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波乱の年末年始~NY市場と東京市場の「記録づくし」は何を象徴するか?=山崎和邦

東京株式市場は大発会から大幅下落、この新年早々の5日連続安は戦後初めてのことです。またNYダウも120年間で初の「大統領選前年の年足陰線」をつけました。今回は特別編として「市場に起きることは、情緒面まで含めて無意味な物は何ひとつない」という山崎氏の見解をご紹介します。

山崎和邦 週報『投機の流儀』vol.188 2016/1/10号より、マネーボイス編集部にて再構成

NY市場と東京市場の「記録づくし」は何を象徴するか

戦後初の新年5日連続安、NYダウも初の大統領選前年の年足陰線

1月8日(金)のミニSQは17,420.01円と市場にない価格で決まり、いわゆる「幻のSQ値」となった。

新年早々5日連続安は戦後初めて、証券取引所開所以来67年ぶりのこと、新年4日連続安も1995年以来、25年間なかった。あの年は1月に阪神大震災、3月に地下鉄サリン事件という無差別殺人テロを“世界に先駆けた”年となった。一方で、「失われた20年」を意識し始めて、初めて不良債権の認識が社会に表面化した。住専に対する僅か数千億円の公的資金投入を反対した“ささやかなデモ”が議事堂周辺をうろついていた秋だった。

このように、新年4日連続でも象徴的なことだったものが5日連続安となった。年末のNY市場の記録(大統領選の前年は必ずNYダウは年足陽線というジンクスが破れた)と言い、今回の東京市場の記録と言い、何を象徴しているのか、である。

1989年、平成バブルの大天井の年、年間を通しては海外勢は売り越しだった。昨年も前半は買い越しだったが、通年では売り越しだった。海外勢の通年売り越しの翌年(1990年)の大発会は大幅暴落で始まった。それを意識し今年の大発会は大幅下げで始まった、とも言える。

何度も述べるとおり、市場は過去を記憶して連載ものとして動く。

もっとも、1990年の大発会は当時の大蔵省証券局の強制的売り指令による暴落だった。「営業特金」と業界で称された大企業の資金の売買一任勘定を「即刻中止せよ、損が出たら弁償してでも中止せよ」とした、損失補填奨励付きの行政指導と称する事実上の強制である。

このことを野村の株主総会で田淵義久社長(小タブ)がバラしたので「損失補填の不祥事件」とされて闇から闇に葬られた。

その後ほとぼりが冷め、2007年11月2日付日経新聞「私の履歴書」で、野村の田淵節也(大タブ)が「あの時の大蔵省のやり方には僕も腸が煮えくり返る思いだ」と言った時には実に16年が経っていた。

だから、1990年の新年大暴落は別の要因である。だが市場は過去を記憶して動く。「海外勢の通年売り越しの翌年は大発会から大暴落だ」と史上に刻まれる、そしてそう動く。

ところで、ここ週末で言えば、25日線との乖離は7.1%、騰落レシオは67%台、カラ売り比率は43%という記録的数値、VIX指数も記録的レベル、新年早々5日連続安は戦後初めて。

このように1月8日(木)は、短期指標で言えば目先は底入れが近いことを示唆していた。

また、特筆すべきは、年明け5日連続安となったものの、日経平均の日足チャート上のローソク足は年明け初の陽線となった。短期的な行き過ぎに対する変化の動きも出よう。

NYダウは昨年の大発会の始まり値が17,823ドル、大納会の終値が大発会を下回って年足で陰線になった。大統領選の前年は必ずNYダウは年足陽線だという長い歴史を塗り替えた。NYダウ120年のジンクスが破れた。

これは何かの吉兆か凶兆か。

大発会の一時600円安はリーマンショック以降の発会では最大下げ幅で、「サル騒ぐ年」と古くから言い伝えられているサル年の大発会としては誠に似つかわしかったではないか、と言いたい。

これで大発会は3年連続で下降で始まったことになった。故に、これを以てどうこう言うことはできないが、今、気になることは、年末の問題で(今は誰も言わないが)「NYダウが大統領選の前年は年足陽線だ」という120年間のジンクスを破って陰線を為して終わったということと、戦後初の大発会以降の5日連続安である。何を象徴しているか、である。

市場に起きることは、情緒面まで含めて無意味な物は何ひとつない。

Next: 日本市場は大相場のサイクルから見れば楽観的になれないが


山崎和邦(やまざきかずくに)

1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院特任教授、同大学名誉教授。

大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴54年、前半は野村證券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。

趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12を30年堅持したが今は18)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。

著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)、「株で4倍儲ける本」(中経出版)、近著3刷重版「常識力で勝つ 超正統派株式投資法」(角川学芸出版)等。

