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新規上場したメドレーの成長は、リハビリなどの治療をサポートする事業強化に期待

メドレー<4480>は、2019年12月12日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格1,300円に対して初値は-2.31%の1,270円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月29日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から2.31%下落し、1,270円でスタート

メドレーをジョブ理論の視点からみる

株式会社メドレー<4480>(以下、同社)は、2019年12月12日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、人材採用システムの運営と提供、クラウド型診療支援システムの開発と提供、介護施設情報の掲載サービス等です。

同社の株価は、公募価格1,300円に対して初値は1,270円をつけました。差異率は-2.31%と値を下げました。なお、1月28日時点の株価は1,405円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社グループは、人材プラットフォーム事業、医療プラットフォーム事業、新規開発サービスの3つの事業を展開しています。

人材プラットフォーム事業は、医療ヘルスケア領域の事業所を顧客とし、成果報酬型の人材採用システムを運営・提供し、その対価として収益を得ます。

医療プラットフォーム事業は、医療機関を顧客とし、クラウド型診療支援システムを開発・提供し、その対価として収益を得ます。

新規開発サービスは、継続的に新規事業の開発を行っています。

ビジネスモデル的にみれば、人材プラットフォーム事業のそれは、医療ヘルスケア領域において働きたい人と雇いたい人をつなげるネットワーク促進型事業であり、医療プラットフォーム事業のそれは、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──クラウド型診療支援システム──へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社グループは、対処すべき課題の一つとして「医療プラットフォーム事業及び新規開発サービスへの継続投資」を、事業等のリスクとして「インターネット関連市場について」「医療ヘルスケア市場について」「人材プラットフォーム事業における不正行為について」等をあげています。

Next: メドレーが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社グループが課題とする「新規開発サービスへの継続投資」を取り上げます。同社グループはそれを次のように認識しています。

新規開発サービスについては、介護施設検索サイトとして「介護のほんね」を運営しております。介護のほんねにおいては、事業の立ち上げ期であること等から黒字化できておりませんが、現在は入居者紹介に基づく成果報酬が収益の中心となっており、今後のさらなる収益化及び既存事業との連携等の様々な方向性を検討しております。また、介護のほんね以外にも、既存事業とのシナジーを活かす形で、医療ヘルスケア領域を中心として事業領域を拡大しテクノロジーを活用して課題を解決するサービスを開発・提供してまいります。

ここで着目したいのは「医療ヘルスケア領域を中心として事業領域を拡大」ということ。それとつなげるのは「リハビリ」です。なぜなら、健康に不安がある顧客は、リハビリを雇うことによって、介護が必要となる時期をある程度は遅らせることが期待できるからです。ただし、それは既存の事業である介護施設検索サイトの売り上げを減らす可能性も否定できません。

こういった状況で顧客「本人および家」がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「衰えた体の機能を回復させる」ということ。感情的側面として「不安の軽減」、社会的側面として「家族への負担」といったことを重視しています。

なお、同社グループは競合を次のように認識しています。

当社グループは、医療ヘルスケア領域におけるインターネットサービスの提供を主たる事業領域としておりますが、同様の事業領域における競合企業は多く存在しています。当社グループでは、インターネット業界で活躍してきたエンジニアと臨床現場で活躍してきた医師の双方がサービスの開発に関わる開発体制に加え、17.5万顧客事業所数を有する顧客基盤を活かして他社との差別化を図ることで、市場における優位性を構築してまいりました。今後も、当社グループの各サービスの規模拡大と質的な充実を図ることにより、一層の競争力強化を推進していく方針ですが、新規参入等の影響により競争が激化した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

Next: メドレーがすべきは、地域リハビリテーション事業の立ち上げ



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客である健康に不安がある高齢者にとって障害となり得るのは、具合が悪くなった際の一時的な入院ではなく、むしろまた体の具合が悪くなれば、その都度受け入れてもらえる医療機関を探して移動しなければいけないことです。それは、患者本人だけでなく家族にとっても肉体的・精神的、さらには経済的な負担になってしまいます。(k目当メルマガ第201号より抜粋)

こうした障害を取り除く手段の一つとして、地域リハビリテーションがあります。『医療マーケティングの革新』によれば、それは次のような考え方に基づいたものです。

(前略)健康に不安がある人も、住み慣れた地域でできるだけ長く暮らせる環境を整えることが重要である。このような考え方は地域リハビリテーションと呼ばれ、「障害のある子供や成人・高齢者とその家族が、住み慣れたところで、一生安全に、その人らしくいきいきとした生活ができるよう、保健・医療・福祉・介護及び地域住民を含め生活にかかわるあらゆる人々や機関・組織がリハビリテーションの立場から協力し合って行う活動のすべて」を指す。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「健康な体を維持することで、住み慣れた地域でできるだけ長く暮らす」というすぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

医療ヘルスケア領域におけるインターネットサービスの提供を主たる事業領域としている同社グループにとって、社内プロセスの統合という意味で課題となるのは、上記で述べた地域リハビリテーションを支援することです。具体的には、保健・医療・福祉・介護および地域住民がつながるプラットフォームを構築することです。

では、同社グループがこうしたプラットフォームを構築するのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──顧客がプラットフォームにアクセスした件数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・恩藏直人/編著 岩下仁/編著『医療マーケティングの革新』(有斐閣)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月29日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by:metamorworks / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月29日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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