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中国発「逆オイルショック」はこれからが本番だ~高まる世界デフレリスク

今回の世界市場波乱は、L.サマーズ教授も指摘するように中国不安が震源地となっています。世界デフレのリスクが高まり、米国の利上げ戦略は厳しくなります。(『マンさんの経済あらかると』)

「逆オイルショック」による世界景気の後退リスクが高まっている

震源地は中国。早くも米国株には悲観的な見方も

2016年は波乱の幕開けとなりました。

日本株は大発会から6日続落となりましたが、これは戦後初めての体験です。

米国では年初の株価の方向がその年全体の方向を示唆すると言われるので、今年の米国株には早くも悲観的な見方が広がっています。

ハーバード大学のL.サマーズ教授は、11日のFT紙で、市場は政策当局よりも素早く危機を察知する、と警報を発しています。

今回の世界市場波乱は、サマーズ教授も指摘するように、中国不安が震源地となっています。教授に言わせると、この1年の中国の経済成長のうち20%が金融セクターによるもので、これは金融立国の英国並みでとても持続可能ではないこと、巨大な債務の積み上げによる成長も、健全でないばかりか、これも持続不能で、中国経済の減速懸念は当然と見ます。

中国の生産者物価(PPI)は昨年12月まで46か月連続でマイナスとなり、しかもマイナス幅が次第に大きくなって、デフレの深刻化を示唆しています。このデフレをもたらした異常な供給過剰に関するエピソードは枚挙にいとまがありません。

中国で11年から13年までの間に消費されたセメント、コンクリートの量は、米国が20世紀中に消費した量を上回るといいます。

中国政府はこのデフレを何とか抑制したいのですが、うまい手がありません。財政面からの需要追加も、中国の債務全体がすでにGDPの300%を超えたとの試算もあり、政府債務こそ欧米より少ないと言っても、地方や国有企業などの「準政府債務」は政府債務を上回ると言われます。財政からの対応余地はあまりないようです。

中国は人民元安を放置せざるを得ない

そこで金融緩和、通貨安の組み合わせとなりますが、これがまた波紋を呼びます。

デフレで実質金利が高くなっているので利下げをしたいのですが、これは通貨に下げ圧力となります。通貨安自体は輸入デフレを緩和し、輸出競争力を高め、確かにデフレ回避にプラスと見えます。

また当局としては、人民元の下落を放置せざるを得ない事情もあります。

例えば、中国の外貨準備高は14年6月に4兆ドル手前まで高まりましたが、昨年末には3.3兆ドルと急減、特に為替介入によって8月以降大きく減少しています。このまま減少が続けば、介入にも限界があるとみられ、投機筋に狙われやすくなります。

しかも、昨年11月にはIMFが人民元のSDR構成通貨入りを条件付きで承認しました。このため、中国としては為替市場や資本取引での規制を緩めざるを得ず、為替介入も限定的とならざるを得ません

このため、米系ファンドも含め、市場では人民元の先安観が強まっています。ゴールドマンやモルスタは、相次いで年末の人民元の予想を1ドル7元に引き下げました。

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中国が世界にデフレを輸出する2016年

しかし、今の中国で人民元の下落を放置することは、副作用も大きくなります。

まず、これまで中国に投資していた外資が、人民元が安くなる前に引き揚げようとします。また中国人自身も、先行き減価が見込まれる人民元の海外逃避を強めます。

サマーズ教授は、一国の将来は経験則から、自国民が自国通貨を国内に留めるか、海外に逃避するかで読める、と言います。

資本流出は通貨安促進、金融ひっ迫要因となりますが、人民元の下落が「近隣窮乏化」を招き、世界にデフレを輸出することになります。そして昨今のように、人民元の下落は世界の株式市場を動揺させます。

それでも中国経済が救われるのであれば良いのですが、外貨建て債務に多くを依存する中国企業には、元安が返済負担を高め、経営を圧迫することになります。

原油1バレル10ドル説も

それだけではありません。中国経済の悪化は原油や資源需要を弱め、価格下落要因となり、人民元安・ドル高も原油安要因となるので、すでにバレル30ドル近辺まで下げている原油価格がさらに下落する可能性を秘めています。

香港のスタンダード・チャータード銀行は、1バレル10ドルまで下落する可能性がある、と言います。

原油価格がさらに下がると、産油国、資源国の経済は一段と悪化し、ロシア、ブラジル、ベネズエラなどのGDPは昨年以上の大幅マイナス成長となり、中東経済や米国のシェール企業がたちいかなくなります。

石油ショックで世界が景気後退に陥ったことはありますが、今年は逆石油ショックで世界景気が後退するリスクが高まります。

それだけ世界デフレのリスクが高まり、米国の利上げ戦略は厳しくなります。それでも、ネオコンの圧力で中国、新興国つぶしを意図した利上げが継続されるリスクはあり、それが中国など新興国のみならず、世界の景気悪化につながる懸念があります。

金融政策の効果に非対称性があるため、米国の引き締めを日欧の追加緩和ではカバーできません。

米国の主導権を、中国にタフなネオコンが握るのか、中国に優しいCFRが握るかで大きく変わりますが、いずれにしても今年はいよいよ中国経済の混乱が、世界経済の台風の目になりそうです。

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マンさんの経済あらかると』(2016年1月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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