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なぜ孫正義は一般投資家以上の被害を受けた?バフェットもハマった大物投資家の落とし穴=矢口新

バフェット、孫正義といった大物投資家の巨額損失が話題になっている。なぜプロ中のプロが、一般的な個人投資家以上の被害を受けたのか。今回はそれを考えたい。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2020年6月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

大物投資家も巨額損失

ウォーレン・バフェット氏、孫正義氏といった大物投資家の兆円単位の巨額の損失が、世界の投資家の話題となっている。

孫正義氏は近年事業家というより投資家としての側面を強めており、今回の巨額の損失についても投資によるものだ。

これまでにも大物投資家の破綻は数多くあり、会社を潰した例も多い。

どうして経験と実績があり、一次情報を真っ先に得られるはずのこうしたプロの投資家が大損を出すのか。今回はそれを考えてみたい。

なぜバフェット氏は一般投資家以上の損害を受けた?

昨年、ウォーレン・バフェットはS&P500株指数に対して、過去10年間で最悪のパフォーマンスだった。2020年もこれまでのところ改善は見られない。バークシャー・ハサウェイのリターンは米株式市場のリターンに負けている。

バークシャー・ハサウェイB株は年初から月曜日の終値までに22.8%下落した。S&P500株指数はこれまで8.5%の下落、一方、ダウジョーンズ工業株平均は同時期に14.3%下落した。

出典:Warren Buffett and Berkshire Hathaway Struggle in 2020 – Market Realist(2020年5月26日配信)

もっとも例えば、航空株で巨額の損失を被ったように、バフェット氏がコロナ対策の直撃を受けたことは間違いがない。

「Covid-19」の突発が誰も予測できなかったブラック・スワンである上に、その対策で経済活動を止めるというさらに大きなブラック・スワンが襲来したからだ。相次ぐブラック・スワンの結果、米国の航空機利用者数は3月中旬以降、前年比9割以上の減少が続いている。

世界的にも同様で、すでにいくつかの航空会社が破綻し、多くが大幅な人員削減を発表し、ほぼすべてが巨額の支援を要請している。飛ぶことを禁止されているのだから当然で、これは経営努力や投資判断を超えた異常事態だ。その意味では、バフェット氏はブラック・スワンの犠牲者だと言えるかもしれない。

とはいえ、ブラック・スワンはほぼすべての国に襲来し、2羽目のより大きなブラック・スワンもほぼすべての国に襲来した。

そのことを鑑みれば、プロ中のプロが「一般的な個人投資家以上の被害を受けた」のは謎だといえば謎だ。

Next: その謎を解く鍵が、米投資関連メディアで見かけた「バフェットの――



常人には真似のできない集中投資

その謎を解く鍵が、米投資関連メディアで見かけた「バフェットのポートフォリオの68%はこれら4銘柄で占められている」という事実だ。
参考:68% of Buffett’s Portfolio Is in These 4 Stocks

その4銘柄とは、以下の通りである。

・アップル(795億ドル)
・バンクオブアメリカ(2,17億ドル)
・コカコーラ(181億ドル)
・アメリカンエクスプレス(136億ドル)

これでわかるのが、現時点のバフェット氏のポートフォリオは1,955億ドルで、アップル1社で4割以上を占めているということだ。これはアップルに何かかがあれば、簡単に兆円単位の損失が出てしまうことを意味する。逆に言えば、簡単に兆円単位の利益も出せるのだ。

こうしたことは今に始まったことではなく、バフェット氏の基本的な投資スタイルだ。上記の記事の出だしは以下の文章だ。

「According to Warren Buffett, diversification is only neededif you don’t know what you’re doing.(ウォーレン・バフェットによれば、分散投資は自分が何をしているか分からない時にだけ必要)」

分散投資とは、どんなに自分の見方に自信があっても、もしもの場合に備えるリスク管理の観点から行うものだ。

つまり、バークシャー・ハサウェイはリスク管理を行わない。これはバフェット氏の実績が「少数株への大量投資」からのものであったことからも明らかだ。

リスク管理なしでバフェット氏が世界一の投資家になれたのは、

1:同氏の見方がほぼ常に正しかった
2:大量の資金を投じればどんな株でも上がる
3:大量の資金を維持できてきた
4:リスク管理をしなかったから

などだろう。

(4)のリスク管理は、相当程度の利益を放棄するものなので、世界一などは狙えない。また、(1)~(3)はウォーレン・バフェット氏だからできたことで、他の誰にも真似ができないのではないか?

