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2016年は高値波乱も~「7月参院選にらみ無策ではあり得ない安倍政権」=山崎和邦

投資歴54年の山崎和邦氏が思い出の投機家や重大事件を振り返る本連載、今回のテーマは「東京株式市場~2015年の振り返りと2016年の展望」です。展望では(1)政権連動相場 (2)海外投資家動向 (3)日経新聞恒例「20氏アンケート」の3つの観点から2016年の相場を占います。

東京株式市場~2015年の振り返りと2016年の展望

「壮年期」真っ直中のアベノミクス相場

2015年は、所謂「アベノミクス相場」の壮年期の年であった。

青春期は一昨年の5月23日、始動期から約1.8倍の15,943円を以て天井を為し、3,500円安という派手な完結式を挙行して終わった。当日は後場だけで1,000円以上下げた。そこからあとは壮年期相場へ移行する強含み保ち合いであり、2015年はまさに壮年期相場であった。

「青春期相場」は、世間の実相は未だ暗いうちに、雪の中に芽を出した雪割り草の一片を見て近い将来の春爛漫を想像する。それは峻厳なる現実でなく豊富なる想像の世界だ。故にアバタも笑窪で何でも買う、何でも上がる、しかも青春期だから猛烈に買う。

衆院解散の決まった12年11月14日がアベノミクス相場の始動日であり8,665円だったが、僅か半年で1.8倍を超えた。これが以前に本連載でも取り上げた木佐森吉太郎氏の言う「観念相場」である。

当時、麻生財務大臣は「期待先行で(円安に)持って行く」と言ったものだが、確かに麻生さんの言った通り、円ドル相場は1円の介入もなしに80円から100円になった。株も為替相場もこれこそが「観念相場」であり「期待先行」であり「青春期相場」の本質である。みな同じ意である。

それからあとの相場が壮年期相場である。現実を見ながら、そろりそろりと躊躇いながら進む

筆者は2015年6月~8月の20,900円を以て、世間の評論家やストラテジストの大半が先行き強気な中ではあったが、これを「高値圏のくどい膠着」と見て「壮年期相場の大天井」と見なし、拙著メルマガでもそう述べてきた(因みに拙著メルマガは、昨年は『まぐまぐ大賞』の「金融経済(有料)」部門、今年は「MONEY VOICE」部門で第1位を受賞する結果を得た。これは多数の愛読者のおかげで望外の幸せであった)。

2015年、3つの特色

さて、今はこの大相場が始動してから3年と1ヶ月を経た。これほど長期間の内閣連動相場はこの半世紀に類を見ない。政策連動相場は1960年代の高度成長相場、65年夏~70年春までの「いざなぎ景気」相場、80年代の中曽根内閣の構造改革相場、小泉内閣時代の郵政改革相場等々があったが、今回ほど濃密な関係は他になかったと言えよう。

この政策連動相場は、全ての回において始動から大天井まで日経平均で2倍~2倍半前後であり、今回も2.4倍だった。「6月の20,943円÷12年11月14日の衆院解散決定日8,665円≒2.4」となる。

2倍~2倍半になった大相場は今回を除いて半世紀に5回あったが、今までの大相場の日柄は2年半~4年半であった。しかしながら、その内実は全ての回で大幅に異なる。今年は大相場の満3年を過ぎた年であり、本年の特色は次の3点に絞られる。

1. 日経平均が4本連続陽線、これは平成になって2回しかない

前回は小泉内閣の03年~06年の4本連続陽線、それと今回のみである。前々回は昭和の終わりから平成元年までさかのぼらねば4本連続陽線はない。

Next: 2. それにもかかわらず「This is Japan銘柄」の受難の年であった


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

2. それにもかかわらず「This is Japan銘柄」の受難の年であった

筆者が言う「This is Japan銘柄」とは「日本を代表するような優良企業で、海外に名が売れていて、発行株数も多く取引量も多く、よって海外ファンドも国内年金も必ず組み入れるような銘柄」を言う。代表はトヨタ、日立、東芝、三菱重工などである。

