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新規上場後、株価も業績も好調なレオクラン。新事業の創出で開発すべきサービスとは

レオクラン<7681>は、10月2日東証2部に新規上場しました。同社の株価は、公募価格2,700円に対して初値は+8.15%の2,920円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月24日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から8.15%上昇し、2,920円でスタート

レオクランをジョブ理論の視点からみる

株式会社レオクラン<7681>(以下、同社)は、2019年10月2日東証2部に新規上場しました。業務内容は、医療機器・医療設備・医療情報システムの販売、医用画像を遠隔で診断し情報提供する遠隔画像診断サービス、介護・福祉施設向け給食サービスです。

同社の株価は、公募価格2,700円に対して初値は2,920円をつけました。差異率は+8.15%と値をあげました。なお、10月23日時点の株価は4,920円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社グループはメディカルトータルソリューション事業、遠隔画像診断サービス事業、給食事業の3つの事業を展開しています。

メディカルトータルソリューション事業は、医療機関、予防・検診施設および介護・福祉施設等を顧客とし、医療機器、医療設備および医療情報システムの受注販売、付帯する保守・メンテナンスサービス並びに建築内装工事および医療設備工事を請負い、その対価として収益を得ます。

遠隔画像診断サービス事業は、医療機関を顧客とし、そこで撮影されたCTやMRIなどの医用画像を遠隔で診断して情報を提供し、その対価として収益を得ます。

給食事業は、介護・福祉施設等へ給食を提供し、その対価として収益を得ます。

ビジネスモデル的にみれば、いずれの事業のそれも、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──医療機器、医用画像の読影結果、給食など──へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社グループは、対処すべき課題の一つとして「新規事業の創出」を、事業等のリスクとして「事業環境等について」「法的規制について」「信頼性の低下について」「代表取締役社長への依存について」等をあげています。

Next: レオクランが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社グループが課題としてあげる「新規事業の創出」を取り上げます。同社グループはそれを、次のように認識しています。

既存事業の業容拡大のみならず、これまでに培ったノウハウ、経験を活かして新規事業の創出に取り組み、新たな市場を開拓し需要を創造することで強固な経営基盤を構築してまいります。

ここで着目したいのは、同社グループがもつ画像システムのノウハウと経験です。それにつなげるのは、焼酎の充てんです。「しゃかいか!」のホームページでは、次のように紹介しています。

検査を行うのは人です!

充てんされたものは次の部屋に移動し、中の異物や瓶のかけやヒビがないか検査されます。このタイミングで検品を行うのは、充てんされたものにキャップをする時にかかる圧力によって、弱った瓶にヒビが入りかけらなどの異物が混入することがある、という理由から。

平川さんによると「様々なカメラや検知器が登場していますが、機械は液体の中で動いているのを感知します。すると瓶の中のエアーの動きも同時に感知してしまうので誤診断が多くなるんです。やはりそういった点をふまえると人間による検査が最適で、人間にはかないません」とのこと。無事検査を通過した焼酎はその後、ラベル貼り、箱詰めされてお店に並ぶことになります。

こういった状況で顧客──主に焼酎メーカー──がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「焼酎が充てんされた瓶のなかにある異物、瓶のかけやヒビを検知する」ということ。意思決定者であれば、感情的側面として「品質」を最も重視し、続いて「リスク低減」「時間の節約」「労力の軽減」「面倒の回避」といったことを重視するでしょう。

なお、ここで競合となるのは、人間の目です。

Next: レオクランが改善すべきポイントは、誤診断しないカメラや検知器の開発



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客が焼酎を充てんする際に従来のカメラや検知器を雇うとすると、障害となり得るのは、小正醸造の平川氏が指摘するように「瓶の中のエアーの動きも同時に感知してしまうので誤診断が多くなる」ということ。

したがって、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「誤診断が少なくなり、リスクが低減される」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

社内プロセスの統合という意味で同社グループの課題となるのは、上記のような障害を取り除くこと、つまり、瓶の中のエアーの動きは感知しないカメラや検知器を開発することです。これができれば、流れる液体のなかの異物を検出できることになり、この技術の応用範囲は広がることになるでしょう。

では、同社グループがこうしたシステムを開発しようとするのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──異物検知システムを使った回数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』 (碩学舎ビジネス双書)
かごんまの人たちがこのなく愛する焼酎蔵で、だれやめ!小正醸造‐しゃかいか!(2017年12月12日公開)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月24日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年10月24日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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