Next: 分散投資を否定するのは、自分だけが未来を見通せると言っているに等しい――



神になったか孫正義?

「分散投資は自分が何をしているか分からない時にだけ必要」だと、分散投資を否定するのは、自分だけが未来を見通せると言っているに等しい。これでは、ウォーレン・バフェット氏は神のような存在だ。

一方、孫正義氏は決算発表の場でアナリストから傘下のビジョンファンドの業績不振を問いただされた時に、自分を神に例えて見せたという。「イエス・キリストもまた誤解された」と。
参照:Jesus Christ was also misunderstood, Masayoshi Son tells investors

私は2019年11月初めに、「ソフトバンクの蹉跌」題したコメントを書いた。以下にその全文を再掲載する。

■ソフトバンクの蹉跌

今の若い人たちは「蹉跌」という字が読め、意味が分かるだろうか?

今は漢和辞典で画数から調べなくても、ネットからコピペで簡単に検索できる。グーグル検索では、一番上に「蹉跌(サテツ)とは – コトバンク」とあり、デジタル大辞泉 – 蹉跌の用語解説 – [名](スル)《つまずく意から》物事がうまく進まず、しくじること。挫折。失敗。「計画に蹉跌をきたす」「事業が蹉跌する」とある。

ウェブページの右側には、この字を私などの世代が知ることになった小説名と、同名映画の紹介がある。『青春の蹉跌』は、石川達三の中編小説。またそれを原作とし神代辰巳が監督した日本映画である。ウィキペディア、初版発行:1968年、著者:石川達三、ジャンル:フィクション、音楽:井上堯之、上映時間:85分、監督:神代辰巳。出演者:萩原健一、桃井かおり、とある。

1968年では、私はまだ中学生だったので、この言葉の記憶はない。高校生になって、何か失敗すると、仲間内で「青春の蹉跌」という言葉が流行ったのだ。たぶん、それからその小説を読んだと思う。映画を観た記憶はないが、萩原健一と桃井かおりは、当時の中高生にとっては、最もカッコイイ大人たちだった。

ソフトバンクがこれまで蹉跌知らずに来たとは思えないが、今回の蹉跌は相当深刻なのではないだろうか? 孫正義社長は「決算はぼろぼろ。まさに台風、大嵐の状況だ」と説明した。

米シェアオフィス「ウィーワーク」の運営会社ウィーカンパニーへの投資では、ソフトバンク本体で5,000億円、同社のビジョンファンドで4,000億円規模の損失を計上した。また、ウィーがIPO計画を撤回し、企業価値が急落したことは、株主への信義則に違反するとして、少数株主の元社員が同社ニューマン前CEOや最大株主のソフトバンク孫正義社長らを相手取り訴えを起こした。同社の価値は年初の470億ドルから半年余りで80億ドル弱に減少している。

ウィーは長期リースで確保したオフィススペースを短期的に貸し出すビジネスモデルを展開してきたが、その収益性を巡り投資家の懸念が高まってきていた。同社への投資は、孫氏が創業者ニューマン氏の手腕を見込んで即断したとされるが、上場手続きのなかで資金繰りの問題や創業者の利益相反などが露呈、孫氏がニューマン氏のCEO退任を求めたと言われている。

ウィーについては損切りすることなく、全面支援に乗り出す。追加支援でソフトバンクの出資比率は80%に高まった。孫氏は11月6日の記者会見で、「今回は例外だ」述べたという。

また、ファンド投資先で上場した7社のうち5社の株価は初値を下回る。市場シェアや規模拡大を優先する経営が曲がり角を迎えた企業も多く、市場では「第2のウィー」への警戒も強いという。

2016年末設立のビジョンファンド10兆円の9月末までの投資先は88社で、投資額10兆円を使い切った。孫氏によれば、累計投資額は8.2兆円。これまでに1.2兆円の利益を計上、37社の投資先が合計1.8兆円の利益を生み出した一方で、評価減で損失を計上したのは22社で6,000億円に過ぎないという。

孫氏は、これまで経営者の人物を評価して投資するスタイルが強かったが、「今後はフリーキャッシュフローを重視して投資する」と述べた。反省はするが、「委縮しているわけではない」という。

今後の投資については、投資先の財務は独立採算、救済投資は行わないという2つの方針を改めて表明した。予定通りに2号ファンド10兆円を立ち上げる方針だというが、先日訪れたサウジアラビアでの説明会は、空席ばかりだったと報道されていた。

