、会社側がこのように発言するのは当たり前のこと。

建設業法では、公共工事と民間工事における共同住宅の新築工事については、請け負った建設工事の全部またはその主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる「一括下請負」は全面的に禁止されています。

ですから、「丸投げしていた認識」を持っていることを認めたら、それは即、建設業法違反を認めたことになってしまいます。

問題があった場合の責任は2次下請けが負うとの契約も結んでいたという。技術的な知見はなく、旭化成建材の担当者が改ざんした工事データの「信ぴょう性は判断できなかった」(日立ハイテク幹部)
出典:同・日本経済新聞

建設業法では、元請負人が自ら総合的に企画、調整及び指導(施工計画の総合的な企画、工事全体の的確な施工を確保するための工程管理及び安全管理、工事目的物、工事仮設物、工事用資材等の品質管理、下請負人間の施工の調整、下請負人に対する技術指導、監督等)を行うなど、「実質的に関与」していると判断されない場合は「一括下請負」に該当するとしています。

「技術的な知見」を持たず、「問題があった場合の責任は2次下請けが負うとの契約も結んでいた」としたら、たとえ「工事の進捗確認や現場の安全確保」を担当していたといっても実質的に「一括下請負」であったと疑われてもしかたありません。

Next: 「一括下請負」による丸投げ発覚なら営業停止処分も?


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「一括下請負」による丸投げ発覚なら営業停止処分も?

また、「建設工事の発注者が受注者となる建設業者を選定するに当たっては、過去の施工実績、施工能力、経営管理能力、資力、社会的信用等様々な角度から当該建設業者の評価をする」(平成13年建設省建設経済局長 通達)ことが前提とされていますから、発注者である三井不動産グループや元請である三井住友建設がなぜ「技術的な知見」を持たない日立ハイテクノロジーズ社を1次下請けに選定したのかにも疑問が残ります。

自ら「技術的な知見」を持っていないことを認め、「問題があった場合の責任は2次下請けが負うとの契約も結んでいた」会社を1次下請けに選定するということは、発注者も元請会社も実質的に「一括下請負」が行われることを黙認していたということになってしまいます。

「一括下請負は、発注者が建設業者に寄せた信頼を裏切る行為であることから、国土交通省としては、原則として営業停止処分により厳正に対処」「一括下請負は、下請工事の注文者だけでなく下請負人も監督処分(営業停止)の対象になります」というように、国土交通省は「一括下請負」に対して原則営業停止処分という厳しい対応を行う方針を示しています。

そのため、日立ハイテクノロジーズ社が今回の工事に「実質的に関与」していたのかも大きな焦点になりそうです。

日立ハイテクノロジーズ<8036> 日足(SBI証券提供)

これまで表舞台に顔を出してこなかった日立ハイテクノロジーズ社が登場したことで、マンション傾斜問題は、杭打ち技術担当者の個人的な問題から、発注者と元請会社を含む施工体制のあり方、業界の問題点へと広がりを見せる可能性が高くなったように思えます。

今回の問題を受け、旭化成建材が施工した工事の調査が行われていますが、もし今回のような「技術的な知見」を持たない業者を下請け業者にするという実質「一括下請負」が横行していたとしたら、問題は旭化成建材に留まらない可能性が高いように思います。

旭化成建材が施工した工事の洗い出しをすると同時に、日立ハイテクノロジーズ社が下請けに名を連ねた工事も洗い出す必要がありそうです。

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年10月27日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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