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誰が売って誰が買うのか?2016年日本株「下落と上昇の要素」6つ=吉田繁治

今回のテーマは年初来の株価下落と2016年の見通しです。15年12月末の1万9000円から1万7500円付近(13日:前場)まで、1500円(約8%)下げています。近年、株価とピタリ逆に動く円相場は、年末の$1=121円水準から、今日は117.95円です。ほぼ3円(2.5%)の円高になっています。

原油と資源価格下落、及び昨年12月のFRBの利上げ(0.25%)を主因に、世界のマネーの流れが、大きく変わってきました。中国経済の減速と言われますが、その要因はむしろ少ないでしょう。奔流は、世界から米ドル(米国債)へ回帰する動きです。

FRBの利上げの「語られない目的」は、2008年末以降3度の量的緩和(金額では$4兆:480兆円)というマネー投入によって発生した資産バブル(株価と不動産)を、崩壊しない前につぶしておくことでした。FRBの狙い通り、まず株価が下落調整になっていると言えます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

1.年初来の株価の変調~誰が買い、誰が売ったか?

2012年からの主体別買い超、売り超の大きな動きを確認する

中国の株価下落(上海総合)、北朝鮮の核実験、イランとサウジの断交、IS(イスラム国)のテロ、原油・資源価格の下落、米国FRBの利上げなど、メディアでは、いろんな理由が言われています。もちろん、それぞれの理由はある。

肝心なことは、誰が買い、誰が売ったかです。売買の行動にならない限り、株価も為替相場も動かないからです。

まず過去4年の、投資主体別の売買を見てみます。プラスは買い超、マイナスは売り超です。買い超は株価を上げる要素であり、売り超は下げる要素です。

表を見ると、過去4年、どの主体が買って上がり、どの主体が売って下がったか、わかります。

2012年 2013年 2014年 2015年
外国人 2.8兆円 15.1兆円 0.9兆円 -0.3兆円
自己 0.3兆円 -0.6兆円 0.3兆円 1.6兆円
個人 -1.9兆円 -8.8兆円 -3.6兆円 -5.0兆円
投資信託 0.4兆円 -0.2兆円 -0.2兆円 0.2兆円
信託銀 -1.0兆円 -4.0兆円 2.8兆円 2.0兆円
事業法人 0.4兆円 0.6兆円 1.1兆円 3.0兆円
生損保 -0.7兆円 -1.1兆円 -0.5兆円 -0.6兆円
都銀等 -0.1兆円 -0.3兆円 -0.1兆円 -0.6兆円
日経平均 1.0万円 1.6万円 1.6万円 1.9万円

(注)日経平均は、該当年の12月末の株価指数(日経225)
出典:投資家主体別売買動向表 – 安藤証券

主体別売買への4つのコメント

(1)「自己売買」は、証券会社の売買の受託ではない自分での売買です。この中には、日銀による株式上場投信(ETF)の買い(3.3兆円/年)による、現物株の買いが混じっています。

(2)信託銀の売買には、公的年金基金GPIFの売買が混じっています。

上記の自己売買と信託銀の買い超が、2014年10月からの追加緩和以降の「官製相場」を作ってきました。上表の日経平均では、この官製相場分は、1万6000円→1万9000円、つまり3000円(19%)の上昇という結果です。

ここ4年の株式相場の動きと理由としては、2013年の1万円から1万6000円への60%上昇は、外国人投資家の、年間15.1兆円の買い超によるものでした。2014年の1万6000円から2015年の1万9000円への19%上昇は、年金基金、公務員共済年金、郵貯、かんぽ、日銀が買い進んだ官製相場でした。

(3)2014年から増えてきた事業法人の買いは、ほとんどが、わが国でも増加した「自社株買い」です。

2015年には、3兆円の買い超になり、2015年の株価を3000円(19%)上げた、もっとも大きな要素になっています。米国流のROE経営(=株価上昇経営)を行えという米国からの要請による2015年のわが国の株価(3000円上昇:19%)は、官製相場と自社株買いが原因です。

(4)わが国の生保と銀行は、2000年代はリスク資産の持ち合い解消を唱えて、売り手になっています。

国内の売買では、生保と銀行が株を売り続けるため、個人投資家が買い受けないと、構造的に下がる相場になっているのです。

2000年代以降、日本の株式相場が、外国人の買い依存になった理由は、以下の2つです。

外国人投資家の売買シェアは67%(2015年12月)です。このため、ガイジンが売れば下がり、買えば上がる。

「米国の株価のコピー相場+官製相場─個人の売り」が、2015年のわが国の株価を作っていました。日経平均の幅は、2万1000円(15年5月~8月)~1万7000円(10月)と、約4000円(24%)の波動だったのです。

