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絶望の二択。トランプよりルビオがマシだというのは本当か?

トランプ氏の快進撃もあって、これまでになく世界が注目する米大統領選。そのトランプ氏が所属する共和党の主流派は彼の独走を快く思ってはおらず、現在候補者指名争いで3位に付けているルビオ氏の一本化を画策しはじめました。日本のマスコミにも「トランプ氏よりもルビオ氏のほうがベター」という認識があるようですが、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、アメリカの専門家の意見等を引きつつ、「ルビオ氏はトランプ氏よりも危険」としています。

トランプよりルビオがマシだというのは本当か?

米大統領選の共和党予備選挙でドナルド・トランプの勢いが衰えないことに全世界的な懸念が深まっている。3月9日付ワシントン発ロイター電によると、欧州はじめ中東や中南米や日本を含むアジア各国の首脳をはじめ高官、大使など外交官からのトランプの偏狭な排外主義的発言に対する批判や警告は山のように寄せられていて、その中には例えば、「トランプの言っていることは間違っているだけでなく、我々のテロリストとの戦いを妨げる」という英キャメロン首相の苦言も含まれている。

「共和党エリート」と呼ばれる同党の中道右派的な主流派も、この事態には困り果てていて、何とかしてトランプを引きずり下ろそうとあの手この手を繰り出しているが巧くいかず、結局のところ、今は第3位あたりに付けているマルコ・ルビオに一本化することを追求している。第2位にいるテッド・クルーズは草の根「ティー・パーティ」出身でキリスト教極右派とも繋がる共和党反主流派で、それよりはルビオの方がマシだろうという苦肉の策である。

しかし、ルビオは、本誌No.823でも指摘したとおり、「無邪気なネオコン」であり、こんな人間を大統領候補にすれば、米共和党はブッシュ子政権がやったことはすべて正しかったと全世界に向かって宣言するのと同じことになる。

トランプは奇矯だが、ルビオは浮薄で、クルーズは極端である。この中からどれかを選べと言われても躊躇(ためら)わざるを得ないが、少なくとも、トランプよりもルビオがベターだという、日本のマスコミにも何となく行き渡っている認識は、致命的に間違っている

共和党の長年にわたる思考停止

オバマ大統領は3月10日の記者会見で、オバマ政権下で広がった政治的分断がトランプの台頭を生んだのではないかとの質問に答えて、こう言った。

共和党からはいろいろと批判されてきたが、同党の候補者争い(の混乱)についてまで私が非難されるのは意外だ。

共和党中枢は私の政策の全てに反対し、少しでも協力したり妥協したりすれば裏切りだという考えを、過去7年間にわたって共和党支持層に浸透させ続けてきた。それが、トランプが指名争いをリードできる環境を作ったのだ。

この状況と共和党の方向性を懸念する思慮深い保守派の人々は、なぜこのサーカスのような状況が生まれたのかを反省すべきだ……。

その通りである。対外政策について言えば、この7年間にオバマが苦心惨憺、取り組んできたのは、ブッシュ前政権が引き起こした2つの戦争とその必然的な結末としてのシリア内戦とISの台頭テロの全世界的拡散との闘いだった。そして、それを通じて彼が中長期的な方向付けとして目指したのは、何かと言えば軍事力を振り回す20世紀的な覇権主義の米国をきっぱりと卒業して、21世紀的な多極世界の新しい秩序を創り出しつつそれに米国自身をも適合させていこうとする努力であり、口先だけに終わったとはいえ「核廃絶」宣言もその一環であった。

ところが共和党はと言えば、ブッシュの暗愚を利用してネオコンと共和党タカ派とイスラエル・ロビーのトライアングルが政権中枢を乗っ取って、中東のみならず全世界に災禍をもたらした前政権の愚行に対する一片の反省も総括もなしに、オバマのやることなすことにことごとく反対し続けたばかりか、リビアでもウクライナでもシリアでもイランでも無闇に軍事力を振り回すことなく問題解決を図ろうとする彼に「弱腰」とか「弱虫」とか、まるで低次元の罵倒を浴びせるばかりだった。

そこには、今がどういう時代の変わり目なのか、次の時代を切り開くために米国がどう自己変革を遂げつつグローバルなリーダーシップを発揮すべきなのかという、米国の責任ある政治家としての思考など何もなく、ただ単に、ブッシュ子の「単独行動主義」の迷妄やブッシュ父の「唯一超大国」の幻想、もっと言えばその先にある冷戦時代の「強かったアメリカ」への幼稚なノスタルジアにしがみつくだけの姿だった。

