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「日本を裏切った父」と同じ現実路線。中国にすり寄るスーチー氏

ミャンマーで行われた総選挙で圧勝が伝えられるスーチー氏率いるNLD。真の民主化の期待が高まりますが、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では「過度の期待は禁物」と釘を差しています。

【ミャンマー】中国にすり寄るスーチー氏に何が期待できるのか

スーチー氏野党「勝利」 与党敗北宣言

来年1月の台湾の総選挙の前に、アジア各地でもさまざまな変化が起こっていますが、そのひとつの動きでしょう。11月8日に行われたミャンマーの総選挙で、アウンサンスーチー氏の率いる国民民主連盟(NLD)が大勝する勢いだということです。公式な発表はまだですが、スーチー氏は勝利宣言を行いました。

ただし、NLDが政権を取っても、すぐにスーチー氏が大統領になれるわけではありません。軍事政権時代にできた法律で、外国人の家族がいる人物は、大統領になれないからです。スーチ氏の(故人)は英国人で、子供も英国籍です。

だからスーチー氏は選挙前に「私は大統領を超える存在になる」と述べていました。

スーチー氏の父親であるアウンサン将軍は「ビルマ建国の父」と呼ばれ、日本とも繋がりの深い人物です。戦時中、日本に渡りイギリスからの独立支援を取り付け、さらに「南機関」として名高い日本軍の鈴木敬司大佐のもとで独立戦争のための軍事訓練を受けています。当時は「面田紋次」という日本名を名乗っていたほどです。

バンコクでビルマ独立義勇軍を創設し、1942年、日本軍とともにビルマからイギリス軍を追い払います。

しかしその後、日本軍のインパール作戦の失敗と、それ以降の日本の劣勢を見たアウンサンは、このままでは日本敗戦後のビルマ独立は不可能だと思い、独立を条件に、日本軍を裏切ってイギリスと組み、日本を攻撃する側に回ります。勝者側についたわけです。

もっともアウンサンは、日本人将校を殺さないように指示し、戦後も日本人捕虜の帰国を支援したとされています。

このように、スーチー氏の父親は日本と非常に密接な関係にあった人であり、また、スーチー氏自身も民主化運動によって軍事政権下で軟禁され、ノーベル平和賞も受賞していることで、日本でも世界的な民主活動家として、彼女に親近感を抱いている人も少なく無いでしょう。

現在のミャンマーは、中国の経済支援もあって親中派です。11月初旬にマレーシアで開かれたASEAN拡大国防相会議でも、ミャンマーなどの親中国が中国側につき、南シナ海をめぐる文言で揉めたため、共同宣言が出されないという異常事態が起きました。

スーチー氏の率いるNLDによる政権交代が起こることで、ミャンマーが親中国姿勢から転換するのではないか、とくに民主活動家であったスーチー氏だから中国に厳しい態度を取るのではないか、と期待する人もいます。しかし、それは期待外れに終わる可能性が高いでしょう。

というのも、今年6月にスーチー氏は中国を訪問しました。このとき、中国の人権派、民主活動家などは、スーチー氏が中国政府に対して、中国の人権環境の改善を訴えるのではないかと期待していました。

[参照]民主・人権派の期待高まる=訪中のスー・チー氏を歓迎-中国

しかし結局、スーチー氏はまったく人権問題に触れることはありませんでした。これに対して、内外から大きな失望が起こりました。政権交代を目の前にして、中国の経済的支援を取りつけるために、現実路線に走ったと言われています。中国のほうとしても、スーチー氏を取り込んでおこうという思惑で、大歓迎しました。

[参照]【一筆多論】スー・チー氏は「リアリスト」か 宇都宮尚志

もうひとつ、スーチー氏の民主活動家しての姿勢に疑問が持たれているのは、ミャンマー国内の少数民族であるロヒンギャの迫害に対して、何も声を挙げないことです。ロヒンギャはミャンマー国内のムスリム勢力であり、これまで宗教対立、民族対立により、軍事政権下でも仏教徒による弾圧にさらされてきました。ロヒンギャはスーチー氏に期待し、彼女を支持すると表明したため、さらに迫害を受け続けてきました。

現在では「世界でもっとも迫害を受けているマイノリティ」と言われるロヒンギャですが、スーチー氏はこのロヒンギャ問題について、まったく無視しているどころか、時には迫害者となっている仏教サイドを擁護する発言すらしており、国際社会ではスーチー氏に対する疑念が持ち上がっています。

アジアではたいてい多民族国家が多く、日本はきわめて珍しい例外です。中国は50以上、ベトナムも50の民族があります。ミャンマーも多く、130以上とも言われています。民主主義と民族主義の対立は激しく、民主主義は民族の抑圧を正当化する恐れが多々あります。

ミャンマーの軍人はほとんどがエリートで、江戸時代の武士の国の時代、日本の鎖国時代とそっくりです。民主主義が成熟するまでどうなるのか、実に厳しい事態が続くと予想されます。

英領の時代は華僑と印僑がイギリスの番頭として、ビルマの多民族社会を支配していましたが、東南アジアではタイ、ベトナムとならぶ大国です。

政治家が時として現実路線を取るのは、ある意味で仕方ない部分があります。父親のアウンサン将軍も、そのために日本を裏切りました。スーチー氏が政権を取ったとしても、かつての「民主活動家」としてのスーチー氏はもういないのだという認識が必要です。

ISISがロヒンギャをリクルートしているという話もあり、今後、ミャンマーでテロ活動が活発化する恐れもあります。

人権派、民主活動家というと、日本では無条件に崇め称える風潮がありますが、私は中国の人権派、民主活動家については、かなり懐疑的でした。というのも、彼らの多くは「大きな中国」には賛成であり、民主化が達成されても「大きな中国」は堅持する、という主張が大勢なのです。

だから台湾の独立は認めない、ウイグルやチベットの独立には否定的という「大中華主義」の人が多いのです。

スーチー氏が政権を取ることによってミャンマーの政体は大きく変わるでしょうが、過度の期待は禁物なのです。これからのミャンマーはいったいどこへ行くのか、欧米は目が離せないところです。

image by: GongTo / Shutterstock.com

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黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より一部抜粋
著者/黄文雄
台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!
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