売買の構造~60~70%を占める外国人

東証1部の年間売買は、ほぼ700兆円(1日平均2.8兆円:2015年)でした。この売買のうち60%~70%を外国人が占めています。

外国人とは、ヘッジファンド、国家ファンド(SWF:後述)、投資銀行です。そのほとんどは、タックス・ヘイブン(オフショア)からの買いです。

原油と資源の価格低下による、国家ファンドの運用資金の急減が、ガイジン買いを減らし、売りを多くして、2015年から2016年1月の下落相場を作っています。

わが国でも700兆円の売買のうち、ほぼ60%(420兆円)は、コンピュータプログラムでの自動売買(HFT:超高速売買)です。ミリ秒、ナノ秒単位で「他より早く売買し差益を得る」ものです。他の、買い注文を察知すると、先回りしてその価格(指値)で買ってすぐ売り、確実な差益を稼ぐ方法です。

日本人と日本の金融機関の売買は30~40%のシェアに過ぎず、価格を大きくは形成できません。日本人で大きく売買するのは、名寄せ後で約700万人(口座数は4500万)の個人投資家です。

売り越しを続けている個人投資家

個人投資家は、2012年からは1.9兆円、2013年8.8兆円、2014年3.6兆円、2015年5.0兆円と、一貫して大きな売り超です。

リーマン危機後の株価下落(日経平均8100円:09年3月)で被った大きな損を、2013年以降の外人買いと官製相場で回復するための売りを行ってきたからです。

予想の反省としては、年金基金、公務員共済年金、郵貯、かんぽ、日銀の5つのクジラによる日本株の買いは、もっと大きな上昇(日経平均で2万3000円)になると考えていました。

ところが2015年は、個人投資家の、損失回復のための利益確定の売り超が5兆円と一層大きかった。

5頭のクジラの買いで上がると、個人投資家が売ったのです。個人投資家は、政府が囃した官製相場に対し「踊ってはいなかった」。

個人投資家は「逆張り」が多い。上がると売り、下がると買う。2015年は上がるときの売りが大きかった。理由は、証券会社が誘う官製相場を信用していないからでしょう。

日本の株価は、海外からの売買で大きく動きます。これを追求するには、世界のマネーの大きな流れをみなければならない。この視点を、以下のデータで確保しましょう。

Next: 2.国際的な資金の大きな動きはどうなっているか?



2.国際的な資金の大きな動きはどうなっているか?

ドル・インデックスで見ると、大きなドル買い/ドル売りがわかる

ドル・インデックスは、貿易額の加重平均で見た米ドルの指数です。円/ドルの関係だけではなく、世界の通貨(ユーロ、円、英ポンド、カナダドル、スイスフラン、スウェーデンクローネ)に対するドルの価格が分かります。

ドル・インデックス(ドル指数)が上がるときは、ドルが買われて米国にマネーが集まっています。逆に、下がるときは米国からマネーが流出するときです。

世界の外為相場では、1日(1年の誤記ではない)に、$6.8兆(816兆円:2013年)の通貨の売買があります。円のシェア12%です。

買い超の通貨にマネーが集まって上がり、売り超の通貨からは逃げて、下がっているのです。21世紀は、国際的なマネーの動きが巨大です。ここを見なければ、マネーの動きはわからないのです。円高のときは、日本にマネーが集まり、円安では主にドルに逃げています。

グラフの刻みを毎月にすると、2004年6月~16年1月までの12年間のドル指数がわかります。大きな動きを見ます。この10年間の米ドルの動きは、3つの時期に分けると、意味がよく分かります。

3.10年間を3つの時期に分ける

(1)2006年から2008年のリーマン危機まで

この間は、ドル指数が92付近の高値から72のドル安になっています。リーマン危機のとき、価値を下げた米ドルが大きく売られたのです。米国の金融危機は、ドルが売られる危機でもあるからです。

(注)このとき円は買われて、$1=120円付近(2006年)から80円(2011年)へと33%も上がっています。これは円高ではなく、リーマン危機後のドル安だったのです。