日本市場は大相場のサイクルから見れば必ずしも楽観的になれないが

今、日・米・欧・途上国・産油国を比較して相対的に一番明るいのは日本であろう。少なくも目先的には、であるが。

原油安のメリットがタイムラグを以て企業業績や設備投資に顕在化するであろうし、1月4日から開催される通常国会では夏の参院選(場合によっては両院選)に向けた景気刺激策を出すであろう。

ただ気になることは、この半世紀で日経平均が2倍か2倍半になる大相場は今回を含めて6回目だが、過去5回は日柄は2年~4年半であった。そして今回の6回目は2.4倍になり日柄は3年2か月を経た。

NYはダウ平均が2倍以上になる大相場は5回あったが、日柄は4年~6年だ。今回5回目は3倍になって6年8カ月を経た。

大相場のサイクルから見れば必ずしも楽観的ではない。

海外から見た日本株のもう一つの魅力

我々には実感ないが海外から見た日本株の魅力というものがある。

筆者の知人で年金を2,000億円ほど預かって運用している投資顧問会社がある。殆ど全員が野村証券のOBである。その運用部長が500億円の利益を上げてその2割を成功報酬としてもらい、「年収100億円のサラリーマン」と週刊誌やテレビで騒がれて迷惑したのは2006年のことだった。

筆者が時々、世界のヘッジファンドは約8,000本あるとか、そのうちの大半は3年半で破綻して解散になるという話はそこから得たものである。

今また、そこから得た話を要約する。

日本株を保有するファンドの本数が増加しているという。特に海外の投資家が日本を無視できなくなった証左だという。日・米・欧州・途上国にわたってもっとも安定しているのが日本だからであろうか。

今年は外国勢の日本株売り越しは7年ぶりだ。だが、日本株を組み入れるファンドの本数は前年比で15%前後増えているという。

彼らの日本株の見方は、日本企業の堅調な業績と企業統治の改善に加えて、3つめの魅力として出来高が多く市場流動性に富んでいることがあるらしい。海外勢は途上国への投資に比して日本株の流動性を再認識したであろう。

筆者が14年前にべトナムへ行ってみた時に終戦直後の日本の混沌と活気を感じ、この中から将来のソニーやホンダが出ると直感したが、銘柄別には不詳だったからベトナム株投信ができたので直ぐに買った、そしたら11カ月で1.9倍になったから利食いしようとしたら、日本人の利食いだけでベトナム市場を壊すから2年間は売り禁止だという定款がついていて売れなかった。買う時は無論承知して買ったのだろうが忘れていた。その時に市場流動性の重要さをしみじみ知った。

例えば中国のような大国でも政府が7月以降は株価指数先物のヘッジ売りを禁止したりした。途上国は流動性に乏しい。日本にはそれがない。特に筆者が「This is Japan銘柄」と称する代表格銘柄の売買金額、売買株数は世界1、2位である。

Next: 世界株安2つの要因~中国経済と資源国債券不安



世界株安2つの要因~中国経済と資源国債券不安

世界株安の要因としては、圧倒的に中国であろう。株式ととともに年初早々人民元安も進行している。

北朝鮮の核実験、サウジとイランの国交断絶、ロシアトルコ間の緊張など地政学不安の高まりと材料に事欠かない。

同時に、世界は米利上げ後の米経済の足取りを不安視しているのだ。失業保険の申し込みで集計する雇用統計は年末の1週間で2万件増加した。

世界は米経済と新興国経済と原油とを見ている。

大発会の途中、中国株式市場で創設直後のサーキットブレーカーが作動し取引停止が伝わった。これをもって日経平均の下げが広がったが、多分に情緒的だと筆者は思う。

中国の金融市場の現象は、かつてシャドウバンキング騒動の時も本稿で述べたとおり地域限定的なものである。サブプライムのように格付けまでされて世界中に蔓延するものではない。問題は、中国の金融市場の現象ではなく、それが象徴する中国の実体経済の動向なのである。

中国は米に次ぐ巨体だから倒れたら跨いで前へ進めないからだ。これは日本の輸出先として最大な物だから大いに効くことは間違いない。だが、それは実勢として効いてくるのであって、金融市場のように秒速で拡大伝播されるものではない。実勢悪として企業決算等にドラスティックに効く可能性はある。元安円高も対中貿易に大いに不利になる。実体として効いてくる。金融市場の神経機能とは別である。

米雇用の大幅な伸びを打ち消す中国経済と資源国債券不安

先週末、日本市場が閉まってからの米雇用統計で、市場予測20万人を大幅に上回る29万人強が発表された。NYダウが300ドル高くらいしても良い話だったが、結果は高寄り後に安く引けている。

