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「パリ同時多発テロ」と「9.11テロ」の共通点と相違点~楽観的すぎる市場

11月13日に発生したパリ同時多発テロと、14年前の「9.11」テロとの共通点、相違点を見てゆくと、これで終息とは言えない問題が多々見えてきます。欧州は、今後何年にもわたって重い問題を背負い込み、経済・社会を疲弊させる恐れがあります。もし欧州が地盤沈下すれば、米国・ロシア・中国・日本の政治バランスにも大きな影響があるでしょう。(『マンさんの経済あらかると』)

9.11の米国と同様に、欧州も戦費膨張で疲弊の道を歩むのか?

市場は「影響は限定的」との反応だが――

14年前の「9.11」同時多発テロの際には、多くの市場が閉鎖され、金融・財政両面からの支援体制をとって株式市場を再開しましたが、それでも株やドルは大きく下げ、世界に大きな波紋を広げました。

それに比べると、今回のバリでのテロ事件は、多くの犠牲者を出したものの、欧米の株式市場は混乱なく、ユーロがやや下げたものの、総じて平穏を維持しました。

しかし、「9.11」との共通点、相違点を見てゆくと、これで終息とは言えない問題が多々あります。

特に、欧州にとっては、今後何年にもわたって重い問題を背負い込み、経済・社会の疲弊をもたらす可能性があるとともに、対米国、ロシア、中国とのバランスを変えるきっかけにもなりうる面があります。

アルカイダもISも、元をただせば“米国生まれ”という事実

「9.11」との一つの共通点は、それぞれ、アルカイダとISというグループが直接の実行犯となっていて、いずれも米国との係わりがあることです。

アルカイダは、かつてロシアがアフガンに侵攻した際、米国が支援してロシアを追い払うのに使ったグループです。多くの米国指導者がテロの主犯とされるビン・ラディンらと親交がありました。

そして9.11テロの直後に、米国政府はアルカイダ、ビン・ラディンの仕業と決め、政府は個人の自由を制限し、国の利益を優先する「愛国法」を通し、テロ戦争を戦うと宣言しました。

レンタ・カーに犯行にかかわる資料が残されていたとしてこれを証拠とし、ユダヤ主犯説自作自演説など、米国に都合の悪い諸説は抹殺しました。

今回、犯行声明を出したISも、元をただせば、米国の民間軍事会社の訓練を受け、米国やイスラエルなどから資金支援を受けて成長してきたとも言われます。米国の武器や日本のトラックなどを利用している写真も見られます。

そして今回の事件を受けて、フランスのオランド大統領は非常事態宣言を出し、「戦争」に突入したと宣言、早速軍事予算を拡大し、米国と協調してシリアを壊滅するまで空爆を強化する方針を打ち出しました。

欧州経済に「戦費膨張」リスク

これは「戦争」のエスカレートを示唆します。16日のFT紙は、ISの次のターゲットとしてドイツ、英国が挙がっていると報じました。

フランスに留まらず、ドイツ、英国も巻き込んで戦火が拡大し、欧州全般の軍事予算が拡大すると、あるグループは「9.11」同様のメリットを得ますが、その後米国が戦費拡大で経済が疲弊したように、欧州経済も戦費膨張で疲弊の道を歩むリスクがあります。

しかも、欧州にはシリアなどから大量の難民が押し寄せ、その経済的社会的負担も大きくなります。

Next: IS討伐は泥沼の戦い。変わる政治バランス、日本への影響は?


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短期間でのIS討伐はほとんど不可能

すでにフランスでは極右政党が勢力を伸ばし、難民受け入れに反対しており、難民と市民との軋轢も危惧されます。

今後は欧州全体で難民、移民に対する反発が高まり、社会の不安定化が懸念されます。これは欧州の経済コストを高めるとともに、欧州の地盤沈下にもつながりかねません。

米国はアルカイダの討伐に10年以上をかけた末、ビン・ラディンの殺害は報じられたものの、いまだにアルカイダに手を焼いています。

フランスは米ロと協調してIS討伐を狙うでしょうが、アルカイダの例を見ても分かるように、これを短期間で壊滅することはほとんど不可能です。そもそも米国がISを管理しきれない可能性もあります。

変わる政治バランス、日本への影響は

欧州経済が疲弊し、地盤沈下が進めば、株価やユーロの下落に留まらず、世界の政治・経済バランスが変わります。目先の利益は米国の優位回復となりますが、同様にロシアが優位性を回復する可能性があります。

恐らく、ロシアは難民受け入れを拒否し、厳格で強いロシアの再建を進めると見られます。

ここに米ロが改めて対立する構図があり、その間に、日本や中国がどうかかわるかで政治バランスは変わります。日本がロシアと協力関係を強めれば、中国が孤立します。

日本が米国に遠慮してロシアと距離を保てば、ロシアは中国と接近し、中ロが日米と対立する構図になります。

およそ考えられない楽観ムード~市場急変に要注意

ISによる欧州への攻撃はこれで終わりではなく、新しい世界バランスを作り出す第一歩に過ぎない可能性があります。少なくとも欧州は長期的に大きな負担を背負い込み、地盤沈下のリスクがあります。ECBの積極対応で片付く代物ではありません。

14年前、私が「9.11」から何とか生還した際、ニューヨークでは「もう一度ニューヨークがテロに襲われたら、もうニューヨークに住んでいられなくなる」との声を聞きました。

私も一日も早く帰りたいと思いましたが、しばらくはニューヨークに飛行機に乗ってゆくことができませんでした。

パリはもちろん、欧州のほかの地域でまた大規模なテロが発生すれば、欧州での動揺は想像を絶する大きなものになります。

市場の「影響は限定的」とのリアクションは、欧米とISが早期に和解するという、およそ考えられない事態を想定しない限り、成り立たないものと思われます。

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マンさんの経済あらかると』(2015年11月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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