(2)2008年10月~2014年7月(テーパリング確定)まで

リーマン危機がもたらしたドル危機と、米国・欧州の金融危機に対して、米国FRBは3回の量的緩和で、$4兆(480兆円)のドルを増刷し金融機関に与えて危機を乗り切ります。

ドル指数は、安値の72から88の間を激しく動いたのが、08年10月から14年7月までの、3回のQE(量的緩和)の6年間でした(変動幅16=22%)。金融危機は脱した、いや景気はまだ悪い、雇用の回復を見れば米国の景気はいいと、揺れ動いていたからです。

(注)2012年末からは、日本政府が誘導したドル買い(推計30兆円)を起点に、円はリーマン危機の前の、$1=120円にまで下がって、現在に至っています。

2013年には、海外投資家は、円売り(円安)とともに、日本株を15.1兆円も買い越して、日経平均で1万円から1万6000円(13年12月)に上げています。

(3)2014年7月~2016年1月まで

米国FRBは、2014年1月からQE3(量的緩和第3弾)を停止して、テーパリング(ドル増発の順次縮小)を行い、同年10月に完了しました。

中央銀行がマネー量を絞ることや利上げは、普通は、通貨高の要素です。このためテーパリングの完了が予想された2月前の14年8月から、80だったドル指数は、高騰に向かいます。

2016年1月(現在)には、25%高い100に高騰しています(リーマン危機前の水準+8)。(注)通貨での25%高は高騰です。

80だった14年7月からは、25%ものドル高になっています。これは2014年8月以降、世界の通貨(ユーロ、円、元、新興国通貨)がドル買い、自国通貨売りに向かい、米国にマネーが集まっていることを示すのです。

【下落した新興国の通貨】
上がったドルと逆に、新興国の通貨は、軒並み下がっています(20~30%)。輸出品目である原油・資源・コモディティの下落と、米国が新興国からの資金を引揚げてきたからです。下落の原因は2つです。

この間、人民元も政府が変動幅2%でドルペッグさせていたので、ドルとともに世界の通貨に対して25%上がっています。

「2015年からの人民元の下落」には、2014年8月以降、元が25%も上がっていたという伏線があることを記憶しておいてください。

【25%のドル高】
2014年8月以降、現在に至るまで、米ドルは25%ものドル高だったことを確認します。世界の通貨からのドル買いが大きかったことを示します。世界のマネーが米国に集まったのです。

(注)後述するように、日本の金融機関も、2014年からドル買いに転じています。

【新興国の通貨売り】
2009年以降、新興国に出ていたFRBの量的緩和のドル(新興国の通貨買い)が、ドル買い/新興国通貨売りになって、マネーが米国に回帰しています。

ドルの引き揚げが、2014年央からの原油の下落の主因でもあります。

【原油・資源・国際コモディティ】
2014年7月の1バーレル$102(WTI原油価格指数)は、同じ年の12月には$59に、翌15年12月には、$37へと64%下がっています。

同時に、資源とコモディティ(CRB商品指数:28種)も、300から164(16年1月)にまで、48%下がっています。逆オイルショクと言えるくらいの暴落です。

原因は、前述のように、中国の原油・資源・コモディティ需要の減退(これが50%)、FRBがテーパリングから利上げに向かったことによる、ヘッジファンドの投機マネーの引揚げです(これが50%)。

Next: 4.資源輸出国のSWF(国家ファンド)運用資金が縮小している



4.資源輸出国のSWF(国家ファンド)運用資金が縮小している

日本株を売買する海外投資家は、(1)ヘッジファンド、(2)SWF(国家ファンド)、(3)英米系の投資銀行です。

ヘッジファンドに運用資金を預託することが多いので、直接にはヘッジファンドです。間接的に、(2)と(3)です。

SWFは、2000年代の原油・資源・コモディティが高いときに、運用資金を$12兆(1440兆円:2013年:推計:JPモルガン)に増やしています。※SWF(Sovereign Wealth Fund:資源国の国家ファンド)

大手投資銀行(JPモルガンやゴールドマン)は、QE(量的緩和)で、FRBにMBS(住宅ローン担保証券)と保有国債を売ったマネーを、ヘッジファンドに預託して、運用しています。日本や中国が米国債を買ったマネーも、投資銀行が運用しています。

