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ミニストップ、193店閉店で経営悪化が止まらない。もう取り返せない4つのしくじり=栫井駿介

ミニストップ<9946>の業績悪化が止まりません。2019年2月期は9億円の最終赤字を計上し、直近の第1四半期では赤字額が24億円に拡大しました。

コンビニ業界は東日本大震災後に大きく業績を伸ばしましたが、最近は人手不足や過剰店舗により業界全体に暗雲が漂っています。その中でもミニストップの凋落ぶりは顕著です。同社に何が起きているのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

経営悪化を食い止る策はあるのか?鍵を握るのは「イオン」の動向

ミニストップでのアルバイト経験から見えたこと

ミニストップは、イオンが株式の47%を保有するイオン系列のコンビニエンスストアチェーンです。

特徴としては、店内で調理するソフトクリームなどファストフード(FF)の品揃えが充実していることです。多くの店舗では、揚げ物をその場で揚げるフライヤーが備えられています。イートインスペースが設けられていて、買った物をその場で食べることもできます。

このFFが、ミニストップの経営を支えています。粗利益率は他の商品が3割程度なのに対し、FFは5割以上もあります。

私がなぜミニストップに詳しいかと言うと、実は学生時代に半年ほどミニストップでアルバイトをしていたからです。しかし私は不器用なので、ソフトクリームをなかなかまっすぐに盛ることができず、お客様に申し訳ないことをしました。

そんな馴染み深いコンビニですから、今の業績悪化は残念でなりません。一方で、なぜそうなってしまったのか思い当たる節もあります。

そもそも私がなぜバイト先として他のコンビニではなくミニストップを選んだのかと言うと、単純に時給が高かったからです。他のコンビニが950円程度の時代に、ミニストップは1,100円でした。逆に言えば、それだけ人気がなかったのです。

バイト先として人気がないのは、FFの大変さということで理解できます。店員は通常のコンビニ業務をこなしながら調理もしなければなりませんから大変です。人手不足の今はますますバイトを集めるのに苦労しているでしょう。

大手3社に見劣りする経営指標

しかし、経営指標を見てみると、バイトだけでなく客からも人気がないことがわかります。

下のグラフは、1店舗で1日にどれだけの売上があるのかを示す「日販」です。時系列となっているのがミニストップですが、見事に右肩下がりとなっています。そして、他の大手3社と比較しても大きく劣っているのです。

日販が大きく劣っているということは、売れる商品がないということです。確かに、他社がスイーツや惣菜、冷凍食品などオリジナル商品の開発に力を注いでいる中で、ミニストップにはFFを除きこれと言ったものがないように感じます。

その原因の一つは、規模にあると考えます。国内の店舗数で見れば、ミニストップは大手3チェーンに比べて大きく劣っているのです。最大手のセブンイレブンとの比較では、わずか10分の1の規模です。

規模が小さければ、同じ商品を開発するにも資金力が違ってきます。また、広告を出すにしても、かけられる費用が段違いに少なくなってしまいます。

コンビニ全体の店舗数が少ないうちはまだ良かったかもしれません。近くにミニストップしかないところなら、他に選択肢はありませんでした。しかし、各社が出店を加速し過剰店舗となった今、同じ距離にミニストップとセブンイレブンがあったら、多くの人はセブンイレブンを選ぶのです。

どの業界でも、競争が激化するほど弱いところから淘汰されていきます。コンビニも大手3社に集約されると見込まれていますが、ミニストップはその流れに完全に置いていかれてしまったのです。

かつて三菱商事を通じてローソンとの統合も取り沙汰されたようですが、物別れに終わりました。ミニストップは貴重な機会を逸してしまったように見えます。

Next: 広告宣伝費を削る愚策。ついには「おにぎり100円」で自らの首を締める…



黒字確保のため、広告宣伝費を削る愚策

単に規模で劣っているだけならまだ救いようがあります。例えば、北海道を中心に展開するセイコーマートは、大手とは異なる戦略で生き残りを図っています。小さければ小さいなりの生き残り方があるのです。

しかし、ミニストップの経営を見ていると、全くそのような工夫の跡が見えません。出店は広く浅く行っていて、商品もFF以外ではこれと言ったものが思いつきません。

魅力的な商品がない中で何とか売るためには、商品を安く売るしかありません。私がアルバイトをしていた時も、やたらと「大盛り」を強調していたと記憶しています。同じ値段で大盛りなら、それは実質的な値下げです。

