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大和ハウスまでも不適切設計2000棟…「手抜き」が蔓延する建築業界の闇を払拭できるか?=栫井駿介

大和ハウス工業<1925>のアパート・戸建住宅に建築基準法違反が発覚しました。アパート200棟が定められた耐火設計基準を満たさず、戸建住宅888棟・アパート990棟では基礎が基準を満たしていなかったのです。改修工事等に1億円が必要とされていますが、さらなる拡大も懸念されています。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

消費増税、東京五輪の後が恐ろしい?長期投資家はどう見ているか

アパート建設は「手抜き工事」を誘発しやすい!?

少し前には、レオパレス21<8848>でも建築基準を満たさない建築が横行していることが問題になりました。大和ハウスはレオパレスより悪質性は低いものの、アパート建設で相次いで問題が発覚したことから、業界全体が不安視されている状況です。

アパート建設の営業は、お世辞にもあまり評判の良いものではありません。「資産の有効活用」を謳って土地所有者に建設を促しますが、それは必ずしも顧客のためにならない場合もあります。

彼らの営業トークは、表向きは「資産活用」ですが、真の目的はアパートを建設して利益を得ることです。極論を言えば、その後のことはどうでも良いのです。

そして、建設にあたっては費用を抑えるほど利益水準は高まります。つまり、業界構造として「手抜き工事」を誘発しかねない状況があるのです。

もちろん、そのようなことを続けていたらいずれ評判が落ちるでしょう。しかし、専門的な内部構造の問題であれば、素人が判断することは困難です。そのため、過去の長期間にわたって不正が行われていたにもかかわらず、発覚が遅くなったのです。

大和ハウスは不正が行われたのが2000年〜2013年の間という長期のことですから、現場では認識されていた可能性が疑われます。同社では2014年および2016年にも不適合施工が発覚しており、ズルズルと問題が出てくるのは決して良い傾向とは言えません

問題が発覚してから、株価は10%以上値下がりしました。その後もズルズルと下げていることから、投資家の不信感が解消されていないことがうかがえます。

大和ハウス工業 <1925> 1時間足(SBI証券提供)

住宅だけじゃない大和ハウスの強みとは?

大和ハウスと言えば、ハウスメーカーとしてのイメージが強いでしょう。しかし、それは一面にすぎません。

以下のグラフが、セグメントごとの利益の内訳です。戸建て住宅の割合は小さく、利益の大きい方から商業施設、賃貸住宅、事業施設の順となります。ハウスメーカーと言うよりは、総合建設メーカーと言ったほうが適切でしょう。

特に、最近では商業・事業施設といった大型施設の建設が業績を牽引しています。これは、大型商業施設の増加やインターネット通販の拡大による物流施設の増加に歩調を合わせたものです。

同社はかつてコストの低い2×4工法で戸建住宅の普及に貢献しました。その精神を受け継ぎながらも、時代に合わせて必要とされる領域に軸足をシフトしてきたのです。現状に安住しない、したたかな経営が垣間見れます。

最近はM&Aにも積極的です。例えば2013年に買収した中堅ゼネコンのフジタは、産業団地や複合施設などの大型建設に貢献しています。単に規模を拡大するだけでなくノウハウの取り込みも目的としていて、うまくシナジーが発揮されている印象です。

大和ハウスの強みは、住宅で培ったコスト競争力に加えて、戸建住宅から物流施設までをカバーした総合力、そして何より時代にあわせて必要とされる事業に乗り出すことができる経営力と言うことができるでしょう。

この経営力をもってすれば、国内市場が縮小する中でも成長を続けられるでしょうし、最近は海外に成長を求める動きも見られます。既存の領域にとどまろうとする会社よりは、見どころのある会社だと私は考えます。

Next: 建設業界に立ちはだかる「向かい風」。消費増税、東京五輪の後が恐ろしい?



