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From 首相官邸ホームページ | Everett Collection / Shutterstock.com

アメリカに追い詰められる安倍政権 オバマの逆鱗に触れた日本の独自外交=高島康司

今回のテーマは、アメリカに追い詰められる安倍政権と、その背後にある動きについてである。

日本では、保育園を落ちた母親による「日本死ね!」の匿名の書き込みをきっかけとして待機児童問題の深刻さが改めて認識された結果、一時は50%を越えていた安倍政権の支持率が46%から42%と下落していることに注目が集まっている。日本のどのメディアもこれを大きく報道し、安倍政権に早急な待機児童対策を迫っている。

さらに目を海外の報道に転じると、安倍政権にとってかなり困難な状況になりつつあるのが分かる。(未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ・高島康司)

米政府が許容できない「3つの同盟」 そして日本叩きが始まった

口火はワシントンポスト紙の社説

まずは、安倍政権の批判の口火を切ったのは、ワシントンポストに掲載された「日本では政権に都合の悪いジャーナリズムはつぶされる (Squelching bad news in Japan)」という題名の社説だ。

ちなみにワシントンポスト紙は、比較的にリベラルなニューヨークタイムス紙とは異なり、現政権の政治的な見解を反映しているメディアだと見られている。特にこの社説にはこの傾向は顕著だ。

この社説は厳しい安倍政権批判だ。かなり短い社説であるし、また重要なので全文の翻訳を掲載する。ジャーナリストの岩上安身氏が主催する「IWJ」に掲載されたものを少し手直しした。

社説「日本では政権に都合の悪いジャーナリズムはつぶされる」全文翻訳

3年前の選挙時に安倍総理によって打ち出された、日本の低迷中の経済を活性化せんとする野心的プログラムであるアベノミクスはこれまでのところ好調であるといえるものではない。安倍首相は、財政的刺激、金融緩和、構造改革のための「三本の矢」を放つと約束した。日銀が、最近のマイナス金利を含め、急激な反デフレ手段を講じ、安倍氏は金融面で劇的な政策を打ち出した。しかしながら、2015年終盤の3ヶ月間のマイナス成長を含め、迫力に欠ける結果を見て、日本の国民は不安感をいだき、安倍政権の支持率も落ち込んできている。一方、中国と北朝鮮は軍事力を示して地域の安定を乱そうとしている。

こうした悪いニュースに囲まれると、一般的に多くの指導者達は、それらのニュースを報道するメディアを非難し始める。残念ながら安倍氏も例外ではない。事実、政府とその支援者達による公式・非公式のメディアに対する圧力は、安倍氏が首相になってからの不満のタネである。多くの国民が、2014年1月の、公共放送であるNHKの運営を任された安倍政権支援者の台頭の背後に、批判的報道を封じ込めようとする安倍氏の傾向があるとみている。NHKの新会長は、従軍慰安婦問題で戦争時にはどこの国でもあることと発言した。それ以来、自民党の調査会は、NHKとテレビ朝日の幹部を呼びつけ、自民党議員は沖縄の二紙の広告収入をなくすと脅した。安倍氏は、沖縄の件ついては謝罪した。

最近、政府の意向に反することで知られている3人のテレビジャーナリストが辞任することになった。これは放送網に対して、安倍氏を支持する有力者からの圧力があったのでないかとみられている。これらの辞任は、政治報道で「公平さ」を欠く放送局の放送免許を取り消す可能性を述べて波紋を呼んだ高市総務大臣の発言とも時期が重なる。日本民間放送労働組合連合会は放送局に対する「どう喝」であると非難した。2015年、国境なき記者団は報道の自由度で日本を世界180か国中、61番目であるとの結果を発表した。これは11番目であった2010年からの大きな後退だ。

安倍政権を苛立たせている報道は主に集団自衛権などの安全保障政策についてであり、これに関する日本メディアの報道は、米国の報道基準では生ぬるいものにすぎない。しかし経済と安全保障の両方の分野で、日本が課題に直面しているのは事実だ。安倍氏はこうした問題に対応するために必然的な物議をかもしつつも、自国を近代化しようとしている。しかし、戦後日本のもっとも注目すべき成果は経済の「奇跡」ではなく、独立したメディアを含む自由な機構の設立であった。安倍氏の目標はこうしたメディアの自由の犠牲のもとに行われるべきではない。

出典:ワシントンポストIWJ Independent Web Journal ※筆者が一部翻訳修正、太字は編集部

以上である。

これは、いま安倍政権が平気で行っている報道機関に対する政治的な圧力を厳しく非難した内容だ。これがワシントンポスト紙の社説であるということは、安倍政権に対するこの見方が同紙の総合的な認識であるだけではなく、現在のオバマ政権の見方であると判断して間違いない。

