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Apple Watch用アプリをたった半日で作った男の開発秘話

4月24日の発売に向けて盛り上がるApple Watch。既に予約した人もいると思いますが、購入後にどんなアプリで遊べるのか楽しみですよね。『週刊 Life is beautiful』の著者であり海外在住の中島氏は既にApple Watch用のアプリを2つもリリースして、そのうちの1つはたった半日で開発したそうなんです。

Apple Watch用アプリとして作ったのは違法な(?)賭けゴルフアプリ

 

私がApple Watch向けのアプリ(iBacknine for serious golfers、この原稿を書いている最中にAppleによる審査に通っ iTunesストアに並びました)を作っていることを聞きつけた日本のゴルフ雑誌の方が「何か協力できないか」とコンタクトして来てくれました。

大変ありがたい話なのですが、一つだけ問題があるので、そこを正直に答えたところ、予想通り「ちょっと社内で調整させてください」という返事が返ってきました。日本の特殊な事情を考えれば当然といえば当然ですが、どんな結果になるか楽しみです。

何が問題かというと、私のアプリは違法な「賭けゴルフ」を奨励する作りになっているからです。

誤解をしないでいただきたいのですが、ここで言う「賭けゴルフ」とは、世界中のゴルファーがごく日常的にしている、賭けの単位が1ドル(100円)程度の、いわゆる「握り」の話です。

私の場合だと、週末に近所のゴルフ場でいつもの仲間とゴルフをする際には、米国でもっとも一般的な ナッソー(Nassau)というゲームをしています。ハンディ付きで、前半9ホール、後半9ホール、18ホール全部の三つのマッチプレーを、それぞれ1ドル、2ドル、2ドルの掛け金でプレーするのです。つまり、全部勝ったとしても高々5ドルという小さな話です。

このナッソーを、2対2のチーム戦で戦ったり、1対1の総当たり戦で戦ったりすることにより、週末のゴルフにちょっとだけ刺激を加えようというのがこの「握り」の目的です。

ちなみに、英語では、この「握り」ことを単に “game” と呼びます。1番ティーに立った時に、誰かが “Do you want to have a game?” と言えば、それは「握り」の提案であり、それに対して、”Sure, let’s play team Nassau. You and Bob against Joe and me. One, two, two, and a dollar for a special.” という感じで「握り」の内容が決まります(“One, two, two” の部分はナッソーの掛け金の額です)。

同じメンバーでハンディ付きでプレーをしていれば、長い目で見て誰か一人の人が負け続けたり勝ち続けることはないし、一人の人が大勝ちした時にはラウンドの後にビールを奢ったりします。つまり、金額そのものよりも、勝ち負けのスリルを楽しむことが一番の目的なのです。

統計によると、米国の男性ゴルファーの9割が日常的にこの手の「握り」を楽しんでいるそうです。この手の賭け事が違法かどうかは州ごとに違いますが、ゴルファー人口の多いフロリダ州の法律を厳密に適用すれば違法であることは知られています(ただし、数ドル程度のナッソー程度であれば「実害がない(harmless)」ということで、見逃されています)。

連邦政府の方は「600ドル以上のギャンブル収入は確定申告しなければいけない」としているので、小さな「握り」であれば、引っかかる心配はありません(芸能人やスポーツ選手が、たまにこの法律に引っかかります)。

米国では、この「厳密に言えば違法だけれども、実害がないから許されている賭け事」をしていることを誰も隠さないし、問題視もしていません。なので、スポーツ選手や芸能人も、ゴルフの「握り」をしていることを、公の場で普通に話します。バスケットの Michael Jordan は、カモだったことが有名で、ゴルフ仲間からは ATM (銀行のキャッシュマシン)と呼ばれていたそうです。

日本の場合、この手の「厳密に言えば違法だけれども、実害がないので多くの人がやっている」ことの扱いはとても微妙です。スポーツ選手や芸能人が公の場でそれを認めることは滅多にないし、もし、それが明るみに出れば、マスコミに徹底的に叩かれ、「活動の自粛」に追い込まれることすらあります。

なぜそんな扱いになっているかは、社会学者の意見を聞きたいところですが(江戸時代の「五人組」あたりがルーツかも知れません)、一つの理由は、この手の法律のグレーゾーンを日本の警察が、ヤクザの取り締まりに利用している点にあると私は見ています。目をつけたヤクザを、まずは(誰もがやっているけれども厳密に言えば違法な)賭け麻雀や賭けゴルフで逮捕した上で身体検査や家宅捜査をし、本当の狙いの麻薬の密売だとか、銃刀法違反の証拠を見つけて立証して行く、という道具に使われているのです。

賭け麻雀で逮捕されたスポーツ選手としては、東尾投手が有名ですが、彼の場合も、賭け麻雀の相手がヤクザだったから問題だったわけです。にもかかわらず、当時のマスコミはそのことをキチンと語らず、あくまで「(すべての)賭け麻雀は違法」という立ち位置で報道していたのにすごく違和感を持ちました。

