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クルーグマンと安倍首相の議事録『Meeting with Japanese officials』を読む=吉田繁治

政府は米国のノーベル賞経済学者、スティグリッツとグルーグマンを招き、日本がとるべき経済政策を「進言させて」います。させているというのは、意図的だからです。(『ビジネス知識源』吉田繁治)

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日銀の異次元緩和失敗と政策変更、アベノミクスの転換

著名経済学者に「消費税延期」を言わせた安倍首相

異次元緩和と称したリフレ策の開始後、ちょうど3年経ちました(2013年4月~)。2年で2%のインフレ目標と、名目GDPの成長を3.5%から4%に上げるというリフレ策は、ほぼ完全に失敗しています。

スティグリッツは、以下を言いました。
(1)2016年の世界経済は、減速期に入った
(2)日本は、2017年4月の消費税増税を避けるべきである
(3)TPP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement:環太平洋戦略的経済連携協定)、簡単に言うと「関税の撤廃」は、間違った政策である。TPPが、米国の議会で批准(承認)される見込みはない。日本政府も取り下げたほうがいい

安倍首相は、「リーマン危機や大震災級の危機が襲わない限り、消費税は予定通り2%上げる」と国会と会見で言明しています。ひっこみがつかなくなっている首相は、スティグリッツとクルーグマンに、消費税延期の見解を言わせたのです。

そして次は、クルーグマンです。クルーグマンは、大型の補正予算を使う財政出動をせよと言う。財政赤字が大きく、国債残が1034兆円を超えた日本では、財政赤字を増やす財政出動はタブーですから、クルーグマンに言わせて赤字予算に道をつけることが目的です。

クルーグマンは、マネタリスト説である異次元緩和の効果が出ないので、昨年11月から、ケインズ的な財政支出に転じています。

クルーグマンは、次のように述べています(2016年3月16日)。
Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

政府は、財政赤字拡大のタブーを、クルーグマンに「日本は、数十兆円の財政出動が必要だ」と言わせることによって破ろうとしています。7月の参院選前には、最低でも5兆円(GDPの1%)~10兆円スケールの補正予算を組むはずです。

クルーグマンの発言

政府の主要閣僚に対するクルーグマンの講演の原文を載せつつ訳し、解釈します。今後の日本の経済政策になることがほぼ確定していると思われるので、これは重要です。クルーグマンには政治的な発言が多い。

以下は、記者を退席させた上での講演内容です。日本語は当方のつたない翻訳です。例によって、クルーグマンの英語はとても難しい。

Monetary policy has been, in most places, the only game in town. It’s their line because fiscal policy has been politically paralyzed. Here, less so, but still in fact, of the three arrows by far the largest, so far has been monetary. Mr. Kuroda has done most of the lifting here.

We are seeing the limits of monetary policy. We are seeing that it becomes difficult when you try the unconventional methods, we can argue this but it seems to be having diminishing effect.

Negative interest rates, it is remarkable that that turns out to be possible. I do think it was the right move to make but it is very hard to push it further. The effects are proving to be limited.(1)

マネー政策は、多くの国で、唯一の手段になっています。財政出動は政治的に麻痺し、実行できないと異口同音に言われるからです。日本ではそれほどではないでしょうが、ここでも、やはりそういった面があります。政府の「3本の矢」のうち最大のものは、今までのところ金融緩和です。黒田総裁はこの金融緩和のほとんどを、実行しました。

しかし我々がいま目にしつつあるのは、この金融政策の限界です。非伝統的な政策(量的緩和)は試みることができ、議論もできますが、その効果が次第に減ってきていることを、われわれは目の当たりにしているのです。

マイナスの金利も、それが可能とわかったことは驚くべきことです。マイナス金利は正しいものであり、実行すべきものでした。しかし、これ以上、それを押し進めることは難しい。限定的な効果しかないことが明らかになってきたからです<翻訳(1)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

クルーグマンは有名になった論文『流動性の罠(日本が陥った罠)』で、日本に対して、「政府がインフレにするとコミットし(国民のインフレ期待を高め)、その証拠としてマネーを増発すること」を説いています。

これが、2013年4月から日銀が実行した、「2年をめどに2%のインフレ目標を達成するため、ベース・マネーを2倍に増やす」という異次元緩和でした。

ベース・マネーは、現金+金融機関がもつ日銀当座預金です。2016年3月20日で、発行現金95兆円、日銀が金融機関から預かっている当座預金が261兆円で、合計356兆円に増えています。日銀が買って保有している国債は352兆円です。異次元緩和の開始の前は、現金が83兆円、当座預金が58兆円、合計のベース・マネーは141兆円でした。