Next: 偶然ではない!「国連女子差別撤廃委員会」からも日本に強い批判が



「国連女子差別撤廃委員会」の勧告と、安倍政権の反論

さらにこの安倍政権を批判する流れは、3月7日に「国連女子差別撤廃委員会」が公表した日本への勧告で勢いづいた。ちなみにこれは、1979年に「国連女子差別撤廃条約」を批准した各国で、この条約がどのように実行されているか審査し、不足や不備があれば勧告を行うために設置された委員会だ。

2009年に日本には「ビデオゲームとマンガが禁止すべき児童ポルノと児童売春にあたる」として是正勧告がなされ、また2011年には「選択的夫婦別姓制度導入」の勧告などがなされたことはあるが、日本が集中的な勧告の対象となったことはなかった。しかしながら今年は、以下の項目で日本には踏み込んだ是正が求められた

  1. 元従軍慰安婦への配慮が不十分との勧告
  2. 女子高生ビジネスの禁止勧告
  3. 後に撤回されたが、男系男子の皇位継承を「女性差別」と批判し、皇室典範の見直しを要求
  4. 元従軍慰安婦、国連・潘基文事務総長と面会

こうした勧告に対し、菅官房長官は「従軍慰安婦の強制性を示す文書は発見されていない」とした上で「慰安婦問題については最終的かつ不可逆的に解決されたことを日韓の外務大臣で合意し、日韓両首脳が確認した」と指摘した。そして、「国連事務総長をはじめ、米国、英国なども歓迎している」と反論した。同様の内容の反論は、自民党内部からも相次いで出されている。

しかし、こうした反論はすぐさま海外メディアに取り上げられ、「いまだに過去の歴史を反省せず、なかったことにしようとしている」として安倍政権を非難する論説が相次いでいる。これは、勧告に反論すればするほど逆に非難されるという悪循環だ。

偶然の一致を越えた意味

「女子差別撤廃委員会」は「国連人権理事会」が設置した国際機関であり、アメリカ政府や、ワシントンポストのようなその影響下にあるメディアとは関係はない。ワシントンポスト紙の社説と「女子差別撤廃委員会」による日本に対する踏み込んだ是正勧告が同じ時期に出されたことは、単なる偶然の一致に過ぎないのかもしれない。

しかし、米政府は目的実現のためにはあらゆる手段を駆使して圧力をかけてくる存在であることに留意しなければならない。

例えば今年の1月1日に配信した第361回の記事で詳しく解説したように、2014年10月3日にジャパンハンドラーが結集するシンクタンク、「CSIS」から「安倍の危険な愛国主義」という論文を発表され、韓国との間で従軍慰安婦問題を即刻解決すべきことを強い調子で要求した。その後もあらゆる手段で圧力をかけ、2015年12月3日には外交誌『フォーリン・アフェアーズ』が慰安婦問題の年内解決を迫るような内容の論文を掲載した。
「北朝鮮の水爆」は安倍首相のシナリオ通り?隠された日韓合意の真実=高島康司

これが米政府からの圧力であることは言うまでもない。安倍政権はこうした圧力に応じて即座に動き、韓国との間で従軍慰安婦問題の不可逆的な解決に至ったことは記憶に新しい。

ところが、ワシントンポスト紙の社説にはオバマ政権の強い意向で書かれたことは間違いないとしても、「女子差別撤廃委員会」の日本に対する勧告にまでオバマ政権の意向が反映されていることを示す十分な証拠はない。

しかし、そのようなことを疑ってしかるべき、合理的な根拠となるような事態が背後で進行しているのだ。つまり、安倍政権を追い詰めて方針の変更を迫り、もし変更が不可能となれば政権そのものを葬り去る流れである。

Next: オバマ政権の逆鱗に触れた、安倍政権とロシアの急接近



安倍政権とロシアの急接近

オバマ政権を不快にさせている安倍政権の動きとは、ロシアとの急接近である。今年に入ってからの安倍政権の動きを見ればこれは明らかだ。主な動きを時系列で列挙した。

1月4日
安倍首相、ロシアとのサミット開催の必要性を主張

1月15日
安倍首相、「最適な時期に」ロシアを訪問する強い意向を表明

1月22日
プーチン大統領の訪日実現までに安倍首相のロシア非公式訪問の可能性を検討

2月5日
安倍首相、「ゴールデンウィーク」にロシア訪問の可能性

2月7日
安倍首相、領土問題についてロシアとの交渉に意欲

2月9日
ロ日外務次官級協議 15日に東京で実施

オバマ政権の不快感の表明

このような動きに対し、2月9日、オバマ大統領は電話会談で安倍首相がロシアを訪問することに対する強いに懸念を表明した。「ロシアに行くなら、5月の伊勢志摩サミット後にしてほしい」と迫った。

しかしこれに対し安倍首相は、「日ロ間には重要な問題がある」と説明し、オバマ大統領の要求を実質的に拒否した。政府関係者は「首相の訪ロ方針は変わらない。米国には引き続き、理解を求めていく」と強調している。

もちろん安倍政権のこうした動きには、停滞している北方領土問題の進展を図る強い意図がある。

しかし、2014年2月に始まったウクライナ紛争以降、EUを巻き込んでロシアを封じ込めたいオバマ政権にとっては、アメリカの頭ごしに行われている日本とロシアの接近は許容できない事態であるはずだ。

Next: アメリカ政府が許容できないとする「3つの同盟」とは?