PER8倍も割安じゃない?建設業界に立ちはだかる「向かい風」

それでは、この株価下落は長期的に見た「買い場」なのでしょうか

問題がどこまで拡大するかはわかりません。新たな問題や損失が発覚すれば更に下がるでしょうし、これで出尽くしとなれば大きく反発する可能性もあります。

よほど内部事情に通じていなければ、この短期の動きに賭けることは危険でしょう。長期投資家が見るのは、もっと先の、中長期的な見通しです。

ここ数年はアパートや大型建設需要の増加により業績を拡大してきました。2019年3月期決算で8期連続の最高益となる見通しです。過去の業績に死角はないように見えます。

※2019年3月期は会社予想

ただし、最近の業績は「追い風参考記録」と見るべきではないかと私は考えます。

金融緩和による銀行の融資姿勢緩和でアパート建設は拡大し、東京五輪前の建設ラッシュで建設需給は逼迫していました。全ての事業で空前絶後とも言える良好な環境が整っていたのです。

同社自身も数度にわたって中期経営計画の目標値を引き上げていることから、想定以上の追い風が吹いていたことがうかがえます。

この「追い風」が「向かい風」に変わったらどうなるでしょう。これまでのように、右肩上がりの成長が続くとも思えません。業績拡大が止まるばかりでなく、思わぬ損失に見舞われる可能性もあります

すでに追い風が向かい風に変わる兆候も見られます。

スルガ銀行等におけるずさんなアパート融資が問題視され、銀行は融資姿勢を厳格化しています。これまでのようにアパート建設が拡大するような状況は望めないでしょう。

大型施設建設への逆風もあります。「消費増税」と「東京五輪」の後です。

今年の10月には消費税が8%から10%に引き上げられる予定です。これまでの建設需要には、増税前の「駆け込み需要」が少なからず含まれているでしょう。そうなると、増税後は需要が急速に減速する可能性があります

また、東京五輪に向けた盛り上がりで膨れ上がっていた建設需要も、終わってしまえば寒風が吹くかもしれません。そうなれば、これまで建設業者側に有利だった契約条件が逆転してしまうでしょう

これらの不安を反映し、建設業界のPERは10倍を割り込む低水準にとどまっています。

大和ハウス<1925> 8.3倍
積水ハウス<1928> 8.7倍
大林組<1802> 7.9倍
清水建設<1803> 8.0倍
※Yahoo!ファイナンスより(2019年4月18日時点)

低いPERには、それだけの理由があります。単に数字が低いからと言って「割安」だと飛びついてはいけないのです。

Next: 買うべきタイミングは、悲観が市場を覆い尽くす時



買うべきタイミングは、悲観が市場を覆い尽くす時

私は大和ハウスを優良銘柄の一つとして捉えています。しかし、優良銘柄だからと言って、いつ買っても儲けられるというものではありません。

特に、同社のような大型株だと、多くの投資家から見て「適正」とされる株価が付きます。今の大和ハウスの株価は、事件発覚によるリスクを適正に反映していると考えます。

しかし、株価はまれに適正価格から乖離することがあります。例えば、相場が急激に冷え込んだり、一時的な業績悪化に見舞われたときです。

これらのケースに共通していることは、市場が過度に悲観的になっているということです。

人々が悲観的になると、株は必要以上に売られます。その瞬間こそが、会社が持つ「価値」と「価格」に乖離が生じる時なのです。

賢明な投資家は、そのような時に買い付け、あとは株価が回復するのを待つだけなのです。優良企業を買っていれば、必ず株価は戻ってきますし、その後も価値を増加させ続けるのです。

大和ハウスに関して言えば、まだ過度に悲観的になっているとは言えないでしょう。PERの基準となる利益は「追い風参考」、不祥事の影響は見通せず、目の前の環境は決して明るくありません。

長期投資家が買うべき瞬間はそう多くありません。だからこそ、普段から優良銘柄に目をつけておき、数少ないチャンスで動くことが必要なのです。

よく分析し、下がったら買って、あとはひたすら待つ。これができれば、あなたも熟練の長期投資家になることができるでしょう。

image by:TK Kurikawa / Shutterstock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年4月21日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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