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日本人のゴールデン離れか? 米国から見た「SMAP騒動」の本質

2016年も始まったばかりの1月に飛び込んできた「SMAP独立未遂騒動」。これについては、現在もさまざまな推測が飛び交っていますが、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんは、この騒動の根底には「TV業界における従来のビジネスモデルの衰退」があったと指摘しています。

SMAP騒動深層ある日本市場変化

今回の「SMAP独立未遂」というドラマの深層にあるのは何なのでしょう? 2点あると思います。

1つは「民放地上波平日プライムというビジネスモデルが過渡期に差し掛かっているという問題です。では、SMAPの出演する「平日プライム」のバラエティ番組の「視聴率が下がっている」のかというと、そうではないのです。問題は「視聴率の背景にある視聴者の購買力が下がっているということです。

ですから、同じ15%とか20%という数字を叩き出しても、広告主としては、例えば2000年代と比較すると、その20%の視聴者の持っている購買力のトータルは弱まっている、そう評価せざるを得ないのです。

例えば昔は一社提供だった番組が複数社提供になり、そして番組の後半にはローカルのスポットも売られているというような状況があるわけですが、それは個々の広告出稿側の経営が弱体化しているからではありません。そうではなくて、その時間帯の広告の広告効果が低下している、いくらレーティングを取ってもカネにならないという問題があるのです。

出稿側の予算削減ということもあるでしょう。ですが、それは広告主の業績が低迷しているからでは必ずしもないのです。例えば、ナショナル・スポンサーとして今でも多量の出稿をしている自動車や飲料といった産業の場合、会社としての業績は悪くなくても、その中に占める日本のマーケットの貢献率はどんどん縮小しているわけです。ということは、日本での広告出稿は絞らざるを得ません。

日本全体だけでなく、市場縮小ということでは地域差という問題も乗ってきます。例えば、経済が衰退し、人口が減少している地域に行きますと、全国ネットのメジャーなバラエティの合間に「パチンコ店」や「仏壇屋さん」のローカルCM、それも静止画広告が入ってきたりするのです。それは、その地方局さんの営業がダメなわけでもないし、全国枠を買うのをケチった大企業が悪いわけでもありません。その時間帯のその地域の視聴層を対象とした市場全体が衰退しているという事実を反映しているだけなのです。

時間帯の問題もあります。70年代には「お父さんが平日の7時半にビールを飲みながらTVでプロ野球観戦」という光景があったのですが、長時間労働の拡大に伴って「購買力のある現役世代の帰宅時間」はどんどん遅くなっているわけです。

ちなみに、NHKさんの『クロ現の時間帯移行も同じ理由だと思われます。7時半という時間帯であれば高齢者が中心となりますから「アメリカの格差社会が来たら大変」といった感情論などを含めた堤未果さんのエンタメ与太話などのニーズがあるわけですが、そんな番組ばかりやっていると、現役世代からは局のイメージが保守的に見えてしまうわけです。ですから広告効果ということは直接関係のないNHKさんとしても、報道番組ということでは、本当のプライムである10時台移行で勝負したくなるのは自然でしょう。

いずれにしても、ナショナルスポンサーによる巨額の料金に支えられた「民放地上波平日プライム」というビジネスモデルは、完全に過渡期に差し掛かっているのです。今回の独立騒動は、この問題が本質です。

2つ目は、これに対する芸能プロダクションさんの側の対策です。そもそも、それでは現在はどこに「購買力のある視聴層」がいるのかというと、それは深夜であり、週末であり、そしてBSです。こうした時間帯あるいは波の特性を考えると、番組制作のコンセプトも変わってきます。きめ細かい企画、時代への即応、新しさの追求といった点に加えて、ネットなどとのメディア・ミックスも重要です。

例えば、芸人さんに芥川賞を取らせて、しかもそれが「お高く止まっている」という印象を与えないようにマネージしながら、その芸人さん(と相方も)のキャラの深化になっていくというようなビジネスのマネジメント、そのような高度な仕事をしていかないと、この「現在購買力を持っている層」に食い込むことはできないのです。

仮に今回の独立騒動というのが本当であったとしたら、その目的は「ギャラの分配率を高くしたい」というクラシックな動機ではなく、このような「もっと近代的なマネジメント」を獲得して、自分たちが持っている視聴層の中で購買力のある層フォーカスした、メディアや波、あるいは時間帯のシフト、そしてそれに見合う自分たちの芸能の質の深化を模索したということなのだと思います。

image by: Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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