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沖縄が中国のミサイル射程圏内に。米シンクタンクの「中国脅威論」

アメリカの有力シンクタンクの最新研究で、「沖縄の米軍基地が中国のミサイル攻撃の脅威にさらされている」という分析結果が出ていると、沖縄県の翁長知事が代執行訴訟の意見陳述で述べています。これは沖縄にとってどれほどの脅威なのか、ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中で、その分析内容と沖縄・嘉手納基地の脆弱性、そして中国の戦闘能力について詳細に記しています。

嘉手納空軍基地は使いものにならない?──米シンクタンクのリアルな分析

沖縄県の翁長雄志知事は12月2日の陳述の中で、いわゆる「中国脅威論」に触れて、要旨で次のように述べた。

ジョセフ・ナイやマイク・モチヅキといった高名な研究者が、「沖縄はもう中国に近すぎて、中国の弾道ミサイルに耐えられない。こういう固定的な、要塞的な抑止力というのは、大変脆弱性がある」という話もされている。また、米有力シンクタンクの最新の研究でも沖縄の米軍基地の脆弱性が指摘されています。抑止力からすれば、もっと分散して配備することが理にかなっている。

中国のミサイルへの脅威に、本当に沖縄の基地を強化して対応できるのか、私からすると大変疑問である。

中谷防衛大臣に、巡航ミサイルで攻撃されたらどうするのか、と尋ねると、大臣は、ミサイルにはミサイルで対抗するとおっしゃった。迎撃ミサイルで全てのミサイルを迎撃することは不可能だし、迎撃に成功した場合でも、その破片が住宅地に落ちて大きな被害を出したことを、私たちは湾岸戦争等を通じて知っている。防衛大臣の発言を聞いて心臓が凍る思いがした。沖縄県を単に領土としてしか見ておらず、140 万人の県民が住んでいることを理解していないのではないか。

この「米有力シンクタンクの最新の研究」とは、察するところ、ペンタゴンに直結する軍事政策の研究機関「ランド・コーポレーション」が去る9月に公表した「米中軍事スコアカード1996~2017年にかけて変化する戦力、地理および力の均衡」のことである。この分析は米軍が沖縄において最も重視する嘉手納空軍基地の命運にも関わる内容を含んでいるので、以下ポイントを紹介する。

写真資料

急速に縮まる米中の軍事力の差

報告書は、台湾海峡紛争と南シナ海紛争の2つケースについて、それぞれ1996、2003、2010、2017の各年で米中の軍事力の優越がどう変化してきたか、またしようとしているかを、

・中国軍の対米空軍基地攻撃

・米中両軍の航空優勢

・米軍の航空進出

・米軍の対中国空軍基地攻撃

・中国軍の対地戦闘

・米軍の対地戦闘

・米軍の対宇宙戦

・中国の対宇宙戦

・米中両軍のサイバー戦争

・核の安定性(第2撃能力の確実性)

 ──の10分野に分けて評価し、それを一覧表にしている。

写真資料

それを見ると、台湾海峡危機の場合、例えば中国対米空軍基地の攻撃能力2010年にすでに拮抗しており、2017年には中国やや優勢となる。また中国対地戦闘能力も同様に、2017年にはやや優勢となる。

南シナ海紛争の場合、中国対基地攻撃対地戦闘の能力2017年には拮抗する。

このような解析結果を踏まえて、報告書は結論部分で、次のように言っている。

(1) 1996年以来、中国軍とてつもない進化を遂げ、米軍事力もその間に改善を進めてきたにも関わらず、能力の実質的な変化は中国に有利に傾きつつある。とりわけ中国軍弾道弾ミサイル戦闘機攻撃型潜水艦などの近代化は、過去のいかなる基準に照らしても桁外れの速さで進んできた。

(2) その傾向は作戦分野によって違いがあり、中国の達成すべての分野で一様ではない。いくつかの分野では、米側の改善によって米国が新たな作戦選択が出来るようになってきたし、少なくとも中国側の軍事近代化の速度が相対的なバランスに与える影響を和らげてもきた。

中国は全分野で米国に追いつく必要なし

(3) 距離、とりわけ短距離という問題が、双方が重要な目標を達成する上で主要なインパクトを与える。中国の遠隔投入能力は改善されつつあるが、今のところ制約があって、ジェット戦闘機やディーゼル潜水艦が給油なしに活動できる範囲外では、中国が事態に影響を与えたり戦闘で勝利する能力は急減する。これは近年中に変化するだろうが、それでも中国から遠く離れた距離での作戦は常に中国に不利である。

(4) 中国軍が総合的な能力において米軍にキャッチアップして迫ってきているという訳ではない。しかし、中国が直近の領域を支配するには、米軍にキャッチアップする必要はない。近接性がもたらす優位は、米軍の軍事任務を極めて複雑なものにする一方で、中国軍には大いに有利に作用する。このことは、本研究の最も重要な発見であり、抽象的な戦力比較よりもむしろ具体的な作戦様態の分析が重要であることを示す。

つまり、静態的な軍備能力の比較はあまり実践的な意味はなく、中国周辺で起こりうる具体的な事態に即して双方がどのような行動をとろうとするかを動態的に捉えなければならないということである。そうすると、中国軍全体的な能力で必ずしも米軍にキャッチアップする必要が実はないのであって、例えば、近距離の目標に対する電撃的な奇襲攻撃によって、米軍が十分に対応しきれない内にすでに目的を達成してしまうということすら考えられるのである。

 報告書の結論部分では、「今後5年から10年の間に、もし米中両軍が今とほぼ同様の軌道を歩むと仮定すれば、アジアにおける米国支配のフロンティアは目に見えて後退することになろう」と、かなり悲観的な予測で終わっている。

嘉手納基地に中国のミサイルが雨あられと

中国軍がアッという間に米軍に打撃を与えるかもしれない可能性の1つとして例示されているのが、沖縄の嘉手納空軍基地へのミサイル攻撃である。

中国弾道弾ミサイルの改善は目覚ましいものがあり、1996年にはDF-11およびDF-15が台湾に数十発注がれるという程度の脅威にすぎなかったものが、2010年にはDF-21CおよびDF-10 が嘉手納はもちろん日本列島やフィリピン群島に数百発届き、H-6 および中距離ミサイルがグアムにも数十発届くようになった。これが2017年になると、嘉手納は日本に数千発グアムに数百発というオーダーになる。

写真資料

そうなると危ないのは、直近の中国領から650 キロしか離れていない嘉手納基地である(ちなみに、中国領から一番近い米軍基地は韓国の群山[390キロ]と烏山[400キロ]、次が嘉手納と普天間、横田は1100キロ、グアムのアンダーセンは2950キロ)。

報告書の分析はいくつもの前提を踏まえた複雑な計算をしているが、結論だけを引けば(写真)、2017年予測で、中国が108ないし274発の中距離ミサイルを集中的に発射し、嘉手納の2本の滑走路にそれぞれ2個所直径50メートルの穴を空けられた場合、米軍の戦闘機が飛べるようになるまでに16~43日、大型の空中給油機が飛べるようになるには35~90日もかかるというのである。

翁長知事が言うように、これほどのミサイルの雨が降れば、嘉手納町だけでなく那覇市を含む広域が壊滅的な打撃を受けるのは明らかで、何日経ったら戦闘機や給油機が飛べるようになるかなどどうでもいい話である。逆に、もし嘉手納をはじめ普天間や辺野古の米軍基地がなければ沖縄県民の頭に中国のミサイルが撃ち込まれることはない

米軍のためにも沖縄県民のためにも、基地はない方がいいというのが本当の結論である。

image by: Shutterstock

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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