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国民民主・玉木代表が「自公国」連立政権の夢を見ない最大の理由。衆院選で示された「日本の民意」はどこにあるか?

衆院選で躍進した国民民主党の動向が注目されている。自民・公明が15年ぶりに過半数割れとなる中、玉木雄一郎代表は政策ごとに是々非々で与党と連携していきたい考えを示した。石破政権の継続を容認する玉木代表が、一方で「自公(維)国」などの連立工作に後ろ向きなのはなぜだろうか?公約に掲げた経済政策の実現を急ぐため、というのが表向きの説明だが、「連立の誘いに乗りたくない」本当の理由は他にもあるに違いない。米国在住作家の冷泉彰彦氏が詳しく解説する。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日本の民意はどこにあるのか?

衆院選で示された「民意のありか」

本稿の時点では、日本の総選挙は全て開票されて衆議院の全議席が決定しています。

その一方で、アメリカの総選挙(ジェネラル・エレクション)の投票まではちょうど1週間となっています。投票は11月5日の火曜日で、大統領に加えて上院の3分の1、下院の全議席、一部の州知事の選挙が行われます。

ちなみに、日本の総選挙については、NYタイムスをはじめとしたアメリカのメディアは「安定が売り物だった日本政界が流動化」とか「カオス状態に」といった表面的な報道をしています。現象面だけを見るのであれば、確かに政権与党が過半数を取れず、安定的な連立の組み換えも難しいというのは、カオスということになるでしょう。

ですが、とりあえず日本の総選挙に関しては結果が出たわけです。その結果の背景には民意があります。その民意を受けていくのであれば、政局の方向はある程度は見えてくるのだと思います。また、アメリカの選挙についても、民意というものがあり、これを受けて結果が出ることになるでしょう。

それはともかく、日本の選挙結果はやはり衝撃的です。

以降は、数字をベースにしてはいますが、多くの仮説で成り立っています。同じ数字であっても、別の見方は十分にありえますし、ある数字に別の事実をすり合わせて見るのであれば、全く異なった像が浮かぶこともあります。あくまで、そうした議論や作業のための仮説としてお使いいただければと思います。

なぜ?低投票率でも自民・公明・共産が惨敗

まず、興味深いのは低投票率であったという事実です。総務省が28日に公表した速報値では、今回は約53.8%だそうです。3年前の岸田政権スタート時の衆院選(55.9%)と比べると、約2.1ポイント下回っています。小選挙区を中選挙区時代と通算しても、戦後3番目に低い水準ということでした。

ここから読み取れるのは、まず組織票が効かなくなっているということです。昭和の昔から、雨や雪などで投票率が下がると勝つのは組織票で、共産、公明、自民が強くなると言われていました。共産党は党組織の締め付けがあり、公明は創価学会の締め付け、自民党の場合は宗教や団体、会社ぐるみの投票といった票があり、「浮動票が消える」と、このような組織票が浮上するという考え方です。

ですが、今回はまったく真逆の結果となりました。低投票率であるのに、公明、共産、自民の3政党が惨敗したからです。これに関しては、いくつかの仮説が立てられると思います。

組織票の弱体化と「一つの時代の終わり」

まず、学会だけでなく、宗教票一般の動きが止まったということです。これには、政治の好きな明治以降の新宗教が団塊世代の退出により組織力が消えていったということがあると思います。

また、昔から懸念されていた、選挙の立会人が実は「組織票の出欠チェック」をやっていたという疑惑が、ここへ来て団塊世代の退場によりなくなったということもありそうです。

さらに、旧統一教会の問題によって、ネットでの暴露等を恐れた候補が、他宗教の介入についても積極的に求めなかったということもあるのかもしれません。

共産党の場合は、はっきりと組織力が落ちているのと、さすがに委員長を公選できなかったということで、体質の古さが暴露されてしまったということもありそうです。とにかく議席数でも、れいわに負けるというのは、一つの時代の終わりということでしょう。

自民党の場合は、団体票、宗教票との癒着が弱くなったのだと思います。一般論として、小選挙区制で組織票が分断されている――つまり、企業や宗教を動員するには小選挙区は小さすぎる――ということがあると思います。また、小選挙区で組織票を動かそうとすると目立ってしまい、ネットでの暴露などで浮動票が「ドン引き」になるという問題もあるように思います。

その結果として、安倍・岸田政権で安定していた「変化を望まない」浮動票を大量に集めて勝つという「新しい自民党の勝利の方程式」が、今回はほぼ吹っ飛んだ中では、惨敗しかなかったのだと思います。