資源国マネー、FRBマネー、日本マネー、中国マネーが、日本を含む世界への、米国と欧州からの投資・投機のマネーになっています。

SWFの主なものを、運用額とともに、挙げておきます。こうしたデータは、租税回避地のタックス・ヘイブンの金融と同じように、なかなか集まりません。今回、Wikipediaのデータを使います。年度は不明ですが、平均で2013年頃でしょう。

中国のSWF $14553億(174兆円) 輸出マネー
アブダビ首長国のSWF $6270億(75兆円) 原油
ノルウェーのSWF $6110億(73兆円) 原油
サウジアラビアのSWF $5328億(64兆円) 原油
シンガポールのSWF $4047億(49兆円) 金融
クウェートのSWF $2960億(36兆円) 原油
カナダのSWF $1528億(18兆円) 資源
以下続く

※世界のSWF推計 $12兆(1440兆円:2013年)

世界のSWFは、2013年までの原油・資源・コモディティが高かった時期に基金を増やしています。しかし2014年の半ばからの原油価格の下落($100→$32)とともに、原油輸出国の財政は大きな赤字に転落しています。

輸出で世界一のサウジアラビアでは、GDPの20%もの財政赤字になっています。政府の歳入の減少は$820億(9.8兆円)と言われます。油田はほとんどが国有であるため、輸出代金の減少(1/3)は、直接に国家の収入を減らします。産油国は、税の代わりに、国家が原油の輸出で収入を得ています。

2014年7月からの原油の暴落は、海外投資を行っているSWFの運用資金を減らします。例えば、サウジアラビアのSWFは、$5328億(64兆円)です。原油が$30付近ならSWFの資金は1年に10兆円の割合で減って行くでしょう。サウジアラビアのSWFがいくら日本株を買っているか不明ですが、仮に、日本株のグローバルシェアである約10%としたときは6兆円です。

すでに6000億円付近の日本株が、サウジのSWFから売られているでしょう。サウジアラビアだけではない。他の産油国・資源国も同じです。

つまり2015年からは、$12兆(1440兆円)の、グローバル投資をした世界のSWFが、原油が低い価格である間、投資資金の引き揚げを行っています。これが、米国株、日本株、ユーロ株の下落の50%を説明するでしょう。

日本のような、原油・資源のほぼ100%を輸入する国にとっては、原油・資源・コモディティの下落は、普通のときは、企業の利益を増やして株価の上昇要素になります。

しかし、マネーの動きも気象のような複雑系です。原油・資源・コモディティ価格の下落によるSWFと、中国のSWFの運用資金の10%くらいの減少が、世界の株価の下落の50%を説明するでしょう。

そして、FRBの利上げによる、米国のレポ金融の縮小から来る運用マネーの減少が、株価下落のもう50%を説明するでしょう。

なおさかのぼって、原油・資源・コモディティの、2014年8月からの下落の原因は、(1)中国の需要減と、(2)ヘッジファンドによる原油や資源の先物買いの減少です。

価格を上げる先物買いは、3か月や6ヵ月後の限月には、反対の、現物売りで清算になります。先物買いが減少すれば、限月には売りが増えて、原油・資源・コモディティ価格は一層下がるのです。

Next: 5.異次元緩和のジャパンマネーはどうなったのか



5.異次元緩和のジャパンマネーはどうなったのか

米国株と米国債を買っている

日銀が異次元緩和を行って金融機関の当座預金を増やした場合、一般には、金融機関による「ポートフォリオ・リバランス」が起こって、株式、債券、外貨の買いが増えます。

日銀当座預金は、金利が0.1%しかつかないため、金融機関は損失を被ります。このため、数%以上の利回りが見込める株式、債券、外貨の運用を資産として増やすのです。これが量的緩和で起こる、金融機関の「ポートフォリオ・リバランス」です。

ところが日本の金融機関(銀行と生保)は、主体別の売買で示したように、国内株では、一貫して売り超を続けています。

量的緩和で金融機関に増えたゼロ金利マネーは、どの運用を増やしているのか。財務省が集計している「対外証券投資統括表」で分かります。

【わが国金融機関の海外投資の超過】

海外株 中長期債 合計
2010年 1.9兆円 20.8兆円 22.5兆円
2011年 1.0兆円 7.5兆円 7.7兆円
2012年 -1.8兆円 13.2兆円 11.2兆円
2013年 -6.6兆円 -1.9兆円 -8.2兆円
2014年 6.6兆円 4.4兆円 12.1兆円
2015年 19.5兆円 15.5兆円 35.6兆円
6年合計 20.6兆円 59.5兆円 80.9兆円