その7年間の知的空白の後では、「力だ、力だ、誰も俺たちに手出しが出来ないほどの力だ」と叫ぶトランプ、「私のIS対策はシンプルだ。徹底的な絨毯爆撃で後に何も残らないように破壊する。イラン? 絨毯爆撃だ」としか言わないクルーズ、そしてネオコンの申し子のルビオという困った3人以外に共和党の大統領候補になり手がいないという末期症状が現出するしかなかったのである。

15日のフロリダ州など6州での予備選・党員集会を目前に、共和党主流派は大混乱に陥っている。フロリダ州はルビオの地元で、またオハイオ州はもちろんジョン・ケーシック=同州知事の地元である。2人がそれぞれ地元で勝てば、最後はルビオに一本化することでトランプを阻止する可能性が残るが、もし2人が負ければ、2人とも予備選から撤退を余儀なくされ、共和党の候補者選びはトランプとクルーズに絞られることになる。

「トランプとクルーズのどちらを選ぶかというのは、銃殺と毒殺の違いだ」と、かつて共和党の重鎮リンジー・グラハム上院議員が言っていたように、これは同党主流派にとって最悪の事態である。そこで、15日には、フロリダでケーシックの票をルビオに集中し、オハイオでルビオの票をケーシックに集中することで、何とかしてトランプを食い止めようとしているが、果たしてそんな器用な芸当が俄に可能なのかどうか。

仮にそれが成功してトランプvsルビオの図式に持ち込むことが出来たとしても、その時にトランプよりルビオのほうがマシだと有権者のみならず国際社会を説得することが出来るのかどうか。

ネオコンはどこから来たのか?

ネオコン(新保守主義)の定義は必ずしも明確ではなく、その源流は1930年代のニューヨークで一定の勢力を持った第4インター系のトロツキスト=反スターリン主義者のユダヤ系の知識人・学生の政治グループにまで遡るという説があって、Wikiにもそれらしきことが書いてある。その左翼が後に保守派に転向したところに「ネオ」たる所以があるというのだが、私はそのような詮索は余り意味がなくて、ベトナム戦争敗北の挫折感とニクソン政権下でキッシンジャー補佐官/国務長官が推進した対ソ・対中のデタント外交に危機感を抱いた反共タカ派の再結集のことだと思っている。

その実体的な発端は、フォード政権下、ディック・チェイニー大統領首席補佐官、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、ブッシュ父CIA長官の下で組織され「チームB」で、ハーバード大学のロシア史の泰斗=リチャード・パイプスをヘッドに知識人や外交官や国務省の官僚などが招集されて、対ソ核戦争に勝利するための強硬戦略を練り上げた。その時に、パイプスによって国務省からピックアップされたのがポール・ウォルフォウィッツだった。

カーター民主党政権を挟んで81年にレーガン大統領が誕生すると、彼らの天下になり、「悪の帝国=ソ連に対する新冷戦が発動された。チェイニーは下院議員になるが、ラムズフェルドはいくつもの軍事・外交関係の諮問機関の委員として政権アドバイザー役を務め、ブッシュ父は副大統領、その下でウォルフォウィッツは国務次官補として、リチャード・パール国防次官補と共にその事務方の両輪となった。

89年に後を継いだブッシュ父政権では、チェイニーは国防長官、ラムズフェルドはブッシュに対抗し大統領選に出馬しようとした経緯があって公職には就かなかったが、やはりいくつかの諮問委員を務めた。パールは国防政策諮問委員長になった。

この人たちが、クリントン政権下の97年に、政権奪還を目指して立ち上げたのが「アメリカ新世紀プロジェクト」で、その名の通り、「アメリカの世紀」だった20世紀の栄光を取り戻して21世紀を再び「新しいアメリカの世紀」にしようという趣旨だった。その提言は時代錯誤としか言い様のないもので

  1. 米国は唯一無比のグロ-バルな覇権を再確立するために軍事支出を増強し防衛力を再建する、
  2. 価値観や利益を共有する民主主義諸国との同盟を強化し、そうでない政権と対決する(蛇足ながら、安倍晋三の「価値観外交」はこの受け売りである)
  3. その方向に転換するのは容易ではなく、「真珠湾攻撃のような破滅的な出来事」が必要だ

