今回の書評は『やってはいけない不動産投資』。これは名著です。絶対にみんな読むべきです。「業者の手口、ぜんぶバラす!」と帯に書かれていますが、本当にバラしています。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。合間の不動産投資で資産1億円を達成し独立。年間100件以上行う現地調査の情報と高い問題解決力で、顧客ごとに戦略策定から実行までを一貫してサポートしている。
不動産業界は腐りきっている?業者の悪い手口をぜんぶバラす名著
相場の2倍でクズ物件を売りさばく…悪質な不動産業者の一部始終
この本を読むと「不動産業界がどれくらい腐りきっているか」がわかります。
平気でうそをつき、源泉や通帳などを改ざんし、空室はカーテンをつけて入居を偽装し、相場より高い家賃での賃貸借契約書を偽造し、気の弱い買主はおどし、プライドの高いエリートはおだて、なだめすかし、相場の2倍でクズ物件を売りさばく。
その一部始終をしっかりと記録して(証拠写真も載せて)告発しているのが本書です。
朝日新聞の記者である著者が、実際に加害者・被害者に取材をした内容をまとめた珠玉の一冊です。
「よくもまぁ、ここまで悪質な人たちを集めたもんだ」と思うくらい、この業界の腐った部分をしっかりとつまびらかにしてくれています。
絶対に読むべきこの本のポイントを見ていきましょう。以下、著者の言葉を抜粋します。
二重契約書を納得させる言葉「お値引」
常套句の一つは「お値引」である
1800万円で売り買いすることに合意しているものの、いったん2200万円という水増し価格で契約書を交わしたあとに、400万円分を「お値引」する形とする
実際には金融機関に嘘の申し込みを行うわけですが、
「お値引」という言葉には、どこか不正の意識を薄め、罪悪感も打ち消す効果があるらしい
利回りすら覚えていない買主
業者の言うことを鵜呑みにした買主は、
「毎月20万~30万円のプラス」と言われたことも、口からでまかせだった。
家賃保証は2年ほどで途切れ、その後は(中略)月に約20万円の赤字
ボロボロで買い手もつきにくいマンションを相場よりも5000万円以上高く買ってしまった
Next: 預金通帳のスキャン画像を切り貼り?年収改ざんも日常茶飯事…
とある業者と銀行員のやりとり
「このままだと審査は通らないですね」対応した行員にそう言われて、断られるのかと思ったら、違った。
スキャンした預金通帳の画像から数字を切り貼りしてつくってみた
数字や桁を間違え、行員から「ダメですねー。また間違ってますよ!」とにこやかに突き返されたこともあった。
別の行員がある社名を教えてくれた。
その会社は通帳コピーの偽造をお金で請け負う会社だった!
(1口座10万円で偽造を請け負うそうです。)
自己資金なしでの投資に飛びつく人たち
「自己資金なしで買える」とわかると、飛びつく人が多いです
ターゲットはワンルーム投資の経験がある人で、多くはすでに借金を抱え、貯蓄が少ないことが多い。
つまり、これ以上融資が出ない人であるため、
ほぼ全員のエビデンスを改ざんした
さらに年収の改ざんも!
通帳を改ざんすることに慣れてしまうと、年収を改ざんすることにも抵抗はなくなる
「年収を倍に増やす業者もいるそうですが(中略)私の場合は、あと100万か200万」
どこか誇らしげに言うが、悪事を働いていることに変わりはない
「10人いたら8人くらいは年収もいじってますね」と白状した
Next: 不正のミスをチェックするためのチェックシートも!? 良心はどこへ…
不正のPDCAを回すW社
東京・新橋に拠点があったW社
W社では、スルガ銀で不正融資ができなくなったあとも、三井住友銀行やりそな銀行、西武信用金庫、千葉銀行などに偽造した資料を提出し、多額の融資を引き出す不正を続けていた
その動かぬ物証が、W社が物件ごとに作成していた「エビデンスファイル」と呼ばれる資料。偽造した内容にミスがないかどうかを点検するためのチェックシートだ
これはすごいです。不正のミスをチェックするためのチェックシート(笑)。
点検項目には、「残高は指示された金額か」「名義や口座番号は正しいか」「取引日は平日か」「ページ表記は間違いないか」などとある
回覧した従業員や幹部、社長のハンコもしっかり押されてあった。
エビデンス改ざんのチェックシートを社内回覧して、幹部と社長チェックまで入れるなんて、とんでもないですね。
PDCAを回し、点検項目は日々バージョンアップしていったそうです。
まともに働けばちゃんとできる能力を持っているのに、やっぱり、まっとうに働きたくないんでしょうか。不思議ですね。
不正を極めるW社
W社のスゴイ話はまだあった
銀行のホームページそっくりの画面を作り
融資審査でネットバンキングのログインを求めるようなら(中略)ニセモノの大手銀行のトップ画面
から
