「大人の塗り絵ブーム」が海外で起きている。様々な絵柄の塗り絵本が市場を賑わし、ミリオンセラーになるものまで現れた。塗り絵を通じたコミュニケーションの広がり、ストレス解消効果も注目されており、人気は高まるばかりだ。
予期せぬベストセラー
米ミネソタ州の公共ラジオ局MPRは、2015年は大人の塗り絵本の年であったと述べる。年初はほとんど知られていないニッチなアイテムだったのが、12月には全国の書店の陳列スペースを何百種類もの塗り絵本が占拠するようになり、昨年だけで数百万部が売れたということだ。(MPR)
以前から大人の塗り絵本はあったが、ブームに火をつけたのは、スコットランドのイラストレーター、ジョハンナ・バスフォードの複雑な絵柄の塗り絵本だった。2013 年発売の第1作、『ひみつの花園』は、2年で100万部以上を売り上げ、昨年2月発売の『ねむれる森』は、最初の2ヶ月間で25万部を突破し、売り切れ続出の大ヒットとなった(MPR)。
バスフォード作品の米販売元、『Chronicle Books』のスティーブ・モッカス氏は、彼女の作品が成功するまで、塗り絵の需要がどの程度あるのかだれにも分からなかったと述べる。予期せぬブームに、「水門が開かれた」ようだと形容している(MPR)。
この塗り絵人気で、思わぬ特需に沸いているのが、クレヨンや色鉛筆のメーカーだ。ドイツのステッドラー社では、何年も前から作っている商品に突然注文が殺到。昨年のセールスは14%アップし、生産能力を上げる必要も出てきた。しかし、同社はこのブームが一過性のものではないかと懐疑的。設備投資をすべきか、頭を悩ませているということだ(AFP)。
作業そのものが魅力。癒し効果も
ニューヨーク公立図書館のケリー・イム・フォーク氏は、塗り絵の魅力は「簡単で特別な技術もいらず、子供のころの楽しい思い出を呼び戻してくれる」こと、とAFPに述べる。NPRも、「シンプルでお金がかからない。線の内側を塗るとリラックスできる」という塗り絵ファンのコメントを紹介している。
自らも塗り絵を治療に取り入れている心理学者のベン・ミカエリス氏は、黙々と塗るという繰り返しの作業がリラクゼーションにつながると述べ、塗り絵には癒し、セラピー効果があると指摘。特に、心配性、自意識過剰な人々には効果が高いとしている。一方で、細部にこだわり間違いを許せない完璧主義者には、複雑な模様の塗り絵はストレスとなり、逆効果とのことだ(MPR)。
コンピューター画面を見て過ごす時間が多い人々にとっても、ローテクの塗り絵は、時には電源オフで息抜きという大きなトレンドの一部だとミカエリス氏は説明する。また、手先の器用さを失いつつある高齢者には、リハビリ効果も期待できるそうだ(MPR)。
コミュニケーションも生み出す
MPRは、塗り絵仲間との交流を楽しんだり、出来上がった塗り絵をネットで公開するという、社会的側面も、ブームを支えていると述べる。AFPによれば、大人の塗り絵を楽しむのは、主に年配者や女性。ニューヨークでは各地で塗り絵のワークショップが開かれ、共通の趣味を持つ人々が集い、楽しい時間を過ごしている。
ミネソタ州でも、塗り絵クラブが作られ、メンバーの1人がクラブのためのフェイスブックをスタート。これを見た別の塗り絵クラブが続々とページを立ち上げ、今ではラスベガス、ニューヨーク、ロンドンの塗り絵ファンが、ソーシャル・メディアで作品を披露し合っているとのことだ(MPR)。
異色の塗り絵も登場
サンスクリット模様、風景、動植物など、豊富な絵柄で賑わう大人の塗り絵本市場だが、塗り絵の枠を超えそうな、驚きの商品も発売されている。
英ミラー紙によれば、イギリスではセックスの体位を絵柄にしたX指定の塗り絵本が発売された。エロティックなバレンタイン・ギフトとしてどうか、とのことだが、「大人」ブームに便乗したことは間違いない。
また、「swear words (罵る言葉)」を集めた塗り絵本も発売されている。「馬鹿野郎」、「クソったれ」等の文字におしゃれな花柄があしらわれており、怒りを抑え落ち着きたいときに効果的とのこと(Bustle)。MPRによれば、すでに同様の商品が5種類以上発売されているということで、こちらのほうは需要が高いようだ。
(山川真智子)
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