──と指摘した。この3.故に、後に9・11はネオコンによる自作自演という陰謀説が流布されることにもなった。

その主要メンバーは、チェイニー、ラムズフェルド、ウォルフォウィッツ、パールらで、さらに元国務省で共和党右派系のシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」副所長だったジョン・ボルトン、ブッシュ子の弟で今回の大統領候補レースで早々に挫折したジェブ・ブッシュ=フロリダ州知事、ウォルフォウィッツのお仲間でブッシュ父政権で国防次官補を務めたルイス・リビー、国務省にいたアフガン系米国人のザルメイ・ハリルサド、国務省出身の政治評論家ロバート・ケーガン、右派雑誌「ウィークリー・スタンダード」の創刊者で若手政治家育成のための「外交政策イニシアティブ」の指導者であるウィリアム・クリストル、レーガン政権の教育長官だったウィリアム・ベネットなども参画していた。

この人たちが祭り上げたのがブッシュ子政権で、チェイニーは副大統領、ラムズフェルドは国防長官、ウォルフォウィッツは国防次官、パールは国防政策諮問委員長、ボルトンは国務次官、リビーは副大統領補佐官という体制が出来上がったところへ、都合のいいことに(?)9・11が起きて、米国は2つの戦争に雪崩れ込んだ。ハリルサドは、03年に駐アフガン大使、05年に駐イラク大使と、侵略先の掃除係を担当した。

このうち、ウォルフォウィッツ、パール、ボルトン、リビーはユダヤ系でイスラエル右翼のリクードと親密である。パールはかつて半分はテルアビブで暮らして、ネタニエフ首相の補佐官を務めていた。彼らが生粋のネオコンで、それを共和党右派で軍産複合体ロビーであるラムズフェルドやチェイニーが支持し庇護していたというのがブッシュ子政権の実体である。

クリストルは、レーガン政権ではベネット教育長官だった時の補佐官で、ブッシュ子政権ではクエール副大統領の首席補佐官。97年に「アメリカ新世紀プロジェクト」の議長であり、08年大統領選挙ではジョン・マケイン共和党大統領候補の外交政策顧問だった。そのクリストルの若手育成外交政策イニシアティブ」に参加していたのが──話が長くなって恐縮だが──ルビオなのである

ルビオは「戦争候補」である

米ケイトー研究所の上級フェロー=ダグ・バンドウは3月8日付のジャパン・タイムズで「マルコ・ルビオは共和党の戦争候補である」という一文を寄稿している。

共和党主流派はトランプ阻止のためにルビオへの一本化を策しているが、ルビオの外交政策は恐るべきもので、「もしあなたが、さらにばかばかしく、犠牲が大きく、しかも不必要な戦争を求めるのなら、ルビオに投票するがいい」と書いている。

トランプの言動は粗暴で誇張に満ちているが、外交についてはかなり正しい。彼は、イラク侵攻は破滅的な結果をもたらしたという認識を持っているし、リビア紛争への介入には反対したし、シリア内戦への関与を批判しているし、ロシアとの軍事対決にも反対している。

彼はまた、米国がなぜ欧州、日本、韓国のような豊かな同盟国をいつまでも支援し続けなければならないのか、ペンタゴンは外国人のための福祉機関ではないだろうと言っている。

それとは対照的に、ルビオは、本物のネオコン信者で、イデオロギー的幻想に囚われて、新たな戦争をやろうとしている。彼は、イラク戦争は成功だったという立場だし、リビア内戦にはもっと早く介入すべきだったし、シリアに関してはアサド政権とISの両方を倒すべきだという主張である。また東欧諸国にはもっと軍事援助をすべきだとも言っている。

さらに悪いことに、彼はウクライナをNATOに加入させようとしているが、怒れる隣国ロシアをそんな風に刺激することほど危険なことはない。

トランプは無責任極まりないけれども、ルビオはもっと危険だ……。

ルビオが大統領になれば、間違いなくネオコンと共和党タカ派とイスラエル・リビーの連合軍が衰弱したアメリカ帝国を操って世界を破滅させる。だからと言ってトランプなら少しはマシだと期待すべきなのか。絶望的な共和党の現状と言える。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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