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目先リスク残るも、年央に向けて上昇が見込める日経平均株価=馬渕治好

年初からの大幅な株安・円高について多くのマスコミからコメントを求められており、またテレビ出演等もあります。そこでは、一貫して同じ見解をご説明しておりますが、その内容を、本日(1/7、木)、メモ「風花」としてまとめました。

その内容を、メールマガジン読者の方々のために、下記に転載しました。通常のメールマガジンと文体が異なりますが、ご寛容ください。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

日本株は売られすぎ~中国の売買停止で日経先物にヘッジ売りも

「慎重な強気姿勢」が望まれる局面

足元の国内株式市場は、売られ過ぎがさらに売られ過ぎになっていると思われる。このため、中期的には(たとえば今年央にかけては)日経平均株価は企業収益の増加に沿って上昇し、2万円を大きく超えてくるものと予想している。

ただし短期的には、さらに売られ過ぎになった市場がもっと売られ過ぎになってしまう、ということはよくある(市場心理がパニックになり、合理的な判断ができなくなるため)。正直言って、どこまで売られ過ぎるのか、正確にはわからない(外貨の対円相場も同様)。

このため、レバレッジをかけた投資(信用取引やレバレッジの高いFX取引など)は避け、(1)追加投資できる現金があれば、少しずつ分散して株式や外貨を買い、(2)株式や外貨を買い持ちはしているが追加投資の現金がない場合は、保有したまま株価や外貨相場の回復を待つ、といった投資姿勢を薦めたい。

まず、足元の株価水準が売られ過ぎだという背景だが、オーソドックスにPER(予想ベース、ファクトセットによる)をみると、最近は主に13~16倍で推移していた。中心値が14.5倍ということになるが、既に1/1(金)に終わる週(実際には12/28(月)~12/30(水)の平均)では、14.1倍まで低下し、中心値を下回っている(さらに1/7(木)時点では、13.4倍程度まで低下していると推察され、昨年の週平均ベースの最低値である13.1倍に近い)。

短期的な底打ちのサインとして知られる騰落レシオ(25日ベース)は、80%割れが底打ちのメドと言われるが、1/6(水)時点では、銘柄数ベースで76.1%、出来高ベースで66.8%と、80%を割り込んでおり、売られ過ぎを示している(昨年の最低値は、9/24における、銘柄数ベース64.5%、出来高ベース59.4%)。

ただし述べたように、売られ過ぎがさらに売られ過ぎになったものが、短期的にはもっと売られ過ぎになることはありうるので、慎重な強気姿勢が望まれる。

そのように株価の売られ過ぎ(並びに外貨の対円相場の売られ過ぎ)を招いた要因としては下記のようなものが挙げられるが、ことごとく日米欧など主要国の経済実態に影響を与えるようなものではなく、騒ぎ過ぎの感が強い。

(1)中国株価の下落

中国株は今週に入って大幅な下落をみせ、1/4(月)と1/7(木)に、サーキットブレーカーが発動した(中国の株価指数CSI300(上海と深センの両取引所の銘柄から構成される株価指数)の下落率が7%を超えたため、両取引所の株式取引が全て終日停止された)。

これは確かに株安要因かもしれないが、奇妙なことは、たとえば1/4(月)の各国の株価指数騰落率をみると、日経平均株価の前日比下落率は3.1%と、TOPIXの2.4%より大きかった。加えて、中国経済の影響が強いはずの台湾(加権指数、2.7%下落)、香港(ハンセン指数、2.7%下落)、韓国(韓国総合指数、2.2%)より、日経平均株価の下落率が大きい状況だった。

これは、中国株の下落を恐れた投資家が、売買停止で売りたくても売れないため、ヘッジ(損失回避)のため、流動性が高い(売買高が多く、規制が少なくて、換金が容易な)日経平均先物を代わりに売ったものと推察される。

また、中国株の背景として挙げられる中国経済の悪化は、今さら騒ぐような材料ではない。1/4(月)の中国株価の下落は、12月分の中国製造業の業況感指数(財新PMI、旧HSBC製造業業況感指数)が48.2と、11月の48.6から悪化したことがきっかけと言われている。しかし最近の最低値(2015年9月の47.2)を底抜けたわけでもなく、やはり騒ぎ過ぎ感が強い。

もし中国株の状況が最大の悪材料である、というのであれば、1/6(水)には上海総合指数など、中国の株価指数は上昇したのであるから、日本株も上がってしかるべしだ。しかし中国株が下がれば「中国株が下がって大変だ」と騒ぎ、中国株が上がれば「そんなことは知りません、とにかく日本株を売ります」という状態に陥っていること自体が、日本株の売られ過ぎを示していると言える。

Next: 地政学的リスク、円高の観点でも日本株はやはり売られすぎ



(2)地政学的リスク

1/3(日)のサウジアラビアのイランとの外交断絶や、1/6(水)の北朝鮮の水爆実験(と北朝鮮は言っている)が、株安要因として挙げられている。

もちろん、それぞれ株の好材料ではありえないが、サウジアラビアとイランが一戦構えるわけではなく、北朝鮮がすぐにどこかに攻め入るわけでもない。

サウジアラビアの外交断絶は、原油価格を上げたいための策だという説も聞くが、うがちすぎだろう。実態は、前アブドラ国王死去(2015年1月)以降、内部の主導権争いが激化し、功をはやってのシーア派死刑執行が急きょ行われた、との観測もある。

実際、そうした背景事情を見抜いた原油市場では、過剰気味な原油供給状況に大きな変化はないとして、原油価格の軟化が続いている。それで米国のエネルギー業種の株価が売られるのはわかるとしても、原油輸入国である日本株が売られるのはやり過ぎだ。

しかし、「原油安→日本株安」というやり過ぎは昨年終わりころから続いており、市場心理がこうした根拠なき株安の恐れにとらわれていると推察される。

(3)円高

ほぼ全面的な円高が進み、米ドルの対円相場は一時117円台に突入した。

円高が生じるような正当な理由はなく、市場では「リスク回避のための円高」と言われている。1/6(水)の北朝鮮の核実験も「リスク回避のための円高」の一要因として挙げられているが、北朝鮮に近い韓国ウォンが売られて、ウォン安・円高になるのはうなずけるとしても、北朝鮮から遠い欧米の米ドルやユーロが売られ、北朝鮮に近い日本の円が買われるのは理不尽だ。

また、今週は中国が元相場の基準値を安い方向へ動かしており、これが円高要因だと言う向きもあるようだ。しかし中国元安で、中国が輸出競争力を増し、日本が競争上不利になるのであれば、円安になるはずだ。

このように、「とにかくどの国、どの地域のどんなリスクでも、『リスク回避のための円高』なのだから円を買う」ということになってしまえば、日本株が世界で最も大きく暴落しても、富士山が噴火しても、日本が沈没しても、そうした投資家は円を買うのだろう。こうした投資家を、「パブロフの犬」 と呼ぶそうだ。

こうした反射神経的な円買いは、全く理不尽ではあるが、過去にそうした円買いの例は多々ある。このため、まだ短期的に、一段の円高が進む可能性は否定できない。ただし、もちろん実態に反しているので、円高は長続きはしないだろう。

【関連】サーキットブレーカー制度を緊急停止、中国を追い詰めた悪循環の仕組み=久保田博幸

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年1月7日号外)より
※チャートと太字はMONEY VOICE編集部による

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