資金運用者としての長い経験、また、多くの投資家の成功例や失敗例を数多く見てきた私から見ると、いくつかの気になる「キーワード」がある。

1:「今回は例外だ」
2:「人物を評価して投資する」
3;「88社で投資額10兆円」

といったところだ。

(1)の今回だけは特別というのは、ナンピン買いや、損失あるいはリスクの先送りで、破綻した金融機関やファンドが「例外なく」言っていたことだ。

(2)は好調な時の人は輝いている。勝った時のスポーツ選手にはオーラがあるが、負けた時には別人のように見える。1,000億円超の投資先に選ばれるような未公開企業のCEOにはオーラがあるはずだ。だから3年足らずで88人もの投資先「人物」に出会えたのだ。

とはいえ、3年足らずで88人もの「人物」というのは、いささかハードルが低過ぎではないだろうか?ファンドマネージャーにありがちなのが、預かった資金を使い切らないと、器が小さいと思われることを恐れて、拙速な投資を行うことだ。孫氏のように「大物」の評価が定着していると、その期待に応えようとする焦りがあったのかも知れない。

(3)昔、ある有名なファンドマネージャーがいた。上場はしているが投資家からは見捨てられているような会社を訪問し、社長の「人物を評価」して、その場で株式の購入を即断、大量の買い入れを行ったという。

同氏の買う株は例外なく高騰したので、天才ファンドマネージャーと呼ばれ、同氏を採り上げるメディアもあった。

私はもともと債券や為替のディーラーだった。初めて株式を買った時、チャートだけを見て、寄り付き成り行きで、約100万円を買いオーダーした。2部のその株はストップ高となった。私は天才だろうか? とんでもない。私の平均コストはストップ高近辺だったので、結局は損失で終わったのだ。

かのファンドマネージャーは損益面では天才だった。自分で買い上げた銘柄を、自分で売りに行けば損すると知っていた。そこで「評価益だけで」納税者番付のトップになるなどして、メディアを通じて、個人投資家に同氏銘柄を宣伝して貰い、高値で個人投資家に売り抜けたのだ。

私は、「投資先で上場した7社のうち5社の株価は初値を下回る」ということを聞き、かのファンドマネージャーが当時の日本の中小型株市場を歪めたように、ビジョンファンドも10兆円でベンチャー市場を歪めてしまったのではないかと疑っている。1社あたり1,000億円を超える投資で、未公開新興企業の評価を過熱させたのだ。

企業経営に浮き沈みは付き物だが、資金運用の世界はもっと激しい。米株のように最高値を更新し続け、米債のように空前の高値圏にいる市場にいてさえ、長く生き残っている「大物」はリスクをうまく(しばしば顧客に)分散している。

ウィーへの出資比率80%というのは、企業経営としてなら兎も角、ファンドマネージャーとしてはやってはいけないことだ。2号ファンド10兆円を立ち上げる方針だというが、私はやめた方がいいと思う。このやり方では、まず、状況は悪化する。

5月18日、ソフトバンクグループは2020年3月期決算を発表した。本業のもうけを示す営業損益は1兆3,646億円の赤字で、純損益も9,615億円の赤字だった。

Next: 2020年3月期の役員の報酬等の総額は14億7,000万円。前期比1億5700万円減少――



ビジョンファンドの先行きは暗い

29日に公表した定時株主総会招集通知によると、2020年3月期の役員の報酬等の総額(基本報酬、賞与、株式報酬の総額)は14億7,000万円だった。前期比1億5,700万円(約10%)減少した。個人の報酬額首位はマルセロ・クラウレ副社長で17%増の21億1,300万円だった。

孫正義会長兼社長は9%減の2億900万円、ロナルド・フィッシャー副会長は79%減の6億8,000万円だった。「ビジョンファンド」運営会社の最高経営責任者(CEO)、ラジーブ・ミスラ氏は16億600万円と倍増した。

一方で、金融機関からの借入金は1年で1兆1,725億円増えた。みずほ銀行からの借入額は前年比53%増の9,122億円となった。

ビジョンファンドの先行きは暗い。

ベンチャー企業に市場を歪めるほど野放図に巨額投資したツケが来ていたところに、2羽のブラック・スワンが襲ったからだ。ツキあれば、無茶をしても神風が吹くが、今回はブラック・スワンだった。

また私は、ソフトバンクは孫正義氏の会社だと思っていたが、報酬額を見ると副社長の1割もない。また、大損の元凶であるビジョンファンドのCEOの報酬が倍増し、孫氏の7.7倍にもなった。

リスク管理を含め、この会社どこかがおかしい。

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image by:glen photo / Shutterstock.com

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』2020年6月2日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

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相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2020年6月2日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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