(注)いずれも買い超、売り超の差額。2015年は11月まで。短期債は少ないので省略。海外株の推計80%は米国株であり、中長期債のほとんども、ドル国債と社債である

2013年4月から、わが国で異次元緩和が始まったとき、日本の金融機関は、米国への投資を8.2兆円減らし、株はふやさずとも、国内への投資は増やしていました。

このためもあり、2013年は、日経平均が1万円から1万6000円に上がったのです。

ところが、2014年には、米国株を6.6兆円、米国債を4.4兆円買って、海外投資を12.1兆円増やす動きに変わっています。2015年には米国株を19.5兆円、米国債を15.5兆円買って、米国への投資を35.6兆円も増やしたのです。

2014年の1月から米国FRBはテーパリング(量的緩和の順次縮小)を開始し、同年10月に終わりました。2014年の日本の金融機関は、FRBが国債を買ってきた代わりに、ドル株とドル国債を買って、米国の資金繰りを助けたのです。

財務省の対外証券投資統括表は、メディアでは取り上げませんが、それを見れば、米国がQE(量的緩和)を停止したあと、日本の金融機関が、円国債を日銀に売り、米国株と米国債を買ってきたことが分かります。

マネーの元をたどれば日銀が、米国株と米国債を買いあげています。

日本の金融機関によるドル買い

米国は、FRBが出口政策をとって資金不足の国になり、日本は異次元緩和で資金余剰の国です。

特に2015年は、上表に見るように、日本の金融機関(代表が三菱東京UFJ)は、米国株を19.5兆円、米国債を15.5兆円買って合計で35.6兆円ものドル買いを行っています。

(注)米国株を買うときは、まず円でドルを買います。この円は日本の金融機関から、ドルを売った米国の金融機関に行きます。一方で、日本の金融機関は、米国株を所有します。これが、円の米国への流出です。代わりにドル建ての株券が入手されます。

【中国は、ドル国債を売っている】
ドル国債を、外貨準備としてためてきた中国は、2014年から、元安(元売り/ドル買い)を阻止するため、ドル国債の売り/元買いに乗り出ししています。

普通なら、これは、ドルの下落要素です。しかしドルは下がっていない。むしろ2015年はドル高でした。

中国の外貨準備は、2014年6月には$4.0兆(480兆円:日本の2.9倍)とされていました。60%は米ドル建てで、中国はユーロ輸出が多いので30%がユーロでしょう。この外貨準備が2015年9月には、$3.5兆(420兆円)に減っています。

ドルを60%とすると$3000億(36兆円)のドル売りです。日本の金融機関が2015年に買い増したドル債は35.6兆円です。日本の金融機関が、中国が売ったドル債を、そっくり、買いあげたことになります。実に数値は、ピタリと符合します。

ドル高の理由の中でもっとも大きなものは、日本の金融機関による35.6兆円(2015年)のドル買いです。

日本がドル株を買って株価を上げて、ドル国債を買ってドル金利の上昇を抑えたのです。

日本からのドル買いに密約があるのか暗黙かは不明です。ドル買いでも政治的な領域は、口頭での約束であり分からない。

(注)郵貯(総資金量206兆円:2015年3月)、かんぽ保険(同85兆円)、年金基金(GPIF:131兆円)、合計で422兆円のマネーは、いずれも政府の主導で運用されています。追加緩和の14年10月以降、海外運用を増やした年金基金の海外株の運用枠は25%(33兆円)とされています。日銀が、GPIFがもつ国債を買い、GPIFが得た現金で株を買うという構図です。

Next: 6.年初からの株安の原因/7.2016年日本株「下落と上昇の要素」6つ



6.年初からの世界同時株安の原因

2015年末に3600ポイント付近だった上海総合は16年の年初から大きく下げて今日(1月13日)の終値は2949でした(26%下落)。政府の株価対策で、下落調整されていますから、市場の実勢では2500ポイントかもしれません。

2015年6月には5000ポイントを超えていた中国株の下落は6月13日から始まり、8月末に3000ポイントに下げ、世界の株価に波及しています。その後政府の対策で、3500付近を波動していましたが、年初に急落したのです。その背景には、中国経済の相当の減速があります。