日銀は3年間でベース・マネーを215兆円も増やしました。しかしインフレ効果は生じていません。200兆円以上のベース・マネーの増加が、企業と世帯の預金であるマネー・ストック(=マネー・サプライ)の増加につながっていないからです。銀行がもつ国債が日銀当座預金に振り替わっているだけのことです。

このため、異次元緩和の理論的な仕掛人のクルーグマンは、2015年11月から、「金融政策だけでは、インフレ目標の達成は困難」と言い始めました。
Rethinking Japan – The New York Times
異次元緩和は失敗だった。クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む=吉田繁治

今回も、クルーグマンは、インフレ期待の醸成と金融緩和の政策だけでは、脱デフレを果たすことはできなかった。今後もできないと述べています。マイナス金利にまでした金融緩和策も、インフレ効果には限度があるということです。

もっとはっきり言えば「効果がなかった」ということです。あらゆる理論は、実証で検証されるしかない。マネーを増発した日本も欧州もインフレにはなっていません。したがってリフレ策としてのマネー増発策は、ごく限定的な効果しかなかった。

理由は、日本経済が、年間数十万人の生産年齢人口が減っていく人口構造から、潜在成長力(自然成長率)が1%や0%に下がる長期停滞(Secular Stagnation)の状態にあるからです。自然成長率は、インフレにもデフレにもならない状態での、経済成長率です。

(注)GDP=1人当たり生産性×就労人口です。わが国のように生産年齢人口が減ると、1人当たり生産性が高くならないと、GDPは0%~1%の減少に向かいます。これが、ラリー・サマーズが言う長期停滞で(Secular Stagnation)です
サマーズ氏の「長期停滞論」 – 三井住友信託銀行 調査月報 2014年2月号[PDF]

もし長期停滞でなかったら、インフレ宣言と金融緩和は、需要と投資を増やして、リフレの効果を上げたでしょう。借り入れの投資でのROI(期待純益/投資)のプラスが見込めたからです。実質GDPの期待成長がゼロの場合、投資のROIが見込めません。

これが、企業が利益を現金で貯めている理由です。企業の内部留保(主は預金)は、354兆円に増えています(2014年:金融・保険を除く:法人企業統計)。260万社で1年に24兆円も増えたのです。

原因は、260万社合計では純益以下の投資しかしていないからです。GDPの増加予想がなく、投資によるわが社の売り上げの増加予想も低いため、全体では借り入れをすることがない。このため、リフレ策である金融緩和の効果が出ない。金利をゼロやマイナスにしても企業は借り入れでの設備投資を増やさないからです。

ただしこの金融緩和は、株価と土地価格上昇には効果がありました。3大都市の商業地が上がり、東京ではマンション価格が、少しですがバブル期を超えた価格になっています。しかしこれは、金利が少し上がれば、下がる性格の価格上昇です。1980年代までのように世帯の住宅需要が増えているわけではないからです。

Next: 金融政策は欧州でも無効/日本政府が採るべきは財政の拡張政策



リフレ策としての金融政策は、欧州でも無効になっている

If we look elsewhere, if we look in Europe, despite another very able essential banker, the ECB seems to be losing traction. Here, as you know better than I, inflation expectation seems to be fading. Wage growth is not what it should be. We are seeing that the policy that has been the principle lever for trying to deal with this global weakness is not as effective as we had hoped and not as effective perhaps as it seems to be recently.(2)

例えばヨーロッパに目を向けても、もう一人の有能な銀行家(ドラギ氏)がいるにもかかわらず、ECB(欧州中央銀行)は牽引力を失いつつあります。皆さんがよく知っておられるように、欧州のインフレ期待(=インフレ予想)は、萎(しぼ)んでいます。賃金の上昇もあるべき水準よりは低い。

われわれは今、世界的な経済の弱さに対処する、もっとも肝心なテコであるべき政策(金融緩和)も、過去に期待していた効果がないこと、そして最近まで効果のように見えていたものすら失っているのを、目の当たりにしつつあるのです。<翻訳(2)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

コメントする必要はないでしょう。クルーグマンは、金利がゼロの流動性の罠に陥った日本に異次元緩和を勧めた張本人です。異次元緩和が、リフレ策として失敗だったことをクルーグマンは述べています。

