激闘となった自民党総裁選を制し、第102代内閣総理大臣に選出された石破茂氏。防衛族として知られる石破氏はかねてから「アジア版NATO」の創設を提唱していますが、果たしてそれは日本の国益にかなうものなのでしょうか。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、アジア版NATOのそもそもの構想を解説。その上でこの軍事同盟結成が現実的なものであるか否かを考察しています。
安全保障の学会は侃侃諤諤の大論争に。石破茂首相がブチ上げた「アジア版NATO」実現なら日本はどうなるか
9月末に行われた自民党総裁選の結果、石破氏が勝利し、新たな日本の指導者となった。石破氏への期待について、早速行われた世論調査では50%ほどの支持率となっているが、今後の政策次第では支持率が短期間のうちに急落することも考えられよう。そして、石破氏は早々物議を醸し出す発言をした、アジア版NATOの創設だ。今日、安全保障専門家の間では大論争になっている。
中国が海洋進出を強化し、台湾への武力行使の可能性を排除せず、北朝鮮がミサイルを発射し続け、ロシアと軍事的結束を強化するなど、日本周辺の安全保障環境は厳しくなる一方だ。以前と比べ、米国も内向き化、非介入主義に徹するような姿勢も見せており、日本にとって米国をアジアに関与し続けることが至上命題となっている。このような現実を考慮すれば、30カ国が加盟するNATOのような軍事同盟を創設し、中国などに対抗することが必要だとも感じられる。
日本は中国に侵攻された他国で軍事行動を取れるのか
しかし、アジア版NATOとはどのようなものか。NATOは集団防衛体制であり、加盟国1国に対する攻撃を全加盟国に対するものと見做し、軍事手段を含むあらゆる措置で対抗することが条約に明記されている。
ウクライナがロシアの侵攻を許した背景にも、ウクライナがNATOに加盟していなかったことが強く指摘され、ロシアの脅威に直面することになったフィンランドとスウェーデンはその後NATOに加盟した。バルト3国はウクライナと同じく旧ソ連圏を形成していたが、バルト3国はNATOに加盟しており、プーチン大統領としても軍事的な侵攻は事実上できない。それほど、欧州においてNATOが持つ存在感や影響力というものは極めて大きいのだ。
これをアジアに作るとなると、それに加盟するのは米国、米国の同盟国である日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンなどとなる。しかし、NATOは相互防衛を前提とし、集団的自衛権の行使に制限を加えないが、日本の集団的自衛権の行使は極めて制限されたものであり、現実的な話ではないが、仮にオーストラリアやフィリピンが中国に侵攻されたとしても、日本はそこで集団的自衛権の行使として軍事行動を取れるわけではない。
韓国が侵攻されたとしても、自衛隊が集団的自衛権の行使として朝鮮半島に渡って北朝鮮を抑える軍事行動に出れば、日本に植民地化された時代を思い出し、多くの韓国人がそれに強く反発することは想像に難くない。