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【展望】円高一服なら株価反発も、上値追いは来週以降の「お楽しみ」に=馬渕治好

先週の為替動向をみると、実は円は多くの通貨に対して下落しており、全面的な円安と言える状況。しかし対円で下落した数少ない通貨の一つが米ドルでした。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

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最大の悪材料は「ドル安・円高」 しばらく株価の上値は限定的か

過ぎし花~先週(3/28~4/1)の世界経済・市場を振り返って

全般的に円安だが、日本株は米ドル安・円高に振り回された

【まとめ】
先週の為替動向をみると、実は円は多くの通貨に対して下落しており、全面的な円安と言える状況でした。しかし対円で下落した数少ない通貨の一つが米ドルでした。米国の経済指標は堅調であり、またイエレン議長の講演を受けて米ドルが下落したのも行き過ぎの感が強いですが、日銀短観で回答企業の為替前提がかなり円安水準であったことも加わり、日本株は米ドル安・円高を大いに悪材料視して、世界でも突出した下落となりました。

【詳細】
今週は、まず世界の主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース、原則1か国について1株価指数だが、日米は複数指数を採用)からみてみましょう。

ベスト10は、上昇率の高い順に、アルゼンチン、ハンガリー、ナスダック総合、ルクセンブルグ、ギリシャ、オーストリア、ブラジル、パキスタン、チリ、ニューヨークダウで、米国株が強かったことがわかります。

一方ワースト10は、下落率の高かった順に、日経平均、TOPIX、ノルウェー、モロッコ、イスラエル、イタリア、スペイン、フィリピン、豪州、南アフリカで、日本の2指数が最下位です。しかも、日経平均もTOPIXも、週を通じて4%以上の下落をしていますが、他国の株価で4%台はおろか、3%以上下落した国もありません。つまり、日本株はぶっちぎりの最下位であった、ということになります。

この背景としては、米ドル安・円高気味に為替相場が推移したことと、その円高懸念を(後述のように)日銀短観が煽ったことが挙げられます。ただ、本当に円高だったのかを、先週の外貨相場(対円)の騰落率ランキングで確認してみましょう。

すると、なんと先週対円で下落した(円高になった)主要通貨は、4通貨しかありません

それは下落率の高い順に、アルゼンチンペソ、米ドル、ミャンマーチャット、ベトナムドンです。つまり先週は、ほぼ全面的な円安であったわけで、市場はそれとは全く逆に、米ドルが下落し再度112円割れになったことから、「円高だ!」と騒いでいるわけです。

ここで、先週上昇率が高かった通貨ベスト10をみると、上昇率の高い順に、南アランド、ブラジルレアル、マレーシアリンギット、ニュージーランドドル、ポーランドズロチ、スウェーデンクローナ、クロアチアクーナ、ノルウェークローネ、アイスランドクローナ、ロシアルーブルでした。ここからは、今年に入って一時商品市況が下落し、資源国通貨が大きく売られていた動きが、底入れ好転に向かっている流れがうかがえます。

つまり、全面的な円安傾向のなかで、逆行して米ドルが軟化(とは言っても、米ドルが大きく下落したわけではありません)し、それにおびえて日本株が突出して売り込まれた、という形が浮かび上がります。世界の明るい流れに、日本株だけが取り残されているような印象を受けます。

そうして米ドルが売られた背景ですが、きっかけは3/29(火)のイエレン連銀議長のニューヨークでの講演でした。議長は追加利上げについて、「海外経済のリスクなどを考慮して慎重に進める」と述べたため、先行きの米金利先高観が薄らいだとして米ドルが売られました。

ただ、もう利上げしないとか、利下げするとか語ったわけではなく、もともと今年2回程度と見込まれている追加利上げの時期が多少遅れるかどうか(たとえば4月利上げか6月利上げか)といった程度でしょう。それをもって米ドルを売るのも、過剰反応のように思われます。