ただし日銀と政府は、決して「異次元緩和」が効果を生んでいないことを認めません。認めれば、責任の追及を受け、政治的に不利な位置に立つことになるからです。

日本政府が採るべきは、財政の拡張政策である

Fiscal policy. Everything we have seen for the past seven years suggests that fiscal policy remains effective, especially effective in these circumstances. It has been very difficult to apply it, a few years of bad debt, political conflict, the Europe is divided among counties, the United States is divided between parties, but fiscal policy iseffective and the global environment right now is one where economies really, really need fiscal support. The idea that one should be prioritizing long-run budget issue over fiscal support now seems to me to be extremely misguided. Obviously I am talking about the consumptiontax here.(3)

次は財政政策です。われわれは(リーマン危機の後の)過去7年間、財政政策は有効であり続けていることを見続けてきました。とりわけ、現在のような環境では有効です。財政政策は、(リーマン危機後)数年間の大きな不良債券の中では、米国では政党間の政治的な対立があり、欧州では国が分かたれていることから、実行がとても難しいものでした。しかし、この財政政策は有効です。現下の世界経済は、真底から財政政策を必要としているのです。財政支援より長期の政府予算の問題を優先すべきだという考えは、今は、まるで見当違いでしょう。私がここで言っているのは(まずは)消費税のことです。<翻訳(3)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

異次元緩和の金融政策が効果を生まなかったから、今度は財政政策という風に、クルーグマンは主張をずらしています。

2011年3月の東日本大震災以来、政府は、復興予算として総額26兆円(年間5兆円)を計上しています。GDPで言えば1年に5兆円(GDP比1%)が、拡張財政になっています。

人手が必要な土木・建設事業が多いため、「復興特需」で建設業は潤って、失業率は下がり、わが国の建築単価は上がっています(物価の上昇)。復興需要がなかったら、わが国のGDPは、毎年1%は低かったはずです。

財政支出は、このようにGDPの増加と物価の上昇に直接の効果をもちます。この財政拡張を日本に行えと薦めるのが、『流動性の罠』での金融緩和の主張を変えて、変身したクルーグマンです。

消費税の増税(2%)は、GDPに対してはほぼ5兆円分の緊縮財政に等しい。したがって、この消費税の増税をやめるべきだと言っています。

Next: 構造改革より財政拡張の時期/安倍首相の質問とクルーグマンの回答



構造改革より財政拡張の時期

Some other kinds of reform, the Abenomics, by expanding the future labor force helps to offset the demographic headwinds that the economies face. So all of that is good but I do worry that sometimes the talk of structural reform becomes an excuse not to deal with the primary immediate issue of sufficient demand, of fighting deflation or low-flation, inadequate inflation, which has got to rely on monetary policy. But as I said, that has limits and fiscal policy which needs to be more focused on that immediate need than it has been.(4)

その他のアベノミクスの経済改革、例えば、(1億総活躍社会としての)将来の労働力の拡張は、日本経済が直面している人口の構造問題を解消することになるかもしれません。それはそれで、いいことです。しかし、私が不安に思うのは、この構造改革が言い訳になって、金融政策にだけ依存して、デフレ(または低インフレ)と戦うための、もっと肝心で直接的な、充分な需要を作ることを行わない言い訳になることです。

金融政策だけでは、ここまで申し上げてきたように、(インフレ効果に)限界があります。今行うべきは、過去より、はるかに直接に必要になった財政政策の実行です。<翻訳(4)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

スティグリッツは消費税増税の延期を言い、クルーグマンは増税の延期(または解消)と、赤字財政の拡張を言っています。

安倍首相の質問とクルーグマンの回答

クルーグマンの「果敢な財政出動に舵を切れ」という提言に対し、安倍首相は累積債務問題を訊ねています。
(注)安倍首相の発言は、オフレコとされていますが、英語では公開されています。日本の記者会見や国会でも言えばいいのにと思うようなことです。安倍首相も米国に対しては、まともになるのかもしれませんね

But we worry about the accumulated debt. That is a source of another concern. What to do about it? But Governor Kuroda took a policy to introduce negative interest rates so that the 10year JGBs yield turns negative at the moment. So, we would like to take advantage of this situation and Japan should come up with a fiscal spending. That is what some of the people are saying right now within Japan. Do you have any view on this? Any observation on this point?(5)

