MAG2 NEWS MENU

メルセデス・ベンツの再挑戦。果たして3代目スマートforfourに活路はあるか?

メルセデス・ベンツから新しく販売された3代目のスマートforfour。車雑誌の編集者からは「フォーツーならわかるけれど、フォーフォーって何?」と疑問の声も。元ホンダの開発エンジニアでもある繁浩太郎さんは、『写真と動画も楽しめる マニアック情報満載カーマガジン AutoProve』 の中で、ベンツ「スマートforfour」について他誌では決して読めない辛口批評を展開しています。

スマートに市場性はあるのか?

一緒に「スマート」の取材にいった担当の編集者が「今度のフォーツーはまだしも、フォーフォーの意味が分からん」と言っていました。つまり、ユーザーがなにをもってフォーフォーを選ぶのか分からんと。もっと言うとユーザーが感じる魅力はあるのか?ということです。このことについて考えていきたいと思います。

3代目のスマートforfourはルノートゥインゴと共通の部分が多い

スマートは90年代後半に時計で有名なスウォッチ(SWATCH)が「シティコミューターコンセプトで世の中に登場させ、なんと言っても1台の駐車スペースの約半分で駐車できるというそのサイズは全くコロンブスの卵的でありました。ちなみに今回のスマートは3代目になります。

実際その全長は2,560mmと5mオーバーのメルセデス・ベンツSクラスの約半分でした。当時、私はドイツ・フランクフルトによく出張で行っていましたが、市内の路上や地下のパーキングスペースには、普通のスペースの約半分しかないスマート専用のパーキングスペースを見かけたものです。それは柱の影とかにもありました。

手前がforfour、奥は独創的なコンセプトのスマートfortwo

当時、スウォッチ時計の勢いも凄くて、そのスウォッチとコラボしたスマートのデザインは中も外もオシャレなものでしたから、「これからの街中はスマートだらけになるのか?」と一瞬思ったものです。多分、多くのカーメーカーもそのコンセプトとそれを作ってしまう力に驚いたと思います。

販売方法もオシャレなものだった。

しかし、実際の販売は思ったほどにはいかず、商売的には厳しかったようです。これは私の考えですが、あまりにも短い全長と高い車高なのでいくらオシャレなデザインで可愛く見えても、街中で走っている姿を見るとヒョコヒョコしていて、決して時代の先をいくカッコイイというものではなかったように思います。

そのプラットフォーム等は小さなボディのスマート専用であったため、他の機種で製造コストの原価償却するわけにもいかず、結局長く売り続けるしかなかったのだと思います。だから10年後の2代目へのフルモデルチェンジの時には2シーターのスマートに加えて、他車のプラットフォームと共用化した、4人乗りの市場性の高いフォーフォーとして機種追加の形で販売したのだと思います。

リヤに3気筒の自然吸気1.0Lエンジンを搭載

 

後席を畳むとそれなりのスペースがある

みなさんは「単に売れなければ止めればいいのに」と考えるかもしれませんが、一旦機種として開発したら、開発コストや工場設備などの「投資償却」をしなければなりません。だから売れなければ年数をかけて売る。スマートがモデルチェンジをせず長く10年も作り続けた理由だと読んでいます。また、もう1つ止めなかった理由にCAFEがあります。これは企業平均燃費に関する規制で、燃費のいい小型車があれば企業全体の平均燃費は上がるから小型車を持つことは重要になるからです。こうした理由から、売れるであろうフォーフォーをラインアップに加えたというのが本音でしょう。

しかし、このフォーフォーの販売はふるいませんでした。4人乗りにしたフォーフォーは当然全長も長く「シティコミューター」「半分のスペースで駐車」という独自のコンセプトがありません。つまり普通のスモールカーのようになって、違うのは「デザインに凝っているというファッション的なものがメインになりました。

スモールカーはもともとヨーロッパは激戦区で、価格と使い勝手、性能…など、ユーザーの目は厳しいのです。多くのユーザーにとっては、何もここまでのファッション性はなくても、もっとクルマとしてリーズナブルなもので良いということだったのかもしれません。

