木崎さんはおもに造形と電気系統を、山脇さんはグラフィックを担当した。木崎さんはこれまでにも子供用の昆虫型電気自動車を開発しており、移動可能なアート作品の制作は、この経験がものをいった。とはいえ大型のデコセダンとなると未知なる部分が非常に多かったようだ。
こうして苦労の甲斐あって披露された金時は、合掌したくなるほどの神々しさに包まれている。暗黒の世界から光が漏れるようなボディの輝き、色の深み。いったいこれはどうのような塗装でこうなっているのだろうか?
「これは、実は、金色を歯ブラシで塗ってるんです(笑)。いろいろ試してみたんですが歯ブラシが一番よかった。塗料は京都の老舗の金箔屋さんが作る特殊なもので、金粉をイメージしているんですけど、紫外線で色が褪せてしまって……」
褪色こそしたが、それがまた独特な味わいになってきている。
独特な味わいといえば、この「金時」の第2の特徴は、至るところに施されたド派手なパーツの数々にある。竹やりマフラー(を模した煙突)は8本も挿して威圧感をほとばしらせた。ハザードランプやテールランプなどはLED電飾。青、緑、黄色、ピンクなど色とりどりなきらびやかさで鬼ほど目立つ。スピーカーにはウーハーが備わり、ゴアトランスなアレンジがなされた「♪いしや~きいも~」の呼び声がズムズムした振動をともないながら尾てい骨から背中を駆けのぼる。クラクションを鳴らすホーンは「ヤンキーホーン」と呼ばれる激いかついもので、心臓が止まるほど大きな音を放つ。車内の天井部分にはサロンバスに使われるシャンデリアが輝き、「品のいい悪趣味」な演出がほれぼれするほどすみずみまで行き届いている。サイドのさまざまな文字が、海外でよく見るインチキ日本語&インチキフォントのようで面白い。
「あの文字は『海外で見る日本語』『海外に間違って理解されているニッポン』を表していて、山脇さんが描きました。車内のビロード生地やシートカバーのレースは映画『トラック野郎』に出てくるデコトラ『一番星号』のイメージに近い素材を使っています。これらは中古パーツを買ってきたり、自分たちでオリジナルのパーツを作ったり。組み立て、組み上げもすべて自分たちで図面を引いてやりました。予算もないし、技術がないところをどうやって補ってゆくか、という方向にレベルアップしていきましたね」
いやいや、どこもかしこもすごい。美は細部に宿る、というか、ビー(バップ)は細部に宿るというべきか。なんだか、近未来の世界からやってきたヤンキーのようだ。
「ヤンキー仕様は意識しました。焼き芋じゃなく『ヤンキー芋』って呼ばれてます(笑)」
ヤンキー仕様ゆえに、避けては通れぬ気になることがある。これだけのデコパーツを積んで、法律に触れないのか? ということ。
「派手な改造車に見えますけれど、車体に穴をあけたりしていません。上に載せているだけなので、カーキャリーに自転車やサーフボードなどを積んでいるのと同じ。荷物扱いなんです。陸運局へ何度も通って法規を確認し、遵守しています。無茶をしているように見えても高さは3.8mまでとか車幅、全長など決まりは守っています。車検ももちろん通りますよ」
このように「金時」は道路交通法をクリアしている合法車両だ。とはいえ交通課ではない街場の巡査には誤解を受けることも多い様子。
「東京で展示するとほぼ毎日パトカーから停められます。怒られるわけじゃないんですけど『ちょっと見せてもらっていい? この車なに?』って怪しがられる。それで『芋を焼いてます』と言うと『えっ?』って驚かれる。あとは車検証と免許証を見せて、まあそれで終わるんですけど、ちょっと管轄が違う隣の区に移動すると、また同じことの繰り返しなんです」
一歩でも管轄が異なると連絡が堰き止められる警察の縦割りにはずいぶん苦労が多いようだ。あと厄介なのは、警察とは逆サイドで生きる人々との軋轢。
「正直、チンピラにからまれることはあります。そのため関西で出店できる場所は少ないです。その点、東京は整備された街が多くてやりやすい。原宿のストリートにいて怒られたことは一度もないし、秋葉原だと呼び込みのお兄さんが焼き芋を買いにきてくれて、リピーターにまでなってもらえて、展示しやすい。ただ、新橋では怒られました。怖い人たちに囲まれて『わかるな?』って。置ける街、置けない街はありますね」
このように気苦労は現在も進行形だが、アトリエに寝泊まりし、大学の教え子たちにも手伝ってもらいながらアートナイトまで約2ヶ月かけて金時を制作し、その後も改良を重ね、トータル5ヶ月を経てついにアート界の一番星、前代未聞なリモデリング焼き芋マシンが発進したのである。