(安倍首相)しかし、私どもは、政府の累積債務の問題を心配しています。これが(消費税の増税を停止することの)不安の源です。これについて、どうすべきでしょうか。黒田日銀総裁は、現在、10年物国債の金利を、マイナスに導く政策を導入しました。われわれは、マイナス金利という状況を利用して、財政支出の拡大を図るべきかも知れません。日本でも、一部の人が言っていることです。これについて、ご意見ないし見解をお持ちでしょうか?<翻訳(5)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

安倍首相は、消費税の増税を停止して財政赤字と国債発行を増やす財政拡張をすれば、政府の累積債務の問題はどうなるだろうかと質問しています。クルーグマンの回答は、以下です。

Third point I would make is that the concerns about the debt, I don’t want to wave away entirely but one thing we have learned from Japan but also from other advanced countries is that stable advanced nations that borrow in their own currencies have a very long road for them to have a fiscal crisis. People have
been betting against JGBs since about 2000. All of them have suffered financial disaster. The robustness of the market is very strong. It is even hard to tell a story. If someone says Japan would belike Greece, tell me how that
happens.(6)

(クルーグマン)3番目に、政府債務の懸念についてです。私は、この問題を完全に無視はしません。しかし、われわれが日本と他の先進国の事例から学んだのは、安定した先進国で、政府が自国のマネーで借り入れをしている場合、財政危機に至るには、非常に長い道のりがあるということです。

2000年から日本国債の下落(=金利の上昇)に賭ける人々もいました。それらの人は全員、破産を蒙っています。(日本の)国債市場は非常に頑健です。円国債の暴落というシナリオは、言葉上でいうのも難しい。日本がギリシアのようになると言うのなら、どうしたらそうなるのかと聞きたいくらいです。<翻訳(6)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

クルーグマンは、従来から「自国のマネーでの先進国の負債は、何ら問題ない」と言い続けています。日銀がマネーを増発すれば、それで足りるからだという。「政府が自国のマネーで借り入れをしている場合は、財政危機に至るには、非常に長い道のりがある」というのがこれです。

果たしてクルーグマンの言う通りか?当方は異なる見解をもっています。ここでは、その理由を短くまとめて示します。

Next: 日本政府の累積債務問題を考える



日本政府の累積債務問題を考える

(1)国債の大きさ
日本の国債は1034兆円とGDPの2倍です。海外が100兆円、日銀が352兆円、国内の金融機関がほぼ600兆円を持っています。GDPに対する財政赤字も、先進国で最大の6%~8%なので、年間で30~40兆円増加し続けます。

(2)金利の低さ
現在の、10年債以下の金利はマイナスなので、平均金利を0%とします。

(3)インフレと金利
政府が、国債を増発し、財政出動をして、その結果、クルーグマンが言うように物価が、恒常的に2%上がるようになったとします。金利の均衡点は〔長期金利≒実質GDP成長率+期待インフレ率〕、です。

財政出動で、実質GDPが2%増、インフレ期待が2%になると、長期金利は、4%に向かって上がります。日銀は金利を抑える役割を果たすので、長期金利が3%になったとします。

(3)金利ゼロの、1034兆円の既発国債の価格は、以下のように下落します。平均残存期間を7年とします。

1034×(1+0%×7年)÷(1+期待金利3%×7年)=1034÷1.21=845兆円

つまり、1034兆円の国債の流通価格が845兆円へと、189兆円も下落します。こうした金利上昇の気配が見えると、金融機関は手持ち国債を、先を争って売るようになります。

売られる国債価格は(日銀が買っても)一層下落し、金利は3%以上に、相当に急激に上がるようになります。クルーグマンが言う「頑健な国債市場」は、金利上昇で、ずぶずぶになるでしょう。
(注)マイナス金利の現在、円の金利が0.5%に上がるだけでも、国債をもつ金融機関は、パニックになるでしょう

金利の上昇(=国債価格の下落)を止めようとして、日銀が売られる国債を全部買い受けた場合、ごく短期間で、1034兆円の国債が日銀所有になります。

日銀は、国債の所有で200兆円近い損失を蒙って、完全な債務超過になります。これは円の、通貨としての国際的な信用を落とすため円売りが起こり、為替は、急速に大きな円安になります。