トヨタは年足で4年ぶりに陰線を為す可能性がある。今年1月の大発会の初値は7,565円だから、本稿前半を執筆時点(12月25日週末)の株価から82円高を為さねば4年ぶりの年足陰線を形成する。これは避けられる可能性があるが、他の「This is Japan銘柄」は年足陰線を避けられない。

日立は大発会の初値が901円だから、25日週末株価から231円高を為さねば年足陰線である。

東芝に至っては大発会の初値は516円。25日終値217円。時価総額も09年リーマンショックの傷跡の頃に戻った。全社規模の大々的な粉飾決算で株価は故郷(この大相場の始動点)に戻り、それを通り越して原始の森の中に彷徨いこんで行ってしまった。時価総額も1兆円になってしまった。年初来8%高の日経平均に逆行である。

三菱重工は大発会の初値が666円、25日終値が518円、あと3日で148円上がらねば年足陰線を為す。一時は世界の制空権を震撼せしめた零戦を生み(エンジンは今の富士重工だが)、いまだ史上最大である戦艦を生み、戦後工業技術の発信地となって世界に名を知られた三菱重工である。

東芝は事件性のものだが、事件がなくも今は480円であろう。

このような「This is Japan銘柄」の冴えない動きは、出来高の7割を海外勢が占める東京市場を支えてきた「世界的カネ余り現象」が転機を迎えたことの象徴であると言える。大相場というものは、木を見ず森を見て、大勢に乗りさえすれば「いい線」を行くものであった。だがこれからは、森も見て木も見る選択眼が要る。

3. 「アメリカ衰退論の始まり」の年だった

本当に「アメリカの世紀」は終わったのか?を問う始まりの年になった。「日経平均はNYダウの写真相場だ」と言われはじめて四半世紀以上を経るからには、彼の国の国内外の政治・経済・国際環境など市場に強く影響する要因を無視するわけにはいかない。経済は勿論のこと、政治・社会現象・文化・風土、世に有りて在るもの森羅万象ものみな全て、金融市場に影響しない物は何一つない、ということを筆者は実証的・経験的に承知しているからである。

そこでNYダウの下落率と日経平均株価の下落率の関係を見る。以下の表である。

NYダウ 日経平均(NY下落を予期し先行した年には括弧を附した)
87年8月~87年10月▲36% 87年10月~87年11月▲21%
90年7月~90年10月▲20% (90年1月)~90年10月▲48%
98年7月~98年10月▲22% (96年6月)~98年10月▲43%
00年3月~02年10月▲51% 00年4月~03年4月▲63%
07年10月~09年3月▲58% (07年7月)~09年3月▲61%

上記の通り、NYと東京市場は連動してきた。決してNYの影響力は縮小していない。

アメリカ衰退論の流行現象はオバマ大統領の2期目から始まった。世界の主導権を取るとはどういうことかを考えると、それは軍事だけではない。筆者の結論を先に述べれば「アメリカの世紀」は続くがそれは変容する、ということになる。2009年に、オバマ内閣で国務長官を務めたヒラリー・クリントンが発表したオバマ外交の基本方針は「スマートパワー」であり、それは「ハードパワーとソフトパワーの賢明な組み合わせ」であるとした。こういう「第3のパワー」を考慮に入れれば、安易にアメリカ衰退論に与しない方が聡明であろうということを以て、筆者の考え方の要約に替えたい。

地政学的要因があろうとなかろうと、市場経済を動かす力として需給に勝る要因はない。そこで事実上の要因を挙げれば、世界経済は原油・ドル・金(ゴールド)の上で動いている。この3つを制し得る国はアメリカしかない。アメリカは「軍事という暴力装置」だけでなく「市場」を使って「外交」を遂行する唯一の超大国として存続する。よって、アメリカ衰退論を本気で信ずる者は天に唾する者である、とまで本稿では言いたい。

Next: 2016年相場展望~3つの観点を通して「割り切る」ではなく「腹を固める」べし



2016年相場展望~3つの観点を通して「割り切る」ではなく「腹を固める」べし

経済予測とか相場予測の「通説」というものは、常に明るくて心地よいものである。本稿でも新年早々はそうしたいところだが、思ってもいないことを臨時に述べると、どこかで自己矛盾を来たし行き詰まるものであることを現職時代に何度も経験した。