客がそこへ口座番号を打ち込んでログインすると、偽造した出入金記録や預金残高と同じデータが表示されるカラクリだ
とんでもないです。
「ウチは厳しくなった審査をいかにくぐりぬけるかに血道を上げる」
「お客さんは一緒に銀行をダマした気になっているが、自分が割高な物件を買わされていることには気づかない」
W社では従業員のほとんどが退職を迫られ、間を置かず会社は営業停止となったが、主要メンバーは関連する別会社に移り、不動産ビジネスを続けている
Next: 入居を偽造!悪徳業者はここまでやるのか…/自殺者も出るO社の手口
入居を偽造!ここまでやるのか…
「明日午前中カーテン行きます。終わり次第連絡するので、現地調査入れてもらっていいですか」
銀行員と交わしたLINEには、そんなやり取りも残っていた
銀行の審査部門による「現地調査」に備え、入居者がいるように見せかけるため、空き部屋にカーテンをかけに行くことを担当行員に伝えたものだ
ただカーテンをつけるだけではない
電気メーターが回っていることも確認されるため、リサイクルショップで買ったビデオデッキを持ち込んで延々と再生し、適度に電力を消費させるという手の込みようだった
自殺者も出るO社の手口
「不動産に投資すれば、消費者金融の借金を帳消しにできる。」
O社は消費者金融やカードローンで借金を抱える公務員や会社員を狙い撃ちにした
年収は300万円台でも400万円台でも構わない。どうせ源泉徴収票は偽造するので
売りつけるのは、築30年超で管理状態も悪い、北関東地方の1棟マンション
契約にこぎつけたら、消費者金融への借金は業者が肩代わりして完済する
年収は水増しし、預金通帳も偽造、空室だらけの物件が8割以上埋まっているように偽装もして、社員同士で賃貸借契約書を捏造する
銀行から1億円程度の融資を引き出せれば、もとは6000万円程度の物件なので、数百万円の借金を肩代わりしても十分な利益
O社の客には自己破産するものがめずらしくなく、なかには自殺してしまった人もいるという
有名タレントCMもご用心!
S社では2016年から、有名俳優を起用したテレビCMも流すようになった。その結果、セミナーへの出席者数は大幅に増え、客の属性も高くなった。
それは高値の物件をつかみ、過大なリスクを負う会社員が増えていることの裏返しでもある
Next: 超悪質な不動産業者は野放しの行政。消費者はダマされないで…
超悪質な不動産業者は野放しの行政
以前はスルガ銀の融資で不正に明け暮れた業者の一人は、こう言っています。
「投資したい客がいて、稼ぎたい業者もいる。やるしかないじゃないスか」
日本の不動産業政が、悪徳業者を野放しにしているツケだと言えるでしょう
犯罪同前の営みが平然と行われていても、刑事罰どころか、業者が免許取り消しや業務停止となることもなく、不正に手を染めた業者の多くは素知らぬ顔で営業を続けています。
不正に関与した業者は見渡せるだけでも軽く100社を超えるのに、1年で2社しか処分しないのはやはり不十分です。
すこし調べれば、証拠はすぐ集まるのに、それをしようとはしない行政はあえて目をつぶっているのかと思われるほど後ろ向きだ。真意はさっぱりわからない。
総括
本当に名著にふさわしい、充実した内容でした。
不正について当事者にインタービューし、不正の証拠としてLINEのやり取りや、改ざん資料の写真を掲載した本書は、不動産投資家すべての常識となるべき本だと思います。
人をダマして儲けようとする悪人が多数存在するのが不動産業界です。この本を読むと本当に人間不信に陥りそうになります。
真面目にコツコツと社会的地位を上りつめたサラリーマンや、心優しい医師などの人の好さにつけ込む狡猾さは、読んでいて気分が悪くなるほどです。
だましてくる悪人がいなくならない以上、知識をつけて自分の身は自分で守るしかありません。
悪質な事例をこれでもか!とふんだんに盛り込んだ本書は、投資家必読の一冊です。
『やってはいけない不動産投資』目次
・はじめに:一流エリートが“カモ”にされるワケ
・第1章:「長期保証」で油断させる
・第2章:「今がチャンス」と錯覚させる
・第3章:「リスク」から目をそらす
・第4章:「不正」には気づかせない
・第5章:「高利回り」と見せかける
・第6章:「ウソ」は堂々とつく
・第7章:それでも投資したい人のために
・おわりに:参考文献/不動産業界“ウラ”用語索引
筆者・姫野秀喜の新著が発売されました!
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『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』(2020年3月5日号)より一部抜粋
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