また、先週末(4/1、金)には米国の主要な経済指標が発表され、総じて堅調でした。3月の失業率は5.0%と、2月の4.9%から悪化したものの、3月の非農業部門雇用者数は前月比で21.5万人増加し、目途となる20万人を上回っています。また3月のISM製造業指数は51.8と、2月の49.5から上昇し、好不況の境目と言われる50を回復しました。こうした米経済指標の堅調さを受けて、米株価も週末は素直に上昇して引けています。

ところが米ドルは週末にかけて売りがかさみ、112円を割れて引けました。このような、経済指標や株価の動きを無視したドル売りは、何らかのポジションの整理、あるいは投機的な動きによるものとしか考えられず、長続きするとは予想しがたいです。

ただ、理不尽だろうと投機的な動きだろうと、米ドル安・円高になり、それが日本株の市場心理を悪化させたことは事実で、それに拍車をかけたのが、4/1(金)発表の日銀短観でした。

日銀短観については、業況判断DIが悪化した、2016年度の収益計画や設備投資計画が極めて慎重なものであった、といった点も株価の悪材料視されましたが、最も市場に意外感を与えたのは、企業の為替前提だったのではないでしょうか。

つまり、大企業製造業が前提としている米ドル円相場が、2016年度平均で117.46円と、現在の水準と比べかなり円安であったため、「仮にこのまま112円前後で推移すれば、輸出企業の収益下方修正が、大幅に行なわれるのではないか」という懸念が株式市場に広がったのだと思います。

今後も、国内株価が、米ドル円相場の変動に、極めて神経質に反応する、という展開が、残念ながら当面は続きそうです。

Next: 【展望】ドル高・円安に反転すれば日本株は反発、ただし上値は限定的



来たる花~(4/4~4/8)の世界経済・市場の動きについて

米ドル高・円安に反転すれば、日本株は上振れがありうるが、追加の上げはすぐには難しい

【まとめ】
世界市場全般の動きが好転しているにもかかわらず、日本株が突出して売られていた背景は、米ドル(だけ)に対しての円高でした。逆に言えば、それが最大の悪材料なので、米国経済の実態や株価動向と整合的な米ドル高・円安に反転することで、日本株が今週大きく跳ね戻る可能性があると見込みます。

ただ、そうした戻りから、さらに力強く株価がダメ押しの上伸をみせるかというと、足元の国内経済指標の軟化があるため、さらに上値を伸ばすのは、来週以降の楽しみに先送りされそうです。

【詳細】
「過ぎし花」で述べたように、先週は米ドルが米経済や米株価の動きに逆らって軟化し、それが日本の株価に打撃になりました。しかし、米ドル売りが投機的な動きなどによるものと推察されるため、一段の米ドル安・円高は見込みにくく、早晩実態に沿った米ドル高に反転するものと予想されます。

こうした米ドル高に力を添えそうな今週の材料としては、4/5(火)発表の3月のISM非製造業指数が挙げられます。米国ではもともと製造業劣位、非製造業優位の図式にありますので、同指数は、2月の53.4から54.0に上昇すると予想されています。

見込み通りの為替相場の展開になれば、言わば「最後の悪材料」ともいえる米ドル安・円高が反転することで、重石が外れた日本の株価が、今週短期的に大きく上振れする展開も否定できません。

ただ、幸いにしてこうした日本株の上昇が生じたとしても、二段、三段の追い打ちとなる株価上昇は、今週より少し先のことになりそうです。というのは、日銀短観に表れているように、企業や、さらには家計の心理も、このところ冴えない展開だからです。

今週は心理を示す指標として、3月の消費者態度指数(家計の心理を表す)と同月の景気ウォッチャー指数(市井の企業などの心理を表す)が4/8(金)に発表されますが、世界市場の波乱などを受けて、慎重な心理が表れそうです。また4/7(木)には日銀のさくらレポート(この後の「理解の種」もご覧ください)で各地域の景気状況が報告されます。こちらも冴えない内容となりそうです。

