安倍晋三氏が新元号に「安」の字を入れるのではないか。新元号の発表まで1か月を切り、その不安と懸念は日を追う毎に大きくなり、NHKが大っぴらに宣伝工作を行っている。(『世に倦む日日』)
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恣意的な新元号への対抗策はある。野党は国会で質疑討論を
既成事実が固められている
安倍晋三氏が新元号に「安」の字を入れるのではないか。新元号の発表まで1か月を切り、その不安と懸念は日を追う毎に大きくなり、われわれを憂鬱な気分にさせている。
3月1日のNHKニュース7では、水族館のアシカが毛筆をくわえて「安久」の2文字を書く場面が映されていた。新元号に「安」の字が入るという予想は、昨年からネット上に出回り始めていたが、今年に入ってからはNHKが大っぴらに宣伝工作するようになり、既成事実が固められている感を否めない。
そうした政治に対して反安倍側が正面から批判や反発の声を上げる動きがなく、ネタとして笑い話にして素通りする態度で終わっていて、そのことがさらに気分を暗澹とさせている。おそらく、多くの者は、まさかそこまでの悪い冗談はやらないだろうという感覚で見ているのに違いない。
思い出さないといけないのは、2013年5月5日に東京ドームで行われた国民栄誉賞の授与式で、始球式に登場した安倍晋三氏が背番号96のユニフォームを見せびらかした場面であり、あの蛮行と同じ政治が進行している事態に気づく必要がある。国民を愚弄する露骨な演出を誰も止められなかった。
ほぼ同じ時期、「731」の機番の空自の戦闘機に乗って、得意げに親指を突き上げたポーズの写真を撮らせ、マスコミに撒かせて中国と韓国を挑発した事件もあった。
新元号に「安」の字を入れるという悪ノリは、常識では考えられない狂態だが、安倍晋三氏の神経では、やれるならやってみたい独裁者の欲望であり、肥大した自己顕示欲と支配欲を満足させる暴挙である。
中国の皇帝のような、北朝鮮の金正恩のような暴慢な行動だ。私物化という言葉では軽すぎる、アジア的専制支配者の欲望の吐き散らしと押しつけであり、手が付けられない暴君のエゴの発散で、近代政治の言葉では言い当てる表現が見つからない狂態に辟易とさせられる。
元号は東洋では前漢の武帝の時代に初めて用いられ、皇帝が時間を支配するという意味がある。その思想史的事実については、われわれも知っているし、安倍晋三氏もよく知っていて、意味を承知した上で強行の構えを見せているのであり、したがって、単なる悪ノリや悪ふざけで見逃すことはできない。
本当に制定されたら、ずっと「安」の字の使用を強制され、安倍晋三氏に時間を支配され、日本の歴史から「安」の元号の時代を消せなくなる。悪夢そのものではないか。
ツイッターでの気になる反応
この問題に関して気になったのは、内田樹氏のツイッターでの奇妙な反応だ。
こう言っている。「僕は元号擁護論者ですけれど、新元号に『安』が入っていたら、死ぬまで二度と元号を使いません」。
このコメントには首を傾げる。果たして、自分が使わなければそれでいいという消極的な対応でいいのだろうか。元号に安倍晋三氏の「安」を入れたり、安倍晋三氏が(日本会議的な動機と目的で)恣意的に文字を決定することを阻止するような言論や運動を興さなくてよいのだろうか。決まってから反対するという姿勢や方策でよいのか。
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恣意的な新元号への対抗策はある
例えば、簡単な対抗策として、予算委で野党議員が次のように質問する方法がある。
「総理は、有識者懇談会が出してきた原案に『安』の字が入っていたとき、それをそのまま原案として認めて衆参正副議長に意見聴取する手続きに入りますか」。こうした質問をストレートにぶつける手がある。
間違いなくマスコミが注目し、安倍晋三氏の答弁がテレビで放送される。想定できる安倍晋三氏の回答は、「仮定の質問には答えられない」だが、そのときは、「それなら、中国軍が尖閣を占領した場合の対処についても仮定の質問ですが、答えられないと言うのでしょうか」と切り返せばいい。
「国民生活にとって重要な問題だから質問しているのだ」と言い、皇帝が時間を支配するという意味が元号にあることを歴史的に説明し、「安」の字が入った元号の制定は、国民の将来にわたっての精神生活を安倍晋三氏が支配することに繋がるのだと正論を吐けばいい。国民への精神的苦痛の強制になるが、それでもいいのかと言えばいい。