2015年7-9期のGDPは実質で6.9%の成長とされていますが、実際は、公称より相当低い2%~4%の範囲でしょう。これが株価に反映しています。

予想PERでは3000ポイント付近に下がった後の株価で12.08倍(16年1月13日:上海総合)です。中国企業の利益予想から見て、10倍くらいが妥当に思えます。

(注)2015年の実質GDPは$11.3兆(1356兆円)で、日本(500兆円)の2.7倍、米国$17.9兆(2148兆円)の2/3とされています。米国との物価の違いを調整した購買力平価では19.9兆(2388兆円)であり、2013年から世界1です。14億人の中国経済は、7年間で2倍になっています。これだけのボリュームになれば、成長力は低下します。

年初の中国株の下落から、瞬間に米国株も調整しました。NYダウ(代表的な工業株30種)は12月末の$1万7500から下げて1月13日は多少反発し$1万6516です(6.6%安)。日経平均は1万9000円から13日の1万7715円で、NYダウとほぼ同じ6.8%の調整をしています。

米国のメリルリンチ証券(バンク・オブ・アメリカが吸収)は、2016年の中国GDPから、株価を30%安(上海総合で2500ポイント:16年12月)と見ています。予想PERでは8.4倍という低い水準ですが、上げ底のGDPと企業の次期予想純益からすれば、妥当にも思えます。

7.2016年日本株「下落と上昇の要素」6つ

(1)SWFは減少する

日本の株価はどうなるか。海外のSWF(国家ファンド)は、原油・資源・コモディティの低価格によって縮小しますから、日本株も売りになるでしょう。

(2)ヘッジファンドも元本が減少傾向

ヘッジファンドの運用元本は$2.87兆(344兆円)とされています。2015年の第3四半期には、中国起点の株価下落の影響を受けて$950億(11兆円)減っています(CNN)。2008年のリーマン危機の時以来、7年ぶりの減少です。

2015年の全体運用のパフォーマンスは-0.85%(加重平均)と低かったため、投資家は運用預託が減らしています。3年間の運用成績も年率3.67%の収益と、リスク投資にしては低い成績です。(Hedge Fund Research:2015年12月)

FRBが利上げに入っている2016年に、ヘッジファンドの運用額が増えることはない。海外からの日本株の、大きな買い越しは期待できないということです。

(3)16年3月期の経常利益は増加だが、織り込み済み

国内要因で言えば、上場企業の2016年3月期の経常利益は、前期比で8%増えると予想されています(日経新聞:社数1015社)。しかしこの3月期の利益は、現在の株価に織り込まれています。

利益増が株価の上昇要因になるには、2016年9月期の利益が、3月期より10%以上増加する予想でなければならない。中国の景気が後退する中では輸出増がなく、2016年9月期の企業利益が10%上がることは不可能ではなくても、難しい感じがします。

Next: 4.官製相場は4月再開/5.中国経済の懸念/6.自社株買いが増加?



(4)官製相場は4月からの可能性

政治的なことですが、2016年7月の参院選に向かい、政府与党は、参議院で憲法の改正条件を満たす2/3を獲得しようとしています。

このために、参院選前の2016年6月から7月の株価が上がっていることが必要です。2016年4月には、日銀が、相当に大きな追加緩和をし、質的緩和(つまり株の買い)も実行する可能性は高い。

2014年10月の、市場を驚かせた「官製相場」での、株価上昇は3000円(19%)でした(前掲表)。今回は、2度目なので衝撃は弱く、1500円程度(9%)の底上げでしかないでしょう。(日経平均で1万9000円)

(5)中国経済の懸念

その前に、中国のGDP減速から、株価に今一層の調整があると、この官製相場分も、消える感じがします。

中国では、2016年に、主要都市での住宅価格の下落が明らかになって行くと、再びの理財商品の不良化と、国営金融機関の損失から、金融危機の様相を呈するでしょう。リーマン危機の規模(不良債券1000兆円)には至らないと思えますが、この危機の可能性はあります。

(6)自社株買いの増加の可能性

増える可能性があるのは、企業収益の好調を背景にした自社株買いです。自社株買いは、買った後、再び市場で売らない限りは、流通しない金庫株、または減資になる消却になって、流通する1株当たりの利益を上げ、株価を上げる要素になります。

米国では、2015年度は1年に$1.2兆(144兆円)もの自社株買いが実行される予定で、株価を40%も底上げする要素になっています。そこまでは行かなくても、5兆円の自社株買いが増えると、株価の上昇要素になります(2015年は3兆円でした)。

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