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自国民の幸福と安全を“ないがしろ”にした経済成長や世界貢献など砂上の楼閣。今こそ石橋湛山の「小日本主義」に立ち戻ろう

明日は、いよいよ衆議院議員選挙の投開票日。そんな大切な日の直前だからこそ、日本の未来について今一度考える時ではないでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、わずか65日の在任期間で亡くなった第55代内閣総理大臣の石橋湛山(いしばし・たんざん)が遺した「小日本主義」と彼の論説を紹介し、「今こそこの原点に立ち戻るべきでは」と提言しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石橋湛山という昭和の政治家

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

石橋湛山という昭和の政治家

田中秀征氏と佐高信氏の対談新刊本 『石橋湛山を語る いまよみがえる保守本流の神髄』(集英社新書) を読みました。

石橋湛山とは、第55代内閣総理大臣ですが、病気のため、在任期間は昭和31年12月23日から翌年2月25日までのわずか65日、その後総理になったのが岸信介です。歴史の皮肉ですが、石橋湛山の健康に問題がなく、もっと長く総理大臣を続けていたなら、その後の日本の姿は今とはかなり違う姿になっていたのではないかと思わせる政治家でした。

東京に生まれ、早稲田大学文学部を卒業、新聞社を経て1911年に東洋経済新報社に入社、のちに社長を務めました。戦前戦中には、「自由貿易こそ日本を発展させる」として、武力による対外膨張政策を徹底批判、植民地をすべて放棄する「小日本主義」を唱えるなど、軍国主義や帝国主義と真っ向から対峙した言論人でしたが、戦後、政界に転じました。自身の経済復興計画を実現するためと言われています。

先月、自民党総裁選の時に、有象無象の候補者が乱立し、「もういちど日本を世界のてっぺんに」だの、「一緒に創りませんか日本の新しい景色」だのと宣っていましたが、この人たちの主張を聞いていて心底うんざりした気持ちになりました。誰一人として、現在日本国が置かれた深刻な状況をまともに理解しておらず、薄っぺらで聞き飽きたような主張ばかり、まともな国家像を具体的に描けている候補者が一人もいないように思えたからです。

そして、ふと石橋湛山が主張していた「小日本主義」を思い出して復習していたのですが、そんな時に、ちょうどこの本が著者の一人から送られてきたのです。

政治家に限った話ではありませんが、我々が生きて行く上では、正しい時代認識が求められます。今の時代は、石橋湛山が生きた時代とはまるで違いますし、戦後の高度経済成長期ともまったく違います。このメルマガでもたまに使う「VUCA」という言葉に象徴される先の見通しがつかない時代であり、米国の力が弱体化する中、中露やグローバルサウスが台頭して新たな世界秩序が再構築されつつある過渡期にあたります。今週22日から24日までロシアで開催されたBRICSの首脳会議などはまさにその象徴でしょう。36カ国が参加し、G7に対抗して、BRICSの拡大やUSドル決済からの脱却などが議題になっており、プーチン大統領は、参加各国のほぼすべての首脳との二国間会談も精力的にこなしたようです。

ダイナミックな世界秩序の大転換が進行する中、日本は、今や少子高齢化に伴う人口減少が課題の衰退国家になっています。超高齢社会となり人口が減少する衰退国家の国家運営は、国民の平均年齢が若く人口が増加する成長国家の国家運営とは当然異なったものになります。仮にも総理を目指すのであれば、具体的な策も無いまま脳天気に「もういちど日本を世界のてっぺんに」等と叫ぶ前に、昭和期のように、世界の大国を目指し大国であり続けようとするのか、それとも、デンマークやスイスなどのヨーロッパの小国のように、小さくても国民が豊かで安全で幸せな国家を目指すのかなど、まずは変わりゆく世界秩序の中で自国の立ち位置を見つめ直し、目指すべき国家像を明らかにすることが先決なのではないでしょうか。

前者を「新・大日本主義」、後者を「新・小日本主義」という風に呼ぶとすれば、石橋湛山の論点とは異なりますが、私は後者の選択肢があってもいいように思います。一経済人として経済成長を否定するつもりはまったくありませんが自国民の幸福と安全をないがしろにした経済成長や世界貢献など、まさに砂上の楼閣です。しかし、長く続いた自公政権は、米国や大企業の意向に逆らえないまま、あるいは自ら彼らに迎合して、自国民の生活をずいぶんないがしろにしてきたと思います。「自国ファースト」というと利己的に聞こえますが、これからは、際限のない軍事費の増強や海外へのバラマキは止めて、あらためて自国民の生活の質を向上させることを最優先にした政治に転換すべきであると思います。そのためには、税制や税の使い道の抜本的な見直しがマストですから、財務省に支配されたような国家運営についても大きく転換させる必要があります。

日本国中が敗戦に打ちひしがれ、絶望していた1945年8月、石橋湛山は、真骨頂ともいえる「更生日本の門出 前途は洋々たり」という論説を書きました。その中で「日本は科学精神に徹底し、世界平和の戦士として全力を尽くせば未来は明るい」と主張しましたが、これからの日本の国家像を再考する上でも、あらためてこの原点に立ち戻ってはどうでしょうか。

いずれにせよ、これ以上亡国政治が続くのは勘弁して欲しいと思いますし、27日の衆院選挙が、これまでの悪しき流れを変える転換点になることを切に願っています。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年10月25日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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