円安とは、「ドル買い/円売り」であり、円が海外にキャピタルフライトすることです。大きな円安は、円の金利を上げる働きをします。

(4)
国債を日銀に売ってしまった金融機関は、日銀当座預金に、1000兆円近い、ゼロ金利のマネーを置くことになります。

この場合、金融機関は、日銀当座に預けるゼロ金利の資金を、ドルやユーロに変換するでしょう。円を持てば、損をするからです。ここからも大きな円安に向かいます。(注)ゼロ金利では、収益ゼロで経費のみが出る銀行は、成り立ちません。

(5)
政府が新規に発行する国債の利は3%に向かって上がります。毎年、政府は170兆円くらいの借り換えと新規発行があるので、政府の利払いは、ほぼ5年で、〔170兆円×5×3%=25.5兆円〕になります。

現在の利払いは10兆円程度であり、とても少ない(平均金利1%)。これが、利払いだけの要素で15.5兆円の財政赤字として増えます。毎年、数兆円ずつ増えていくのです。利払いのための国債の増加発行が必要になり、毎年の新規発行が70兆円くらいに上がります。

以上のような事態です。政府の債務がGDPの200%を超えて、しかも経済成長率が低い日本は、財政出動でインフレになって、金利が上がるという事態に対して耐久性がないのです。

実質経済成長が5%以上なら、税収も増えるので耐久性があります。しかし日本経済の実質成長は、高くても2%でしかない。普通の状態では1%です。クルーグマンは、金融の超緩和と同時に財政出動をしても低い、日本経済の成長率を無視しています

加えて、クルーグマンは、期待インフレ率、通貨、及び金利の関係をどう考えているのでしょう。物価が上がるようになって、人々の期待インフレが2%に上がって、市場の期待金利が0%のままということは、ありえないことだからです。
(注)物価連動債で見る現在の期待インフレ率は0.3%程度と低い。このため国債の金利が低い
ブレーク・イーブン・インフレ率(BEIの推移) – 日本相互証券

増発マネーが日銀当座預金に滞留する金融緩和とは違い、財政出動では、それが、毎年、10兆円規模に膨らめば、実質GDPを10兆円は増やすとともに、2%のインフレに向かうでしょう。

そして、インフレになれば、金融市場の期待金利は上がり、国債価格は下落します。以上のような事態は考慮の外に置き、クルーグマンは以下のように言っています。

But whatever the number is, you need to achieve that. Compare with that goal what the budget balance is over the next two or three years is of much less importance. ・・・ I would say, this is not a time to be worried about the fiscal balance.(7)

(インフレの数字がいくつであれ)、インフレ目標を達成せねばなりません。このインフレ目標の達成と比較するなら、次の2年、3年の財政収支がどうであるかの重要性は、はるかに低い。今は、財政のバランスを案じる時期ではありません。<翻訳(7)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

Next: 【結論】財政出動に向かう日本の懸念点~2018-2020年危機へ



【結論】財政出動に向かう日本の懸念点~2018-2020年危機へ

こうしたことから、以下のように判断します。内閣の発足前から、アメリカから言われたことは、安倍政権は実行してきたからです。

直接には、浜田宏一氏がつなぎ役を果たして呼んだ、スティグリッツとクルーグマンは米国政府の代理だったのでしょう。
(注)スティグリッツやクルーグマン氏は世界の政府から、頻繁に招へいを受けています

  1. 2017年4月の消費税増税は、ほぼ完全に消えた
  2. 政府は、7月の参議院選所前に、財務省の反対で少ない場合は5兆円、多い場合は10兆円の補正予算を組み、財政出動に乗り出す

中身は、土木・建設、子育て支援、待機児童解消の保育園建設、商品券、旅行券でしょうか。いずれも、財政赤字と新規国債発行を増やす「バラマキ」です。補正予算の対象は、構造的になる年金や医療費予算の増加ではない。

安倍内閣は参議院選挙で、憲法改正(中心は9条)に必要な2/3を得るために、経済と株価を道具にします。

しかしインフレ目標の達成には1年では足りません。最低でも3年必要です。3年の拡張財政をどう正当化するか、です。1年の打ち上げ花火で終わるかもしれません。

日銀の異次元緩和と同様、財政出動も、「いつかは終わらねばならない」ため、終わるべき時に、問題を生みます。

こうした曲折を経て、2018年ころの財政破産(=金利上昇)に向かっていくのでしょう(最高に遅い場合2020年か)。2015年と見ていいましたが、日銀の異次元緩和で、3年くらい先に延びた感じです。

【関連】日本財政の臨界点。我が国のバランスシートが示す「2020年危機」=吉田繁治

ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則』(2015年3月31日号)より一部抜粋、再構成
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

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