そこでまた例によって、2016年の相場見通しについて3点、思ったままを書かせていただこう。

(1)今ほどの政権連動相場はかつてなく、7月選挙を前に無策で通る訳はない

政権連動相場は「見せ場」→「正念場」→それを力づくで押し通す「修羅場」→躓いて、或いは日柄満ちて「土壇場」…と進むものだ。そして「見せ場」は12年11月14日(衆院解散決定日)から15年夏の大天井までをもって、ひとまず第1幕(青春期相場編)と第2幕(壮年期相場編)の幕を下ろした。

株で言えば始動点から2.4倍。円相場は80円から120円台となり、日本の立地競争力の改善、生産や設備投資の国内回帰。いまだ不十分ながら賃上げ方向に舵が切られている。円安とビザ発給条件の緩和による海外からの観光客急増。最大成長産業の農政改革に中途半端ながら着手等々、政策は着々と進んではいる。株価構成の基本たる企業業績は史上最高を更新した。

そこで、2016年前半には老年期相場が花咲いて、小泉改革相場の時のように壮年期相場の高値を窺う場面まであるかもしれない(その場合15年6月~8月の20,900円を窺う展開となる)。原則として老年期相場は「出がらし」だから壮年期相場の高値を抜けないものではあるが、今ほどの政治連動型相場はないからだ。

7月のたぶん衆参両院選挙という一大政治イベントを、無策で通る安倍内閣ではない。兜町の格言では「ヒツジ辛抱、サル騒ぐ」と言うが、サル騒ぐ年となると2016年は高値波乱と見るべきか。

老年期相場が第2期青春期相場を懐妊し、アベノミクス相場の第2ラウンドが産まれるという見方もある。2016年前半は、日経平均は2万円近い高値圏を固め、6月末の株主総会シーズンに向けて増配や自社株買いなど株主還元策を打ち出す企業が相次げば、2016年前半は7月の衆参両院選までに高値を狙いに行く場面もあり得る。もっとも「サル騒ぐ年」は良く見ても前半高の後半安、となろうか。

(2)2016年、海外勢が今のままでは「見せ場」は再びは来ない

海外勢は2015年6月まで2兆6千億円を買い越した。13年の年間買い越しは15兆円で過去最高だった。これが先の「見せ場」における「第1幕・2幕」を作出した。

ところが今年は年初から12月第3週までの累計では2300億円の売り越しだった。年後半が大幅売り越しになった勘定でまさに「ヒツジ辛抱」の本領発揮という格好であった。

年間売り越しは08年リーマンショックの年から7年ぶりのことである。売買高の6~7割を占める海外勢がこれでは「見せ場」は再びは来ない。国内個人はシタタカで、決して高値々々とは買ってこないからだ。誰かが高値々々と買ってくれなければ新高値はとれない、当たり前だ。

兜町では「需給に勝る材料なし」と言う。この売りを吸収してくれたのは国内法人の自社株買いで、3兆円弱であった。「自社株買いは縮小均衡の志であって褒めたものではない」が筆者の言い分だったが、市場では歓迎されるべきものとして通ったし、現に大量の海外売りを吸収した。

年金基金は1.6兆円と2年連続の買い越しだが、なんと言っても重要なのはやはり海外勢であり、その売り越しが気にかかる。

Next: (3)日経新聞恒例の「20氏アンケート」過去数十年分から分かること



(3)日経新聞恒例の「20氏アンケート」過去数十年分から分かること

半世紀以上続いてきた慣例で、日経新聞は毎年1月3日に各界著名氏20人のアンケートを写真入りで発表する。筆者はこれを20~30年分くらいは保存していて、「何がどうなればどういう年になるか」を興味本位に振り返って見るクセが30~40年くらい前からあった。

このアンケートの過去数十年間分を振り返って、おおむねの傾向が見えてきた。

もちろんアンケートの回答には各氏のポジショントークも含まれよう。例えば大規模な設備投資をする、或いは大型公募増資をする意向のある社長なら敢えて強気を言うだろうし、あまり強気を言うと春闘でヤラれるから程々にしておこう、といった逆の判断もあるだろう。そんなことは百も承知の上で長年観察し続けることで、下記のことが見えてきたのである(尚、本稿後半部分は12月28日に執筆しているから、2016年1月3日付の20氏アンケートの結果はまだ知らない)。

