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排ガス不正問題で揺れるフォルクスワーゲンの“見逃せない強み”=栫井駿介

排ガス不正問題で揺れるフォルクスワーゲン(VW)。株価は不正の発覚により大きく下落しています。ドイツを代表する自動車メーカーはこれからどうなってしまうのでしょうか。あらためてブランド別の営業利益率を比較して見えてきたのは、同社の盤石な経営基盤です。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

VWの収益源は最大ブランドのフォルクスワーゲンではない

10兆円の負担との報道も

まず、排ガス不正問題について整理します。

自動車を販売する時は各国の規制をクリアする必要があり、排ガス規制に関して米国は世界で最も厳しいと言われています。VWはその米国で自社のディーゼル車の排気基準を満たすために、検査の時に「だけ」窒素酸化物の排出を抑えるプログラムを組み込んでいました。

これは明らかな故意であり、今後米国等の政府による制裁金やリコール費用、さらに米国らしく多額の賠償金がかかり、その金額は10兆円以上とも報道されています

制裁金などの金額についてはいまだに未知数なため、この事件がVWに与える定量的な影響を正確に測ることは現段階では困難です。しかし、この機会に世界的な大企業について学ぶことは、グローバルな投資を行う観点から大きな意義があります。

欧州と中国がメイン、米国はサブ

今回問題の中心は米国です。VWはドイツの企業ですが、全世界に展開しており、年間約1,000万台の自動車を販売しています。これはトヨタに次ぐ世界2位の台数です。地域別販売台数の内訳はグラフのとおりになります。

出典:Volkswagen Annual Report 2014

グラフを見ればわかるように、北米での販売比率は8.8%にすぎません。多くは欧州アジア太平洋(大半は中国)での販売となっています。

今回の事件を受け、VWは米国で激しいバッシングを受けています。しかし、米国で売れなくなったところで、その影響は大きくありません。むしろ、今最も市場が成長しているのは中国が重要であり、VWは中国での販売シェアトップを誇ります。

Next: VWの価値はアウディ、ポルシェにあり



VWの価値はアウディ、ポルシェにあり

VWは実に12ものブランドを傘下に抱えています。トヨタが「トヨタ」「レクサス」の2種類に絞っているのとは対照的です。最も販売台数が多いのは「フォルクスワーゲン」ですが、その他に「アウディ」「ポルシェ」「ベントレー」など、日本でのおなじみの、それも高級車に分類されるブランドを持っています

下のグラフは、ブランド別の営業利益率の比較です。これを見ると、ポルシェの営業利益率が15.8%、ベントレーが9.7%、アウディが9.6%です。一方、フォルクスワーゲン(VW Passenger)は2.7%しかありません。

出典:Volkswagen Annual Report 2014

つまり、VWの収益源は最大ブランドのフォルクスワーゲンではなく、ポルシェ・アウディなどの高級車ブランドだということです。売上高を販売台数で割った1台あたり販売金額は、フォルクスワーゲン約280万円に対しポルシェが約1,200万円、アウディが約500万円、ベントレーは約2,000万円にもなります。

ポルシェのような高級車を買う人が、排ガス規制に敏感になるとは思えません。今回の不正でフォルクスワーゲンブランドの販売台数が減少したとしても、高級車ブランドで手堅く稼ぐでしょう。これから高級車が伸びる中国で基盤を築いていることも大いに期待が持てます。

制裁金や賠償費用の支払いで経営が大きく揺らぐことさえなければ、VWの価値は盤石と言えそうです。VWは3月の決算発表を延期し、4月中に行うことを公表しています。その際は上記のことを頭に入れてニュースを見ると面白いかもしれません。

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2016年4月1日号)より

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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