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震災直後の道路復旧工事における「談合」は本当に悪なのか?=三橋貴明

1月20日、連日続く大寒波も「暖かく」感じてしまうような、背筋が凍りつくほどに「寒い」ニュースが報じられました。信じがたい話ですが、震災直後の道路復旧工事が「談合である」と公正取引委員会が問題視し、強制捜査が行われると言うのです。(三橋貴明)

記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年1月20日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです

震災直後の工事で談合容疑、強制捜査~それは本当に悪なのか?

2011年3月11日、東日本大震災発生。太平洋沿岸の高速道路が津波により、あちこちで分断されてしまいます。東京方面から東北へ救援部隊を派遣しようにも「チャネルが破壊された」事態に至りました。特に、太平洋沿岸を走る国道45号が通行不能になったため、大量輸送を伴う救援活動が、ほぼ不可能となってしまいます。

国土交通省は被災地の各県や自衛隊、土木・建設事業者と協力し、緊急輸送道路を「くしの歯型」に切り拓くことを決定しました。最も被害を受けた海岸沿いの国道45号の復旧は後回しにし、まずは東北自動車道と国道4号線を優先的に通行可能とする。その上で、沿岸被災地に「くしの歯」として、救援活動のためのチャネルを確保することにしたのです。

「くしの歯作戦」第1ステップは、東北自動車道と国道4号という縦軸ラインの確保でした。総勢52の土木・建設業者のチームが投入され、被災地への啓開作業が始まります。啓開とは、災害時における一次対応で、
災害発生→啓開→応急復旧→本復旧→復興
という、一連の流れの基礎となる工程になります。

第一ステップで縦軸(南北)のラインが回復し次第、第二ステップとして三陸被災地域へのアクセスとなる「横軸」の啓開が進められました。東北自動車道、国道四号から東へ「くしの歯」を伸ばしていき、救援部隊を送り込むためのチャネルが確保されていきます。

早くも3月15日時点で、15ルートの東西ルートが通行可能となりました。翌16日からは、一般車両も通行できるようになります。

くしの歯作戦第三ステップは、国道45号の啓開でした。第二ステップ完了後、休むことなく作業は続けられ、3月18日までに国道45号の97%が通行可能となります。

土木・建築業者の方々の不眠不休の努力により、世界が驚くほどの速さで被災地への物流ルートが確保され、救援活動が本格的に始まりした。その後も、高速道路の復旧作業は続きます。

信じがたい話ですが、上記の復旧作業が「談合である」と公正取引委員会が問題視し、強制捜査が行われようとしています。

東日本大震災で被災した高速道路の復旧工事を巡り、談合の疑いが持たれている事件で、談合は、入札に参加した大手道路舗装会社4社が調整役となって行われた疑いがあることが、関係者への取材で分かりました。東京地検特捜部と公正取引委員会は、20日にも独占禁止法違反の疑いで強制捜査に乗り出すものとみられます。

関係者によりますと、談合の疑いが持たれているのは、国の復興予算を財源に、東日本高速道路東北支社が発注し、震災後の平成23年8月から9月にかけて入札が行われた、東北自動車道や常磐自動車道など合わせて12件の復旧舗装工事です。

工事は12の会社がそれぞれ1件ずつ落札し、落札の総額は176億円余りに上っていました。

関係者によりますと、談合は、入札に参加した大手道路舗装会社の「NIPPO」や「前田道路」「日本道路」「世紀東急工業」の大手4社の東北支店の担当者が調整役となって行われた疑いがあるということです。

予定価格に対する平均の落札率は94.7%で、震災前の平成22年度の高速道路の舗装工事より10ポイント以上高くなっていました。

関係者によりますと、一部の会社は公正取引委員会などの調べに対し、談合を認めているということで、特捜部と公正取引委員会は20日にも独占禁止法違反の疑いで、入札に参加した道路舗装各社を捜索し、強制捜査に乗り出すものとみられます。

出典:被災の高速道工事で談合か きょうにも強制捜査へ – NHKニュース

当たり前ですが、大震災という非常事態が発生した際に、平時同様に呑気に「公共入札」などやっていられるはずがありません

特定の道路会社が「調整役」として、各業者に仕事を割り振り、とにもかくにも速やかに道路を復旧させるという現場の努力がなされたとしても、別に不思議でも何でもありません。というか、むしろその手の調整が行われることは当たり前としか思えません。

何しろ、当時は道路復旧が人命にかかわる非常事態だったのです。被災者の命を守るために、現場の方々が相談し、最も速やかに道路復旧が可能な形で仕事を割り振ったとして、罪になるとでもいうのでしょうか。

Next: 次の震災では早期の道路復旧が不可能に?罪になると公取委は考えている



罪になる。と、公正取引委員会は考えているようです。

言葉を選ばずに書かせてもらうと、「狂気」です。

今後、強制捜査に入った公正取引委員会と東京地検特捜部がいかなる結論に至るのかは分かりませんが、もしも「震災時の道路復旧のための仕事の割り振り」までもが独占禁止法違反ということで刑事罰の対象になってしまうのでは、今後、我が国がまたもや大震災に見舞われた際には、東日本大震災のような早期の道路復旧は不可能になります。

道路という物流の胆がいつまでたっても復旧せず、被災地で国民が死んでいく事態になりかねないでしょう。

怖いのは、各紙の報道を見る限り、
震災発生の復旧における談合が本当に悪なのか?
といった論調が全く見られない点です。

そもそも、日本の土木・建設の供給能力を維持し、かつある程度の競争を維持するために、「指名競争入札+談合」というシステムが悪であるなどとは全く思えません。日本が自然災害大国である以上、各地に土木・建設企業が存続してもらわなければ困りますし、かつ競争により生産性向上に努めて貰わなければなりません。

「各地域に企業を存続させる」と、「企業間競争により土木・建設分野の生産性を高める」の二つを両立させるために、「指名競争入札+談合」という知恵を先人たちは生み出したのですが、我が国はそれを「市場競争に反する(反しますが)」という単純かつ愚かな考え方に基づき、破壊してきました。

挙句の果てに、震災時の仕事の割り振りまで「談合」ということで公正取引委員会が問題視する。さらに、その異常性について誰も疑念を抱かない。

このままでは、普通に我が国は「亡国」に至るでしょう。

とはいえ、日本国民であるわたくしにとっては他人事ではありませんので、あえて声を大にして叫びたいと思います。

震災といった非常事態発生時に、速やかな道路啓開のために業者間で仕事を割り振り、調整をすることは、当たり前の話である、と。

それを処罰しようとする考え方自体が、異常極まりないのです。

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