中国経済の崩壊がよほど怖いのだろう。また新興諸国の債券への警戒もある。北朝鮮の水爆実験はNY市場では所詮はハッタリだと思われているだろうから殆ど材料にはならない。

原油の長期下落、新興諸国経済の不安、色々ある中で、今の世界市場にとって最大の実体経済の問題は中国だ。

一方で金融市場の問題は新興諸国の債券不安である。破綻リスクを取引するCDS市場では昨年末比で見る限り、対中国よりもブラジル、南アフリカのような資源国の方が上昇幅が大きい(リスク大と目されている)。

Next: 日経新聞年始の20氏アンケートはネガティヴ・インディケーター



日経新聞年始の20氏アンケートはネガティヴ・インディケーター

9月末~12月高値の上げ幅の黄金分割比が約18,100円。日経新聞年始の著名20氏アンケートによる今年安値の「占い」はこれを通り越して、年初4日間で達成されてオツリが来たことになる。

昨年9月29日、17,000円割れの日、且つ、あと100円で高値から20%下げの日(高値から20%下げはNYダウ創設以来120年間で23回で、これを以て趨勢変化と見なす)、この日から、12月1日の戻り高値20,012円までの上げ幅の黄金分割比が約18,100円となる。これが6日の安値と概ね合致すると思っていた。(20,012-16,961円)×0.618=1,885円。20,012-1,885円≒6日の安値となって概ね符合する。ところが翌7日(木)に再び上海でサーキットブレイカーが掛って日経平均は下げ幅を拡大した。

円安・原油安の効果は計量経済的に見れば国内企業の15年決算だけで10兆円を越えるだろう。大きい。が、これからは全体的にマクロで効いてくることは少なくなる。本稿で嘗てから述べてきた(時価総額÷GDP)の比率が120%に近いし、また(時価総額÷個人現預金)の比率が既に60%を超えている。前者は「バフェット指数」と言われるもので100%を時価総額の過熱圏内、120%を大天井としてきた。既に100%は超えている。

後者は約50年前に筆者が気づいて計測してきたもので、経済学上の「マーシャルのk」(GDP÷マネタリーベース)を(時価総額÷個人現預金)に置き換えて30%前後を大底とし60%前後を大天井としてきたもので、半世紀に8回あったが7回は的中していた(セミナーではグラフで示した)。

こういうマクロの指標で言えば株は買えない時期となる。ところが日経新聞の20氏アンケートでは皆が2万2千円以上を言うし、日経ヴェリタスの64人の市場関係者でも似たことを言う。これらはマクロ指標を敢えて無視してミクロの企業業績向上(PER)、企業価値の向上(PBR)、企業ガバナンスの向上(ただし「社外取締役の増員」は実質的にはあまり意味がないことが多い)等を海外筋が評価するであろうという「期待」である。

相場は期待通りに動くこともあるし動かないこともある。「必ず期待の反対に出る」と実証的検証なしに単に情緒的に言い切る人も多く、そう分かっていればネガティヴ・インディケーターとして機能するが、必ずしもそういう訳ではない。現に安倍内閣発足からは期待通りに日経平均は2.4倍に、円ドル相場は5割高と、まさしく期待通りとなった。

日本市場の大発会は前場のうちに約500円安と、90年の発会を連想させる発会になった。これは何を意味するか、である。日米とも大幅安は、イエレン女史も予定通りの出口戦略は難しいと思ったろう。

正月の20氏のアンケートは、半世紀の慣習を変えて1月3日を元旦に変えた。これによれば今年安値は20人中の15人が18,000円と言う。ということはこの安値は50分の47の確率で「当たらない」ということになる(筆者は50年間、毎年保存して20人の的否を見てきた)。

「安値18,000円は当たらない」となればその下は、強いて言えば9月末の16,961円をW底とする、または、さらに下は強いて言えば15,701円の窓埋めである(2014年10月末の黒田バズーカ砲3の時の急騰の時の窓が15,701円から200円幅である)。

筆者が20氏のアンケートで注目するのはサラリーマン社長でなくオーナー社長だが、今年は日本電産の永守さんしか出てない(前者は企画部とか調査部とかに意見を聞いて無難に答える人が多い。信越化学の金川さんには注目してきたが今年は「人並みな外れ予想」をしていた。

そして普通は「年内最高値は12月」と言うのが常識だが今年は年央が6人居た。7月選挙を意識してのことだろう。

いずれにしても、この20氏のアンケートは50分の47の確率でネガティヴ・インディケーターになる。50年間で1972年と89年とは概ね全員が的中して翌年は大波乱が起きたと既報で述べた。2015年も概ねが的中していたので、今年は高値波乱かと既述した。

【関連】2016年は高値波乱も~「7月参院選にらみ無策ではあり得ない安倍政権」=山崎和邦

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