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日本債券市場への危機意識~超長期債を中心とする乱高下は何を示すか=久保田博幸

8日から9日にかけての日本の債券市場での超長期債を中心とする乱高下は、日本の債券市場が機能不全に陥りつつあることを示している。(『牛さん熊さんの本日の債券』久保田博幸)

日銀が緩和拡大なら債券市場はさらに危機的状況に陥る懸念も

マイナス金利による流動性後退

日銀は年間に入札等で発行される国債のほとんどを買いオペで吸い上げている。

この場合の新規で発行される国債には借換債も含まれることで、来年度でみると短期債を除く新規発行額の122兆円のうち日銀は120兆円(増額分80兆円プラス償還乗り換え分40兆円)を買い入れる計画となっている。

日本の国債は国内投資家が95%を保有している。そのうち日銀が268兆2810億円で29.9%、銀行など民間預金取扱機関が245兆7416億円で27.4% 民間の保険・年金が232兆6832億円で25.9%、公的年金が52兆3086億円で5.8%、海外が45兆7410億円で5.1%などとなっている(2015年9月末現在)。

つまり新規国債は日銀が独占的に買い占めてしまうことになり、国内の金融機関保有の国債の償還を乗り換えようとしても買い入れる国債は計算上はない。

さらに日銀はマイナス金利政策まで導入してしまった結果、残存12年あたりまでの国債までがマイナス金利となった上に、超長期債の利回りも急低下してしまったことで、運用利回りそのものが求められない状態となっている。

9日に年金などのパッシブ運用のベンチマークとなっているBPIと呼ばれる指数がマイナス0.01%と初めてマイナスとなってしまった。ベンチマークに合わせて運用すると損失が発生する計算になる。

このため、運用先として外債等の割合が大きくなるのかもしれないが、これはあらたに為替リスクなどを負うことにもなる。

短期金融市場もマイナス金利政策によりかなりの動揺を受けているが、システム対応等は徐々に進むとしても、そもそもマイナス金利という状況下では市場参加者は極めて限られることになり、市場の流動性が後退してこよう。

Next: 中心プレーヤーのメガバンクや生保、年金が手が出せない状況に



債券市場も同様であり、本来の中心プレーヤーであったはずのメガバンクや生保、年金などはマイナス利回りの国債は購入しづらい上、新発債中心に日銀に国債が吸い上げられたことで市場の流動性が枯渇していることで手が出せない状況にある。

海外投資家は日本の機関投資家の外債需要にともなうドル需要を受けての調達した円の運用でマイナス金利での日本国債も購入できる外銀などはあっても、海外の年金運用などは日本国債の運用利回りの低下で保有額を減額させているところもある。

そして今回の乱高下によって最も動揺を見せたのがプライマリーディーラーなどの業者であったかもしれない。3月は償還月ということで新たに入札された10年債や30年債の発行日がいつもよりも先になる。

つまり国債を入札で仕入れて日銀の買入に向けて売却するという簡単なお仕事のはずが、保有期間が長くなることでその間の価格変動リスクに晒される。そのリスク回避の動きも今回の国債の相場の乱高下のひとつの要因となった可能性がある。

このように今回の日本国債の乱高下は償還月といった特殊な要因に影響された可能性はあるものの、日本の債券市場の流動性がかなり後退し、きっかけ次第では価格変動リスクに晒される懸念も示された。

すでに日本の債券市場を形成するプレーヤーは、発行する財務省と大量に買い入れる日銀、その間を繋ぐ業者だけという構図となっている。この業者がもし市場リスクを意識して売買を手控えるようなことになると債券市場そのものがさらに機能しなくなる懸念も存在しよう。

日銀の追加緩和期待も一部にあるようだが、日銀がもしまた国債の買い入れを増額するなり、マイナス金利を深めるような追加緩和を実施するとなれば、債券市場がさらに危機的状況に陥る懸念が存在することを改めて認識すべきであろう。

【関連】クルーグマンと浜田宏一氏の誤り~『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む=吉田繁治

牛さん熊さんの本日の債券』2016年3月10日号より
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