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なぜ先進国で日本だけ?サラリーマンの給料が20年間も下がり続けるワケ=大村大次郎

この20年でサラリーマン(勤労者)の平均賃金が下がり続けているのは、先進国ではほぼ日本だけです。他国と比べて何がマズいのか。日本特有の原因を探ります。(『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』大村大次郎)

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年1月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

日本の労働環境は未だに途上国?企業に裏切られ続ける労働者達

なぜ先進国で日本人の賃金だけ下がっているのか?

当メルマガでは前回、この20年でサラリーマン(勤労者)の平均賃金が下がり続けているのは先進国ではほぼ日本だけということをご紹介しました。

前号と重複しますがOECDの統計によると、この20年間、先進国はどこの国も、給料は上がっています。EUやアメリカでは、20年前に比べて平均収入が30ポイント以上も上がっています日本だけが20ポイントも給料が下がっているのです。つまり、日本は欧米と比べれば、差し引き50ポイントも給料が低いことになるのです。これは、別に私一人の研究で導き出したようなものではなく、国税庁などの公的なデータを見れば、誰にでも確認できることです。この事実関係について、争う人は誰もいないと思われます。

前回のこの記事について、読者の方から「この勤労者の平均賃金が下がり続けてきた要因を分析してほしい」という声をいただいております。なので、今回は、なぜこの20年で日本のサラリーマンの賃金だけが下がり続けてきたのかということについて、分析してみたいと思います。

これには、いくつか理由があると思いますが、その最大のものは、政官財を挙げて雇用の切り捨てを容認し推進すらしてきたということにあります。バブル崩壊後の日本は、「国際競争力のため」という旗印のもとで、政官財が一致して、「雇用を犠牲にして企業の生産性を上げる」というふうに傾いたのです。

前にもご紹介したかと思いますが、1995年、経団連は「新時代の日本的経営”」として、「不景気を乗り切るために雇用の流動化」を提唱しました。「雇用の流動化」というと聞こえはいいですが、要は「いつでも正社員の首を切れて、賃金も安い非正規社員を増やせるような雇用ルールにして、人件費を抑制させてくれ」ということです。

これに対し政府は、財界の動きを抑えるどころか逆に後押しをしました。賃金の抑制を容認した上に、1999年には、労働派遣法を改正しました。それまで26業種に限定されていた派遣労働可能業種を、一部の業種を除外して全面解禁したのです。2006年には、さらに派遣労働法を改正し、1999年改正では除外となっていた製造業も解禁されました。これで、ほとんどの産業で派遣労働が可能になったのです。

派遣労働法の改正が、非正規雇用を増やしたことは、データにもはっきりでています。90年代半ばまでは20%程度だった非正規雇用の割合が、98年から急激に上昇し、現在では35%を超えています。このように、従業員の賃金を抑制し非正規社員を増やしたことが、「この20年で先進国で日本人の賃金だけが上がっていない」ということになった最大の要因なのです。

Next: もう1つの大きな要因とは



日本の労働環境は未だに途上国

それともう1つ大きな要因があります。それは、日本の労働環境が実は非常に未発達だということです。日本人は、日本の社会制度は、欧米と同じくらいに整っていると思っているものです。ですが、よく調べてみると、日本の社会制度は欧米よりもかなり遅れている部分が多々あるのです。労働環境などは、その最たるものだと言えます。「サービス残業」があったり、有給休暇が取れない(取りにくい)などは、日本の労働環境ではごくごく普通のことですが、欧米ではほとんど考えられない事なのです。

欧米は、産業革命以来、200年以上「雇用問題」に向き合ってきた伝統があります。かつては激しい労働運動が起きたり、社会主義革命が起きたりもしています。だから、労働環境については、しっかりした制度をつくっているのです。労働者の権利などもしっかり保証されていますし、欧米では、労働者によるストもたびたび起きます。

日本人は、「欧米の企業は景気が悪くなったらすぐに社員を切る」というような、イメージを持っている方が多いようです。しかし、実際は、日本よりも労働者の権利はしっかり守られているのです。

たとえばドイツの法律では、大企業の経営を監査する「監査役会の人員の半分は労働者代表が占めることになっています。当然のことながら、安易な人員削減はできません。またアメリカの自動車業界ではレイオフ先任制度というものがあります。このレイオフ先任制度というのは、もし経営が悪くなって、人員削減をしなければならなくなったときには、雇用年数が浅い人から順に解雇する、というものです。だから、長く働いていた人ほど、解雇される可能性は低くなるのです。しかも、その後、会社の経営がよくなって人を雇うことになった場合には、解雇された人の中から雇用年数が長い順に呼び戻されることになっています。

またアメリカの自動車業界には、「JOBS PROGRM」という独自の失業補償制度もあります。これは、レイオフ(解雇)された従業員が、公的な失業保険の支給期間が終わった場合、自動車業界の作った基金「JOBS PROGRM」から賃金の100%をもらえるという仕組みです。つまり、アメリカの自動車産業の従業員は、解雇されても事実上生活が保障されるのです。欧米の企業というのは、そういう勤労者の権利や生活をしっかり守った上で、解雇や賃下げなどをしているのです。日本のように、会社が厳しいときは、社員は切り捨てて当然、切った後のことはどうなっても知らん、ということではないのです。