そんな理由で、私のゴルフアプリは、日本のマスコミにとっては「違法な賭けゴルフを奨励する悪徳アプリ」として御法度になる可能性が大きいのです。

ということで、私のアプリは日本で使うことはおすすめしませんが、どうしても使ってしまう場合にも、公には使っていることを語らない方が良いと思います。

※日本の場合、たとえ1ポイント100円の握りゴルフであっても、法律を厳密に適用すれば賭博罪が適用されるそうです(2万円以上のやりとりが違法だという「2万円説」もありますが、真偽のほどは未確認です)。なので、日本国内での使用に際しては「ポイント制にして実際には現金は賭けない」などの配慮が必要なので、そこのところは是非ともよろしくお願いします。

>>次ページ 自撮りが捗るアプリもたった半日で開発

一週間実際に使用する条件で書かれた各メディアのApple Watchレビュー

Apple Watch の24日の発売に向けて、各メディアによる「Apple Watch 体験記」が数多く書かれています。

re/code: A Week on the Wrist: The Apple Watch Review

The Verge: Apple Watch Review

Yahoo: The Apple Watch: Half Computer, Half Jewelry, Mostly Magical

Apple Watchのようなパーソナルなデバイスは、実際にしばらく身につけて使わないと良さが分からないので、Apple が「一週間実際に使ってからレビューを書く」という条件でメディアに Apple Watchを先行配布したのでしょう。

どのレビューにも共通するのが、「数あるスマートウォッチの中では最高の質感」「一度身につけたら二度と手放せないほどのデバイスではない」「電池は終日大丈夫」「一番のメリットはいちいちiPhoneをポケットから取り出さなくても良いこと」という評価です。

特に最後の一つはとても重要で、そこが私のゴルフアプリ(iBacknine)が目指すところでもあります(つまり、ラウンド中には iPhone をポケットから取り出す必要がない)。

半日で作ったもう一つのアプリ「Wireless Selfie」

ちなみに、勢いに乗じて、もう一つApple Watchアプリを Apple に申請しました(Wireless Selfie、こちらもこの原稿の執筆中に審査に通りました)。Swiftの勉強のために、以前にObjective-Cで書いたコードをSwiftに移植している時に、思いついたアプリがあったので、半日ほどでサクッと作って申請してみました。

Apple WatchをリモコンとしてiPhoneを操作するスタイルのアプリですが、iPhoneアプリがバックグランドにあっても使えなければならないというAppleのUser Interface Guidelineからは少し外れるので、審査に落ちる可能性も十分にあると思ったのですが、結構あっさりと審査に通りました。

こちらは、iPhone 側にはセフルタイマー付きの自分撮り(Selfie)専用のアプリが入っており、それを Apple Watch からリモコンで操作する、という使い方を設定しています。グループ写真などは、セルフタイマーを使っても結構撮影が難しいので、Apple Watch をリモコンにして簡単に撮影できるようにしようという発想です。

あえてライセンス条件をつけたneu.Node

iPhone上でNode.jsアプリケーションを走らせるためのneu.Nodeは、今年の2月に全ソースコードをgithubで公開しましたが、その際、ライセンス条件として「個人、学校、NPO、年間売上 $1 million 以下の会社には無料」とだけ書いて置きました。

本当は、全員に無料でも良かったのですが、大きな会社の人がこれを見た時に、どう反応して来るか知りたかったからです。

すると最近になり、とある会社から連絡があり、neu.Nodeを使いたいので、企業向けのライセンス条件を教えて欲しいと言うのです。Facebook経由での連絡だったので、調べてみると、年間売上$35 millionの立派な上場企業です。

そこで、「どんなプロジェクトに使うのか詳しく教えてくれるならば、私の名前をiTunesストアの記述に載せるという条件で無料で提供しても良い。」と返事をしたところ、「調整させてくれ」という返事が返って来ました。

調べたところ、企業向けのロケーションサービスを提供している会社なので、開発しているアプリもiTunesストア用のものではなく、企業向けの専用アプリなのかも知れません。どんな顛末になるか楽しみです。

市場で成功するか分からない製品のアプリを開発するリスクについて

今週は、こんな質問をいただきました。

中島さんは、早速 Apple Watch 用のアプリを作られたようですが、まだ市場で成功するかどうか分からない製品に向けてアプリを開発するリスクに関しては、どうお考えなのでしょうか?その製品が市場に受け入れられなかった場合に、せっかくの開発コストが無駄になると思うのですが?それとも「Apple Watch は市場で成功するに違いない」という確信のようなものをお持ちなのでしょうか?

確かにもっともな質問ですが、今回のケースでは、「Apple Watchは市場で成功するだろうから、出遅れないために最初からアプリを作っておこう」という気持ちよりも、「AppleがApple Watchという面白いデバイスを世の中に出して来るのであれば、魅力的なアプリを作って Apple Watch の市場での成功に協力しよう」という思いの方が強いと思います。

iPhoneのリリース時にも同じような行動を取りましたが、その時はあまり意識はしていなかったものの、同じような気持ちだったと思います。

新しいハードウェアは、私のようなソフトウェア・エンジニアにとっては、「作られたばかりの遊び場」のようなものです。他の人たちがどう活用して良いか悩んでいるうちに、さっさと前例を作って、そこを「より楽しい遊び場」にしたいのです。

Apple が開発者向けに提供しているフォーラムを見ると、(iPhone アプリとは違って)限定的な Apple Watch アプリの開発環境に戸惑っている開発者が大半です。そんな中で、Apple Watch の設計思想を読み、与えられた開発環境の中で最高のアプリを作る。これに勝る楽しみはありません。

 

 『週刊 Life is beautiful』
著者:中島聡
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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