  1. 日経平均の高値・安値・時期については概ね全員が当たらない
  2. だが殆ど全員が高値とその時期を的中させた年が過去50年間に3度だけあった

この的中は1972年と1989年、そして2015年であった。1972年と1989年は、その翌年に大変なことが起きた。3度目の的中年である2015年の翌年にあたるのが、来る2016年ということになる。

まず、1972年は概ね全員が的中した。全員が1月安値、12月最高値と予測して、正しくその通りになった。その翌年73年は、2倍半になった過剰流動性相場の終焉を予見してか、1月下旬から大幅急落、そのまま弱含み、10月には第1次オイルショックを迎えて高度成長は終焉し、翌年には日経平均は前年高値の6割レベルまで下落した。池田勇人内閣における所得倍増計画で高度成長の理論的支柱であった下村治博士は一転して「ゼロ成長論」に転向した(これを「安定成長」と表現した)。

次に、1989年も概ね全員が的中した。全員が12月高値を予測し、大バブル相場を形成して12月末日に史上最高値を示現した。その翌年、90年は正月明けの大発会から大蔵省の「営業特金口座の半強制的売り指令」を契機として大幅暴落、日経平均はあっという間に1万円幅を下げ、9ヶ月後には半値になってしまった。所謂バブル崩壊、「失われた20年」の始まりだった。

そして3度目の的中が2015年1月3日の20氏アンケート。この日は20人中の17人が「12月高値」、高値は殆ど全員が「2万1千円」であった。最高値は6月の20,900円だったが、12月1日に20,012円があった。

そこで「2度あることは3度ある」から言えば、こういう年の翌年、つまり2016年は何か大きな変事が起きることになる。

「いや、50年間で僅か2度の例で結論を出すのは至当ではない。今度は違う。企業業績も良いし、日銀もカードを切っていない。夏に衆参両院選挙もある。故に今度は違う」という見方もある。

これに対しては、ジョン・テンプルトンの遺言が格好だろう。曰く、「4つの単語で出来たセンテンスで投資家に最も損させるセンテンスはこれだ、“This time is different.”」と――。

Next: 2016年の相場見通しまとめ~「二見に堕す」なかれ



2016年の相場見通しまとめ~「二見に堕す」なかれ

さて、2016年の相場見通しをここまで書いて、

  1. 政権連動相場と7月衆参両院選挙…強含み
  2. 海外勢の売買動向…弱含み
  3. 日経新聞「20氏アンケート」…弱含み

となった。

では結局、山崎和邦は強気なのか、弱気なのか?一体お前はどっちなんだ、と読者諸賢は言いたくなったであろう。

そこで、また僭越なことを言わせてもらう。

甲か乙か、いずれかに早急に決めようとするのは「二見に堕す」(にけんにだす)と言って避けるべきことだと従前より述べてきた。禅語である。これは「知性」の放棄を意味する。

正解がある問題は「知能」良きものが解を得る。一方で、正解なき問いに対して解を得ようという強靭な格闘力を「知性」と言うのだ。加えて言えば、甲論乙駁(こうろんおつばく)する果てしなき闘いの結果こそが知性というものであろう。

投資に必須となるのは「知能」でなく「知性」である。簡単に割り切ろうとするのは知性の放棄である。解を得ようとして焦るのではなく、ないかもしれない解を求め続けていく、その問いにこそ意義がある。

簡単に「割り切る」のではなく、(見極めてやろうという)「腹を固める」ことこそ、新春を迎えるにあたっての好ましい「知性」のあり方であると信ずる。

経済予測、相場予測における通説は多くの場合、読者諸賢に安心感と心地よさを与えてくれるものだ。そうでなければモノが売れない。私はそれを承知で、ここではホンネを述べたつもりである。

正月早々から僭越な内容となってしまった。だが、それが本稿の嫌味であり持ち味であるとして願わくば諸賢、了とされたい、御容赦を賜りたい。

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