Next: 企業に裏切られた日本の労働者



かつては日本企業も雇用を大事にしていた

日本の経済社会では、欧米のような「勤労者の権利を守る」というシステムがほとんど機能していません。というのも、日本の経済社会は、これまで、労働問題としっかり向き合う時期がほとんどなかったのです。日本でも終戦後の10年間というのは、非常に激しい労働運動がありました。しかし、昭和30年代に入ってから、企業側から、労働者に歩み寄りがあり、雇用を重んじ常に賃金の上昇を意識するようになったのです。また国の政策的にも、「何よりも国民の収入を増やそう」という方針がありました。だから、高度成長期からバブル期まで、日本の企業は雇用や賃上げを非常に重んじたのです。

たとえば、トヨタなどがその最たる例です。トヨタでも、終戦後の一時期までは激しい労働運動があり、1950年には、2か月に渡るストライキも決行されました。しかし1962年、トヨタの労働組合と経営側により「労使宣言」が採択され、トヨタの労使は「相互信頼を基盤とし、生産性の向上を通じて企業繁栄と労働条件の維持改善を図る」ということになったのです。つまりは、トヨタの労働組合は経営との協調路線を採ることになったのです。これは、戦後の日本企業を象徴するようなものだといえます。

以降、トヨタの労働組合は、ストどころか、団体交渉さえ行なったことがなく、賃金、労働条件などすべての労働問題は、労使協議会で行われています。組合の幹部になることが、トヨタ内での出世コースにさえなっているのです。これは雇用や賃金をトヨタがしっかり守る姿勢を見せたので、従業員側も歩み寄ったということです。

雇用を犠牲にするようになった日本企業

ところが、バブル崩壊以降、日本の企業の雇用方針は一変します。前述しましたように、賃金は上げずに、派遣社員ばかりを増やし、極力、人件費を削るようになりました。企業が手のひらを返したのです。

そうなると、日本の労働者側には、それに対抗する術がありませんでした。日本の労働環境というのは、欧米のように成熟しておらず、景気が悪くなったり、企業が労働者を切り捨てるようになったとき、労働者側が対抗できるような環境が整っていなかったのです。だからバブル崩壊以降、企業が急に賃金を抑制したりするようになっても、労働者側はまともに対抗できませんでした。ほぼ企業の言いなりになってしまったのです。

日本で労働運動が下火になったのは、各企業が従業員が不満に思わないように、それなりに賃金に気を配ってきたからです。

「企業は雇用を大事にし賃上げに全力を尽くす」
「従業員は無茶なストライキなどはしない」

労使のそういう信頼関係の元に日本特有の日本型雇用が形づくられたのです。そして、この「日本型雇用」の影響で、日本の労働運動は衰退したのです。従業員は激しい労働運動しなくても、雇用は守られ待遇は改善されていく、という建前があったからです。

しかし、バブル崩壊後、景気が悪くなった途端に、企業側は、「日本型雇用」をやめてしまいました。労働者側から見れば、企業から裏切られたということです。そして、結果的に、欧米よりもずっと過酷な労働環境となってしまったのです。

Next: 日本が目指すべき社会とは



景気が悪くてもそれなりにやっていける社会を

現在、日本の政官財は、相変わらず「高度成長期の再来」を目指しています。「高度成長期の経済成長があれば、財政や雇用の問題もすべて解決する」と思っているのです。が、これはもう絶対に無理な話です。

高度成長期というのは、日本がまだ貧しい状態であり、大きな「伸びしろ」があったからこそ、成し遂げられたものなのです。今のように、もう十分に経済が発展し、

「国民1人当たりの外貨準備高が世界一」
「国民1人当たりの対外債務世界一」

というような、超金持ちの国になっている今では、そういう高度成長などは絶対に無理なことです。もしそういう奇跡的な経済成長ができたとすれば、他国の金をさらに巻き上げるということであり、世界的な大ブーイングが起こるはずです。

今の日本がやらなければならないのは、「高度成長期のような経済成長を目指すこと」ではなく、「景気が悪くてもそれなりにやっていける社会」をつくることなのです。欧米の社会は、かなり前からその構築をしてきています。日本だけが、景気が悪くなるとたちまち路頭に迷う国民が出てきて、自殺率も跳ね上がるというような状況なのです。これだけ、世界中から金を集めているのに、経済的に理由で家庭をもてなかったり、経済的理由で2人目の子供を諦めたり、経済的な理由で自殺する人がたくさんいるのは、世界に対して非常に恥ずかしいことなのです。

今、日本がしなくてはならないことは、日本の中に溜まりに溜まっている富をもっときちんと社会に分配することです。この金持ちの国、日本で、「まともに働いても自分だけの稼ぎでは妻子を養えない」とか、「夫婦共働きでも、2人目の子供を産めない」というのは、世界から見たら、非常に滑稽な話です。個人の金融資産は1,800兆円以上、企業の内部留保金は、450兆円にも及んでいるのです。日本では、お金はあるところにはあるのです。

政官財の指導者の方々、本当にこのことに真剣に向き合っていただきたいものです。でないと、このままでは日本は、確実に衰退します。

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大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』(2019年1月1日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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元国税調査官で著書60冊以上の大村大次郎が、ギリギリまで節税する方法を伝授。「正しい税務調査の受け方」や「最新の税金情報」なども掲載。主の著書「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)

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