日銀の異次元金融緩和により円安・株高が進行しても、富裕層がより豊かになることで貧困層にまで富が波及するという「トリクルダウン」は起こらなかった。反面そのコストは、株高の恩恵を受けなかった国民も含めて全員が負担することになる。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』)
異次元緩和は連帯責任?起こらなかったトリクルダウン
数千億規模で国の歳入が減少
国家財政が逼迫する中で、日銀の国庫納付金が数千億円規模で減る可能性があることが報じられている。
日銀は13日、異次元緩和で膨らんだ国債の利息収入を引当金として積み立てられるようにする制度改正の検討を麻生太郎財務相に要請した。異次元緩和からの出口をにらみ、将来の金利上昇で利払い費がかさんだ時に速やかに取り崩せるようにする。
<中略>
日銀は14年度、1兆90億円の利益をあげ、7567億円を国庫に納付した。今回の制度変更によって、国庫に納める金額は数千億円規模で減る可能性がある。
出典:日銀、国債の利息収入を引き当て 財務相に制度改正要請 – 日本経済新聞(11/13)
異次元の金融緩和による効果は、円安とそれに伴う株高。一方そのコストは財政面での数千億規模の歳入減少である。
円安・株高という金融現象を起こすことで、「トリクルダウン」が起きるとされたが、実際には円安・株高から恩恵を受けた一部の企業に利益が集約されるだけだった。
そうした中、日銀による国庫納付金の減額による国の歳入減は、恩恵を受けなかった国民も含めて全員が負担することになる。
後戻りできない恐ろしさ
日銀の国庫納付金の減額は「異次元の金融緩和のコスト」として国民が広く負担しているという事実を明らかにしたうえで、円安・株高によって得られる恩恵が、数千億円規模の財政負担増というコストに見合ったものなのかという議論を進めるべきである。
恐ろしいことは、異次元の金融緩和に伴う数千億円規模のコストは、得られる利益に比較して高過ぎる無駄なものだったとしても、今さら削減できないものだということ。
削減しようとすれば、円高・株安というコストを払わなければならないからだ。しかし、このまま異次元の金融緩和を続ければ、国民の財政負担は増えることになる。
推し進めるにしても、縮小するにしても、異次元の金融緩和というおバカな金融政策をとったことで、日本は多額のコストを支払うことになってしまった。この責任を誰がとるのだろうか。
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来た近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。
虫が良すぎる財務省。個人国債は安全なのか、危険なのか?
8日付の日経に「個人国債」の広告が載っている。広告主は財務省。
個人向け国債の広告にはいつも「安全」「手軽」「選べる」というコピーが添えられている。
財務省は日本の財政赤字はGDPの2倍以上あり、消費増税が不可避だと言っている。要は、消費増税をやらないと財政破綻のリスクが高まり、国債の償還もままならないということ。
しかし、その国債を発行するにあたり「安全」だと宣伝している。「増税してあげますから安全ですよ」ってことか。
消費増税の際には今にも財政破綻するかのような「危険」を煽り、国債発行時には「安全」を謳う財務省の主張にどこからも疑問の声が上がらないのがこの国の不思議なところ。
マスコミお得意の「国債の発行残高は1000兆円を超え、国民一人あたり800万円の借金を背負っている」という主張が正しいのであれば、個人が国債を購入することで、国民一人あたりの借金は増えることになる。
購入をするともれなく「借金」が付いてくる投資商品は、世界広しといえども日本国債くらいしかない。あのギリシャ国債も紙屑になることはあっても「借金」は付いてこない。
しかも、日本国債を購入すると「借金を子供の代に残さないよう約束通り元利金を返済して貰いたければ増税に応じろ」という脅迫文まで付いてくる。
「借金」を背負うことが分かっていて国債を買うバカがいるだろうか。
「国民一人あたり800万円の借金を背負っている」というのがウソなのか、「安全」というコピーがウソなのか、落ち着いて考えてみて欲しい。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2015年11月8,15日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による
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