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2021年も米不動産業界は活況?【フィスコ・コラム】

新型コロナウイルスのまん延にもかかわらず、アメリカで過去最高水準を記録する好調な業界があります。超低金利に支えられた不動産業界です。ワクチンの普及で来年景気が持ち直せば、さらに活気づくのでしょうか。

全米ホームビルダー協会(NAHB)とウェルズ・ファーゴが毎月公表する住宅建設業者のセンチメントを示す指数は11月に予想の85を上回る90となり、過去最高を更新しました。コロナ危機の打撃で今年4月は30に低下したものの、その後は急回復。12月は86にやや鈍化しましたが、それでも高水準を維持しています。アメリカの住宅市場の動向を反映する先行指標でもあり、目先も好調が続く見通しです。

また、全米不動産業者協会(NAR)が先月まとめた10月の中古住宅販売件数は、郊外型の物件が人気を集めて予想外に増加し、2005年以来15年ぶりの高水準に。さらに11月の住宅着工件数は住居用不動産の増加で予想を上回る内容となり、今年2月以来の水準に持ち直しました。コロナ禍のダメージで消費や雇用が落ち込むなか、強い住宅関連指標はとりわけ目を引きます。

米連邦準備理事会(FRB)の超緩和策で政策金利は実質ゼロとなり、住宅ローン金利が過去最低水準に低下したことが背景にあります。また、住宅着工件数の内訳をみると、堅調な戸建てと低調な集合住宅は対照的で、コロナ禍を受けたテレワークの促進により都心の集合住宅から郊外の戸建てに移り住む傾向が浮かび上がります。それが住宅価格を押し上げる要因にもなっています。

住宅関連指標の強さは、過去最高値圏に上昇した株式市場にも寄与しています。ただ、好景気で経済が安定しているわけではなく、コロナ禍という特殊事情で低金利によって辛うじて支えられている状況下での住宅市況の高成長には危うさもあります。サブプライムローンで不動産ブームに沸き、その後リーマンショックとともに弾き飛ばされたそう遠くない過去を彷彿とさせるためです。

もっとも、不動産取引が活況なのはアメリカだけではなく、世界的な潮流です。ニュージーランドでは政府がコロナ感染を食い止めたことで、欧米に移住した人が帰国するトレンドが強まり、住宅価格の上昇につながっています。そのため、政府がNZ準備銀行(中央銀行)に対し、金融政策決定に住宅価格を配慮して運営するよう提案したことが話題になりました。それに対し、中銀は弊害の方が大きいと否定的です。

アメリカの場合はFRBが2023年まで実質ゼロ金利を堅持する方針で、住宅ローンの低水準は当面続く見通しです。ただ、中古住宅を購入する際のローン返済額と所得を比較した住宅取得能力指数は半年前から低下しており、住宅購入も容易にできなくなりつつあるようです。雇用情勢の改善が最近の統計から鈍化したのをみても、足元の不動産ブームがさらに大きく拡大していくようには思えません。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

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