真田丸『第10話』解説。「領土分割」は紳士協定ではなかった？

 NHK大河ドラマ『真田丸』を放送直後にワンポイント解説する人気連載シリーズ。今回は、「領土分割」について詳しく解説しています。家康と北条氏政・氏直との間で成立した領土分割協定ですが、この時代の領土分割は紳士協定ではなかったとのこと。分割した領土を支配できるかどうかは「自力次第」だったとのことですが、どういうことなのでしょうか？

今回の解説ポイントは領土分割。天正壬午の乱で徳川家康と北条氏政・氏直が講和した結果、 上野一国を北条領、甲斐と信濃の佐久を徳川領とする領土分割協定が成立した。また、家康の娘の督姫が氏直に嫁ぐこととなった。

北条側は、占領していた甲斐の一部と佐久を徳川方に割譲する形となったが、これは氏政・氏直にとって悪い決着ではなかった。家康との同盟が成立したことによって西部戦線が安定すれば、 北関東の平定に全力を投入できるようになるからだ。実際、こののち北条軍は北関東で攻勢に出て、宇都宮氏らの反北条勢力を滅亡寸前まで圧迫している。

ただ、覚えておいてほしいのは、この時代の領土分割が決して紳士協定ではなかった、ということ。分割した領土を実際に支配できるかどうかは当人の自力次第というのが、この時代の考え方だった。たとえば…、甲斐や佐久の国衆の中に、「自分は徳川の家臣になるのはイヤだ」といって、 北条側によしみを通じてくる者があっても、氏政は「君の国は徳川領になったんだから、おとなしく家康に従いなさい」などと説得してはくれない。 それどころが、そんな人物は大いにウェルカムだから、家康が新しい国の統治に手こずっていると見たら、調略をしかけて寝返りを誘ったりする。その結果、協定で徳川領とされたはずの領地 の一部が北条領になってしまっても、それは家康の自力が足りなかったからと見なされる。要するに自己責任、というわけだ。もちろん、上野の国衆を従属させられるかどうかも、北条家の自力次第。

徳川・北条という大国の都合による領土分割協定が沼田領帰属問題につながり、真田家の命運を大きく揺さぶってゆくことになるわけだが、この「支配を実現できるかどうかは自力次第」という戦国の原理を踏まえていれば、昌幸の立場もよくわかると思うよ。 (西股総生)

《今週のワンポイントイラスト》

近頃気になる補佐役、板部岡江雪斎&直江兼続。江雪斎にはぜひ「暇か?」と言っていただきたいところ。兼続は『天地人』のイメージをいい意味で覆してますね。(みかめ)

ところで…、直江兼続の兜についている「愛」の前立ては愛宕権現。LOVEじゃないからね。というか、愛の字が LOVEの意味で使われるようになったのは、明治以降の話。それ以前には愛の語は、まあ S○X を意味していた。愛人・愛欲などの言葉にドロドロしたニュアンスを感じてしまうのは、その名残り。 だから、「愛」の兜を見た人は、ギョッとしたと思う。戦場だったら「F○CK YOU」に見えたかも。兼続も、案外そこは狙ってたりして(笑)。 (西股総生)

文・絵/TEAM ナワバリング（西股総生・みかめゆきよみ）

ナワバリスト（城郭研究家）の西股総生率いる、お城（主に山の城）と縄張りを愛する３人組

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