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SBI証券が売買手数料無料化を発表…「信用取引」に気をつけなければならないワケとは?=栫井駿介

SBI証券が投資信託の販売手数料を無料化するというニュースが入ってきました。そうなると、証券会社の収入はどうなるのでしょうか、その裏側を解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

私の後悔から伝えたい、信用取引の安易な利用を避けるべき理由

証券会社が手数料を無料にするのはなぜか?タダより高いものはない

SBI証券が投資信託の販売手数料を無料化するというニュースが入ってきました。

※参考:SBI証券、投信など手数料の無料化を発表 16日から-日本経済新聞(2019年12月4日公開)

また、ETF・REIT・ETN(上場投資証券)の信用取引、さらに夜間の私設取引システム(PTS)利用料も実質無料になるということです。

手数料無料化は、世界的な潮流でもあります。アメリカのオンライン証券最大手、チャールズ・シュワブも米国株等の売買手数料を無料にする計画を発表しました。

※参考:米ネット証券各社の株価急落、シュワブ手数料撤廃で競争激化へ-Bloomberg(2019年10月2日公開)

しかし、このような話には必ず裏があると考えなければなりません。

彼らもボランティアでやっているわけではありませんから、手数料を無料化することで、逆にどこかで利益を得ることを考えているはずです。

シュワブ社の収益の内訳を見ると、答えは一目瞭然です。彼らの収益の大部分は信用取引の金利収入が占めます。逆に、価格競争により売買手数料の占める割合は低下しています。

この流れを踏まえると、収益源を売買手数料から信用取引の金利収入に移行させようとしていることがわかるのです。逆に言えば、全体の1割に満たない売買手数料を切り捨ててもデメリットは小さいと言えます。(ちなみに、米国の信用取引金利は7%前後と日本の2倍程度です。)

同じことが日本でも起きる可能性があります。つまり、手数料無料化を大々的に打ち出す一方で、「アメリカ型」の信用取引を積極的に勧めてくる可能性があるのです。現に、SBI証券の収益における最大項目も信用取引の金利収入(金融収益)となっています。

このように、無料になるという場合は、裏に何があるかを考えなければなりません。それを知ったうえで、問題ないものは利用し、決して戦略にはまらないようにしましょう。タダより高いものはないのですから。

Next: 信用取引に手を出してはいけない?そのワケとは…



なぜ信用取引が危険なのか?

ここで改めて信用取引について考えてみます。

会員の方からもしばしば「信用取引はどうですか?」と聞かれますが、私はおすすめしません。特に、株式投資に慣れていない人は決して使うべきではありません。

信用取引とは、担保を預けることで「借金」をして、担保の3倍程度まで取引できるようになることです。例えば、100万円の現金を担保に入れて、200万円分の取引を行うという具合です。

上記はいわゆる「2倍」の取引です。これにより、銘柄に投資していたとしても、損益は2倍に膨れ上がります。10%上昇すれば20%の利益、10%下落すれば20%の損失になります。

これだけなら、単に損益の幅が拡大するというだけで済みます。ハイリスク・ハイリターンの取引で、「うまくいけば」大きく儲けることができるわけです。

しかし、信用取引で本当に危険なのは「追証」(追加保証金)が発生した時にあります。

2倍の取引をしていると、株価が25%下落すると追証が発生してしまいます。(現金担保、委託保証金維持率25%の場合。)すると、取引をやめるか、追証を支払うかの選択を迫られます。

2倍ですから、株価が25%下落しているということは、あなたの損失は50%、元手が半分になってしまっているということです。

ここで多くの人は冷静さを失ってしまいます。すなわち、50%の損失を確定させてしまうよりも、まだ株価が復活することに賭けてしまうのです。

しかも厄介なことに、「自分は大丈夫」だと思っていたとしても、人間心理的に損失を確定させるのは相当辛いこととになりますから、その不快感から大多数が復活に賭けてしまうのが現実です。本能には逆らえません。

追証を支払ったが最後、泥沼にはまってしまいます。一度追証ラインに抵触すると、わずかな下落で再び追証が発生することになります。そうこうしているうちに、やがて手を付けてはいけないお金にまで手を出してしまうのです。

以上が信用取引の危険性です。これを理解していれば、不用意に信用取引に手を出すことはなくなるでしょう。

Next: 信用取引を使うのは暴落時、強く止めるワケは…



私が口酸っぱく警鐘を鳴らす根底にある「後悔」

上記のような危険性から、私は信用取引をおすすめしません。まして、長期投資の場合はなおさらです。株価が全く上がらなくても金利3%だけは確実にかかる不利なゲームだからです。

万が一長期投資で信用取引を利用するタイミングがあるとしたら、「ここぞ」という時に限られます。

例えば、リーマン・ショック級の下落が訪れ、市場に割安な銘柄がゴロゴロ転がっているとします。しかし、あいにく手持ちの現金がありません。持っている株も大きく下落していますから、売るに売れず、そもそも割安なので手放したくありません。

そんな時にこそ、持ち株を担保にした信用取引で有望株を買うことが考えられます。これで足りない現金を補うことができるのです。そこでは、買うのは現物株の範囲内までとします。こうすれば、そこからさらに現物と信用の両方が30%以上下落しなければ追証は避けられます。

もっとも、これを実行するには「ここぞ」というタイミングを自分で判断できなければなりません。株価は予想を超えて大きく変化するものですから、やはり軽い気持ちでの利用は避けるべきです。

せっせと元手を作り、それをこつこつ投資して「資産」と「経験」を雪だるま式に膨らましていくことが長期投資の基本となります。最初から安易に信用取引に手を出すようでは、資産形成はうまく生きません。

また、私の判断も完全ではありません。かつて私が銘柄選択を間違えた時、入会したてでその銘柄を信用取引で購入した会員の方がいらっしゃいました。その方には信用取引の解消をおすすめしましたが、株価下落で引くに引けなくなり、最終的に数百万円もの損失を被らせてしまいました。

今思えば、信用取引の危険性をもっと直接的に伝えるべきだったと思います。

二度と同じようなことを繰り返したくないからこそ、また皆様の資産を守るためにも私は口を酸っぱくして言い続けます。「安易な信用取引に手を出してはいけません」。証券会社の甘い勧誘には気をつけましょう。


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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2019年12月9日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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