もはやマッドマックス。岡本太郎賞受賞の焼き芋カーは品のいい悪趣味

 

それくらいさつまいもと一蓮托生な彼らは、活動の時期がさつまいもの旬に左右されるのも実にユニーク。

「金時の活動は10月から4月はじめくらいまでですね。芋がおいしいのがその時期なので。それ以外の期間は味が落ちるんです」

芋の味が落ちると作品の価値も落ちる。これは現代美術の世界を見渡しても類を見ないのでは。さらに素材探しだけではなく、彼らはなんと、窯そのものも自分たちで設計してしまったというから驚異。

「芋を焼く窯なんてそれまで見たことがなかったので、ミナミの道具屋筋へ行って『だいたいこんな寸法やな』っていうのを調べて、自分たちで設計特注したんです。失敗もありました。最初は全部を鉄で作ったんです。自動車の上に窯を置いて薪で火をつけて鉄板の上で石を焼く。するとものすごく熱くなる。あまりにホットになりすぎて危険な状態に陥って。それでステンレス工場の方に相談しながら作りなおしたんです。『自分たちはこのデザインで、こういうサイズで作りたい』と。ヘンに思われなかったかですか? それが……担当者もちょっと変わった方で(笑)。すごい興味をもってくれて、『ここはこういうやりかたがある』とアドバイスをくれたり、いろんな人に相談してくれましたね」

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トランクの上で燃え盛る薪。 こんな窯を作れるYottaも薪をくべてもなんともないセンチュリーもすごい。

 

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焼けるにしたがい、いい香りが一帯に漂う。思わず足を留める人も。

途方もない計画は、こうしてさまざまなジャンルのプロたちのソウルにも火をつけていった。その後ステンレス製の特注窯ができあがったのだが、この怒涛の物語はまだ終わりではない。彼らはお客様に「おいしい」状態で食べてもらえるまでに、さらに長い時間を要することとなる。

「うまい焼き芋を提供できるように、ほかの焼き芋屋さんをいっぱいまわって、いっぱい食べて、『どんくらいやってはるんですか?』『仕組みどうなってるんですか?』と聞き込みをして、ちょっとスパイみたいなこともして。『こんなもんか?』『もうちょっと高温のほうがおいしくなるんちゃうか?』って試行錯誤を繰り返しながら、納得できる味になるまでに1年かかりました」

1年……そこまで苦労して辿り着いた、デリシャスな焼き芋。いったいおいくらで販売しているのだろう?

「値段は100グラムで200円の量り売りです。だから一本500円から700円というところでしょうか。いい芋を使っているので薄利多売です。安すぎる? でも大阪では、こんくらいの値段やないと売れないんです。東京でも同じ値段か? イベントにもよりますが東京でも基本は変わらないです。ただ高速を使って東京へ行っているので、一日40本は売らないと赤字になります。それでは商売にならない? う~ん。考え方ですよね。普通、作品を展示するときはギャラリーを借りてお金を払うでしょう。でも僕らは街なかで展示ができて、たくさんの人に見てもらえて、焼き芋っていう作品を買ってもらえる。ほかのアーティストにくらべて恵まれているともいえますしね」

そうだった。これは表現なのだ。焼き芋にまつわるドラマにウルウル涙腺を刺激されているうちにもっとも肝要な、これがアートとしての活動であることをつかのま見失っていた。

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これはもう芸術と呼んでなんの問題があろうかという見事な焼きあがりっぷり。

 

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お客さんもパンダも思わず笑顔になるおいしさ。

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