アメリカが許さない3つの同盟

しかしその後も日本はこの動きを止める気はまったくない。3月14日にラヴロフ外相は、安倍首相のロシア訪問を含めハイレベルな交渉を東京で準備している事実を明かした。

ちなみに米外交政策の奥の院である「外交問題評議会」が発行している外交誌『フォーリン・アフェアーズ』などの記事を見ると、米政府が許容できないとする3つの同盟があることが分かる。

  1. 日中韓+アセアンの共同体
  2. ドイツとロシアによるロシア-EU同盟
  3. 日本とロシアの同盟

この3つの同盟ができてしまうと、アメリカの国益に軍事的にも政治的にも挑戦可能な強力な共同体ができてしまうので、アメリカの国益にとっては最大の脅威となると認識されている。

まず(1)だが、これができると東アジアに全世界のGDPの4割を占める巨大な経済共同体ができる。これが安全保障の同盟まで進化すると、どの国もアメリカの軍事力に依存する必要性がなくなるので、アジア全域からアメリカは追い出されることにもなる。

そして(2)だが、これと同じことがヨーロッパでも起こり、ロシアとEUとの決定的な緊張緩和からアメリカの軍事力の必要性はなくなる。

また(3)も日本とロシアとの同盟が締結されると、やはり北東アジアにおけるアメリカの軍事的な存在はまったく必要がなくなる。

これらの3つの同盟が機能すると、アメリカは世界にコミットすることができなくなり、国内に引きこもって孤立するしかなくなると考えられている。孤立するとアメリカの国益は世界の多くの地域で損なわれ、2流国家に転落するというのだ。

この最悪の状況を回避し、(1)(2)(3)の各地域でアメリカの国益を保持するためには、これらの同盟が形成されないように一定程度の緊張関係を維持しなければならない。

(1)であれば尖閣諸島と竹島の領有権争い、(2)は現在のウクライナ紛争、そして(3)は北方領土問題である。これらの問題は、同盟関係の形成を難しくさせるためのいわば装置としての役割を果たしている。

このような事実から見ると、いま安倍政権が急速に進めているロシアとの接近は、オバマ政権は絶対に許容できないはずだ。これを阻止するために、あらゆる方面で圧力をかけてくるに違いない。

Next: 本格的に追い詰められる安倍政権~個人スキャンダルの暴露も?



本格的に追い詰められる安倍政権。個人スキャンダルの暴露も?

このような視点からワシントンポスト紙の社説と、「国連女子差別撤廃委員会」の日本への勧告のタイミングを見ると、やはり国連の勧告も安倍政権を追い詰める圧力として機能していることが分かる。

すでに安倍首相はプーチン大統領と8回も会談している。これはいずれオバマ政権の忍耐の臨界点を越えるに違いない。もし安倍首相がロシアとの急接近を止めないとするなら、安倍政権にはさらなる圧力があると見て間違いないだろう。

いまは安倍政権のメディアに対する圧力や従軍慰安婦などの社会的なことに批判が集中しているが、今度は安倍首相個人のスキャンダルの暴露が始まる可能性も否定できないはずだ。

加速する参院選に向けての動きのなかで、アメリカからの圧力による暴露が進むかもしれないのだ。

アメリカは何を目標にしているのか?

ところでアメリカの覇権の凋落が指摘されて久しい時間が経つ。事実、現在の米大統領選を見ると、トランプやサンダースを始め多くの候補がアメリカは世界へのコミットメントを減らし、国内問題に専念すべきだと主張している。そのような主張を見ると、アメリカの指導層自ら覇権の凋落を規定事実として容認しているように見える。

だが、アメリカの政策決定者の論文を読むと、覇権の凋落と放棄は、必ずしも国内に引きこもる孤立主義を意味しないことが分かる。むしろ、世界に対するコミットメントを減少させながらも、アメリカが「2流国家」に転落することが絶対にないような新たな世界秩序の構築を模索している。

そして、この新たな秩序の構想と、安倍政権のロシア急接近への警戒感が深くリンクしているのだ。これは記事を改めて書くことにする。

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』(2016年3月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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