当然のことながら、値段を下げればそれだけ利益が減ります。同社の利益は、この数年でみるみる減少し、いよいよ赤字に転落してしまいました

輪をかけてひどいのは、利益が減ってきてからの経営の対応です。赤字に転落してしまった昨年度は、何とかしようとしたのでしょう。あろうことか、広告宣伝費を73億円から26億円にまで削ってしまいました

差別化が難しいコンビニ業界において、広告宣伝ができないことは死活問題です。目の前の売上が減少するだけならともかく、その間にセブンイレブンに流れてしまった顧客はもうミニストップへは戻ってこないでしょう。

広告宣伝費は当期の費用だけでなく、投資という側面があります。ミニストップの経営陣は、長期的な展望に欠かせない投資の部分から削ってしまったのです。

「貧すれば鈍す」を繰り返す経営

昨年度に赤字を出してしまった次に何をしたのかというと、店舗の閉鎖です。過剰店舗が問題なのだとしたら、その数を減らすことは理にかなっているように見えます。

しかし、問題はそのやり方でした。ミニストップの店舗の9割はフランチャイズ加盟店です。加盟店にいきなり「閉店して」というわけにはいかなかったのでしょう。直営店を大量閉鎖させるという行動に出ました。

“このような状況の中、当第1四半期においては、構造改革の一環として、直営店を中心に193店舗を閉店しました。閉店の目的は、直営店舗に関わる固定費を圧縮し、その資金を既存フランチャイズの売上向上に投資し個店の競争力を上げるためです。”(2020年2月期第1四半期決算短信)

直営店は、顧客動向を把握するなど経営改善のために重要な場所のはずです。それをコスト削減のために閉店させてしまうということは、もはやミニストップの将来に何を期待したら良いのでしょうか。経営陣は目の前の利益確保しか見えていないようです。

極めつけはこの7月からはじまった「おにぎり100円」です。これはセールではなく、常に100円です。

いよいよここまで来たかという印象を受けます。一時的に客は戻るかもしれませんが、長くは続かないでしょう。客が買うのはおにぎりばかりではありませんから、これだけで気を引き続けるのには限界があります。安く買いたいならスーパーに行けば良いだけです。

100円のおにぎりでは利益がほとんどないでしょうから、やがて利益の圧迫要因になります。すると長期的な投資に割けるお金がなくなり、ますます衰退の一途をたどってしまうのです。

【ミニストップ経営のしくじり】

Next: 経営悪化を食い止る策はあるのか?鍵を握るのは「イオン」の動向



資本が動けば投資家として興味深い

もはやミニストップの経営悪化を食い止る策はほとんどないように思えます。

鍵を握るのは、47%の株式を持つイオンの動向です。このまま赤字を垂れ流すようでは、連結対象子会社として放っておけないでしょう。

考えられる方向性は以下です。

上述のように、コンビニチェーンの大手3社への集約は待ったなしの状況です。どこかに吸収されれば、フランチャイズの加盟店も何とかやっていけるでしょう。

かつてローソンとの協議は物別れに終わったようですが、イオンは再び三菱商事に頭を下げてローソンにミニストップを引き取ってもらわないといけないかもしれません。

ローソンとしても、ファミリーマートに店舗数で抜かれた今、ミニストップを統合できれば再び追いつくことができます。ローソンも利益が減少傾向にあり、テコ入れ策として可能性があります。

もう一つは、業態転換です。イオンがどうしても機能としてコンビニを手放したくないのであれば、店舗はそのままに小型スーパーとしてミニストップを活用する手もあります。

スーパーとして全商品を低価格にするなら、従来のコンビニとは違った客層が呼び込めるかもしれません。イオンと同じ商品を置くなら、利益も出すことができるでしょう。利便性が高いため、本家より少し値段を上げられる可能性があります。

投資家としては、この再編を投資アイデアに活かせます。前者なら他社によるイオン保有分以外の株式買い付け、後者ならイオンによる買い付けが期待できます。その場合はプレミアム付きで買い取ってもらえる可能性があるのです。

ミニストップ<9946> 日足(SBI証券提供)

株価が下がり続ける今から持つことは決しておすすめできませんが、株価が下げ止まり、周囲が騒がしくなってくれば面白くなります。投資家としてそのような視点で見ると、今後の展開が楽しみです。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年7月16日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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