この他の世界市場の材料としては、豪州で経済統計の発表が多いです。4/4(月)には2月の小売売上高が発表され、前月比の伸びは1月の0.3%増から0.4%増に拡大しそうです。同日には2月住宅建設許可件数が発表され、前月比は1月の7.5%減から2.0%増と、プラスを回復すると見込まれています。また4/5(火)発表の貿易収支は、1月の29.37億豪ドルの赤字から、2月は25億豪ドルの赤字と、貿易赤字が縮小すると予想されています。

こうした諸統計が予想通り堅調な内容となれば、豪ドルを支える方向で働きそうです。ただし、4/5(火)に豪州準備銀行の理事会が開催されますが、国内経済の堅調さにもかかわらず、まだ海外経済の不透明感が強いとして、金融政策の変更(利上げ)は見送られるでしょう。

Next: 盛りの花~マイナス金利失敗を指摘する声と、海外投資家のギャップ



盛りの花~世界経済・市場の注目点

マイナス金利導入失敗を指摘する声と、海外投資家の考えとのギャップ

3/31(木)に、メガバンク3行が、4月から一部の住宅ローン金利を引き上げる、と発表しました。三菱東京UFJは、単にこれまでの金利キャンペーンが終わったから、という理由ですし、みずほや三井住友は、年限によって金利を上げるものも下げるものもあるのですが、日銀が各行の日銀当座預金にマイナス金利を課すため、その負担を顧客(ローンの借り手)に付け回すものだ、との観測が浮上しています。

既に行なわれつつある預金金利の引き下げも、銀行が負担分を他者に転嫁するものであり、銀行も私企業ですからそれが悪いわけでは全くありませんが、日銀のマイナス金利導入の弊害が表面化している、と解釈できます。

もともと量的緩和も、これ以上国債の買い入れ額を増やすには限界に近い状況になってきており、既に日銀ができることには限界が見えてきていると感じます。

ところが依然として米系投資家を中心とする海外投資家からは、「日銀は今度は何をするんだ!」という問い合わせが多いです。「もう何もできないと思うけど、具体的に何ができるか挙げてみたら」と、こちらから返すと、「う~ん、じっくり考えてみると、確かにもう手はないと思うけど、それでも手はないのか?」と聞いてきます。

なぜそこまで日銀の今後の政策に執着するかというと、実際に日銀の金融政策が経済に効くかどうかは別として、たとえば2013年4月の「異次元の緩和」が、市場を一気に動かしたため、日銀のこれからを警戒しておかないと、投資で大いに損失を出すかもしれない(あるいは利益を取り逃がすかもしれない)と、海外投資家が考えているためです。

このように、過去にサプライズがあったため、またサプライズを打たれないかどうか、気になって仕方がない、という投資家の声は、日銀も承知していて困っているようなふしがあります。このため日銀内でも、「黒田総裁のサプライズ路線は失敗だったのではないか」との批判の声が出ているように感じます。

また、「何か日銀がやるかもしれない」と考えている海外投資家が、「やっぱり日銀は何もできないようだ」と考えを変えた際に、どういう投資行動を海外投資家がとり、それが各市場にどういう影響を生じるかは、大いに懸念されます。

Next: 理解の種~日銀が四半期ごとにまとめる「さくらレポート」とは?



理解の種~世界経済・市場の用語などの解説

さくらレポート、三たび

さくらレポートについては、当メールマガジンの第173号(2014年10月19日付)および第198号(2015年4月12日付)で解説しましたが、三たび述べます。

さくらレポートは、日本銀行が四半期ごとにまとめる、全国各地域の経済状況についてのレポートです。発行月は、1・4・7・10月になります。

「さくらレポート」という名称は、米連銀の「地区経済報告」の表紙の色がベージュで、ベージュブックと呼ばれることにならって、桜色の表紙からその名をつけたためです。

日本の各地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の9地域)の景気の状況を、日銀の各支店が調査し、とりまとめています。さくらレポートが公表されると、日銀のホームページから読むことができます。ホームページに掲載されている、資料のpdfファイルの表紙も、桜色です。

【関連】米利上げ再開でも「1ドル125円超え」が難しいこれだけの理由=斎藤満

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年4月3日号)より
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