それは、今、国民が最も安倍晋三氏に訊きたい焦眉の関心事項だろう。安倍晋三氏が逆ギレして感情的な応酬を演じれば、視聴率になる騒動のショットが出来上がり、ワイドショーが喜んで番組のネタにする。こうした状況を作ることができれば、新元号に「安」の字を入れることを阻止する力になる。
NHKで何度も「安」の字が入った新元号を試し見させているのは、安倍晋三氏によるポーリング(アドバルーン)の政治だと看破するべきであり、威力偵察して抵抗がないかどうか見極めている権謀工作だと意図を見抜く必要がある。国会で質問する野党議員には、6年前の背番号96の演出についても触れ、安倍晋三氏の過剰な自我表出のメンタリティについても分析を加えて欲しい。安倍晋三氏の人格を精神科医の診断で解読し、それを質疑の場で披露することは、野党議員がやらなければいけないことである。それは、安倍政治の病理と倒錯に対して国民の常識を対置することだ。
精神的自由権の問題か
本来、この問題は、憲法の内心の自由(精神的自由権)の問題であり、良心の自由を侵害される問題であるように私には思われる。
2007年、日野市の小学校の入学式で国歌斉唱時にピアノ伴奏するよう校長から音楽教師が職務命令され、教師が拒否して戒告処分され、良心の自由を保障した憲法19条違反であるとして訴えた事件があった。小泉政権の頃、これに類する事件が多く発生し、2006年、「君が代」斉唱時に起立して斉唱しなかった都の教員33人が懲戒処分されるという事件も起きている。平成天皇が都教委の米長邦雄に対して、「(国歌斉唱は)強制でないのが望ましい」と園遊会で述べたのが2004年だった。
役所の書類を提出する際は元号での記入がデフォルトであり、それを個人が西暦に書き直すことができたとしても、そこには個人の思想信条を役所の窓口で知られるという精神的苦痛が伴う。
元号を認めている者でも、さすがに安倍晋三氏を表徴する「安」の字の書式で提出するのは、内田樹氏のように苦痛で不快で堪らないだろう。芦部信喜氏の『憲法(第五版)』(岩波)には、「思想・良心の自由が不可侵であることの第二の意味は、国民がいかなる思想を抱いているかについて、国家権力が露顕(disclosure)を強制することは許されないこと(略)である」という記述がある(P.147)。
さらに、「天皇制の支持・不支持について強制的に行われるアンケート調査など、個人の内心を推知しようとすることは、認められない」とあり(P.148)、例の橋下徹氏と野村修也氏による大阪市職へのアンケート調査の事件の判決の根拠になった憲法解釈が明確に示されている。
Next: 「安」の入った新元号を強制的に書かされるのを、苦痛だと感じる人もいる
適正なプロセスで元号は決まるのか?
役所への書類提出の書式で、「安」の字の元号記入を忌み嫌った個人が西暦への書き直しを強制される現実は、明らかに行政による不当な内心の自由の侵害と言えるだろう。「安」の字が新元号に採用されれば、各地でこうした問題が頻発して訴訟沙汰になるのは確実で、内田樹氏や憲法学者が音頭をとるはずだ。
その場合、争点になるのは、特に新元号の考案と決定がどういうプロセスで行なわれたのかということで、つまり、安倍晋三氏が「専門家に委嘱」し、安倍仲間の有識者懇談会に忖度させ、皇太子に「内奏」してねじ込んでいる今の官邸の動きこそが適正で公正かという問題になる。
私の予想では、安倍晋三氏はじわじわと新元号を開示して地ならしを図って行くに違いなく、岩田明子氏を通じて3案に絞っただのを言わせ、読売新聞を通じて3案を具体的に漏らし、4月1日の手前には本命の1つで内定を踏み固めることだろう。
そして本番では、安倍晋三氏が額縁を掲げた絵をテレビに撮らせる思惑だろう。安倍晋三氏がその行動を禁欲できるとは思えない。
その役を菅義偉氏に譲るとは思えないし、菅義偉氏も自分がやると言い張るとは思えない。6年前の東京ドームのような幼稚で不愉快な映像になるだろう。
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『世に倦む日日』(2019年3月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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