そして今回の3代目スマートは、再チャレンジになります。いわゆる、よっぽど「ふんどしを締め直して企画しないと成功は難しい」というヤツです。しかし、メルセデス・ベンツは他車とのプラットフォームを共用して(ルノートゥインゴと共通)投資コストをできるだけ下げるという、以前と同じ方法は変えなかったようです。

一方、デザインは全長を短くして全高を上げ、コリッとさせて「見やすく」しています。ただ見やすくなるということは「一般化」するということと近いですね。そこで、ノーズをしっかりさせ、ルーフの後ろをおもいっきり下げて、「一般化」から今風のカッコイイ方向を少し入れたのだと思います。

つまり、「スマートブランドデザイン」を意識した先代のデザインコンセプトは捨てました。実際、初代より多くのユーザーに受け入れてもらえそうな、数を狙えるデザインになったと思います。

これってよく考えると非常にまっとうな優等生の考え方とやり方です。もちろん、それでおかしくはないのですが、開発チームの気持ちを思うとコレではチョット逃げ道があるということになってしまうのではないでしょうか。

新車開発って少しでも気を抜くと良いものができなくて、全員がギリギリまで頑張りぬくことでやっと良いものができる。ホンダで開発チームをまとめていた立場でしたからよくわかります。

フォーフォーのコンセプトは会社都合なのか?

どういうことかと言うと、開発の狙いに、「こういうコンセプトのクルマを創りたい」という意思があるのでなく、会社の都合もキチッと入れてその中でできるだけ頑張る、ということになると「できるだけ頑張りゃいい」につながってしまい、「ふんどしを締め直していませんよね? 再チャレンジで、必達・必勝となると「決死の覚悟とはかけ離れているわけです。

私だったら、コンセプトからオールニューで開発チームに創造するようにして、開発メンバーにプレッシャーをかけます。会社にもそうさせてくれと言います。新しいこれからの「シティコミューター」を再考するのか? 全く新しい取り組みにしてしまうのか? 基から考え直すということに対し開発メンバーと会社にも迫るわけです。メルセデス・ベンツにそのくらいの資金が無いはずはありません

後席はなんとか4名乗車は可能

 

かわいくおしゃれにデザインされているインテリア

初代のフォーフォー(2代目スマート)は言いましたように「コンセプトは破綻していました。何をもって「シティコミューター」なのか? シティコミューターとしての強い提案が無いならスマートという名前を変えるべきだったのです。

今回も、「スマート」という名前を踏襲していますから、メルセデス・ベンツが考える「新しいシティコミューター」を提案して欲しかったです。つまり、「フォーツー」におけるシティコミューターとは? 「フォーフォー」におけるシティコミューターとは? だって、メルセデス・ベンツの哲学は「Best or Nothing」でしょ。

国内では、今回「フォーツーは限定販売です。数を売るクルマでなく、「好きなユーザー」「気に入ってもらえるユーザー」にキチンと買っていただく施策だと思います。しかし、「フォーフォーは数をある程度販売したいクルマだと思います。

そのせいか、価格は大変リーズナブルになっています。国産車じゃ好きなクルマもないし、街に多く走っているクルマは嫌だし、メルセデス・ベンツブランドは憧れ、という価値観のお客さんは少なくないと思います。

このように当面のビジネス的には良いかもしれませんが、そのコンセプト的にはやはり「分からん商品ですね。これで、担当の編集者が「今度のフォーツーはまだしも、フォーフォーの意味が分からん」と言っていた理由がみなさん、おわかりいただけましたか? つまり、造る側のご都合でつくられたクルマの匂いが強いから、すんなりユーザーに溶け込めないというわけです。

文/繁浩太郎

image by: Auto Prove

 

情報が知識にかわる自動車サイト AutoProve
2010年3月に創刊したカーWebマガジンです。自動車メーカーの情報はもちろん、Tia1(サプライヤー)にも焦点を当てた本格カーWebです。主な記事は試乗レポートや新車解説、メカニズム解説そしてニュースです(一部無料開放)。試乗レポートは技術的な裏付けのあるレポートを提供します。雑誌には載らない情報も発信しますのでクルマ好きには必読のWebマガジンです。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け