全般的な「中道化」から生じる新たな懸念

もう一つは、全体的に中道に寄せてきたという傾向です。共産党は惨敗し、一部には期待する向きのあった保守党も大した成果はありませんでした。また、これは政治力学的なものが大きいですが、自民党内でも残って議席を守った議員の平均値ということでは、中道に寄せていると思います。立憲も野田代表に変わっての中道シフトが成功した格好です。

では、こうした動きが政治に安定した中道路線をもたらすのかというと、必ずしもそうではありません。大きな懸念が2つあります。

迂闊に自公と連立しても参院選挙で損をするだけ

1つ目の懸念は「連立工作」に関するものです。事前の予想などでは、仮に自民と公明が過半数を「少しだけ」割り込んだ場合には、国民民主を引き入れて玉木首班、もしくは複数の閣僚ポストなどを条件に連立を組むという考え方がありました。

この問題については、玉木雄一郎氏などは「連立の誘いには乗らない」としていましたが、こうした発言はあくまで独立した公党として選挙を戦う上での「建前」だと思われていたのです。

ですが、現時点では玉木氏は簡単に連立工作には乗らないという態度を示しています。これには、自分たちを「高く売り込む」という思惑も感じますが、必ずしもそうとは言えません。

そこには特殊なカレンダーの魔力が作用しています。来年、2025年の7月には参院選があります。すでに投票日まで1年を切るどころか、9ヶ月しかないのです。つまり、今回の衆院選が終わったということは、同時に参院選の号砲が鳴ったということです。

仮に、ここでフルの連立を組むとなると、例えば国民民主が自公と連立した場合には、今回の公明と同じように「自民党と一緒だ」という見方をされることになります。昔の感覚ですと、2025年7月になれば裏金スキャンダルを有権者は忘れてくれるという感じもあります。ですが、今の有権者はネット上に残るネガティブ情報については、延々と記憶するという性質があります。

例えばですが、少し複雑な概念、例えば希望の党の排除の論理などという話になると、世論はほとんど覚えていません。ですが、小渕優子氏の「ドリル」事件などになると、経産相を辞任したのが2014年の10月ですから、もう丸10年になりますが、ネットの世界はいつまでも記憶しています。

そんな中で、フルの連立を組むというのは、候補者調整もするし、選挙運動も協力することになります。仮に、玉木氏が総理ないし、副総理格で入閣しているとなると、2025年7月の参院選で「出戻りの萩生田氏」と一緒に参院の候補を応援しなくてはならないということになります。これは玉木氏にとっては悪夢でしかありません。

維新も自公と組むなら「パートタイム」が条件に

同じように、維新の会にしても、せっかく大阪府内で小選挙区を「全勝」したのに、仮に自公との連立に入ると、その選挙区のいくつかは自公に渡すというようなことになります。これはできないし、結局は「裏金議員と同じ釜の飯」という見方をされると、党勢が削がれることになります。

現在、本格的なフルタイムの連立工作が進捗せず、パートタイム的な連立が模索されている背景には、そのような構造的・制度的な問題があると理解できます。

パートタイムというのは、まず首班指名の決選投票で何らかの(相手の名前に入れるか、棄権するか)協力を行い、政権発足後は法案だけでなく、予算や条約も含む院内の採決に対して是々非々で臨む、ということです。

閣僚を入れてしまうとフルタイムとなり、参院選での選挙協力が必須になるので、あくまでパートタイムで党の独立性を確保するという話です。どうも、本日ただいまの連立工作はそのような流れになっていると考えられます。

例えばですが、大阪の辻元清美氏が、裏工作をして野田首班の工作に維新を引き込むなどと言っているのも、同じメカニズムです。

立憲と維新は政策が違いすぎるので、フルタイムの連立はできないが、アンチ自公の連立をパートタイムでやるのであれば、何かしら可能性があるのではないか、という話です。

現時点では、立憲(148)に維新(38)を足すと186になります。ここに国民(28)を引き込むと214まできます。首班指名の決選投票で、仮に衆院465議席の中で38名の欠席と棄権が出ると214で首班が取れてしまうのです。

完全な野党でいるのがいいのか、パートタイム連立で政策には是々非々で影響力を行使するのがいいのか。維新にとっては憎い自公を「完全に下野させる」というのは痛快かもしれません。

実際どうなるかは分かりませんが、ともかく現在、パートタイム連立が真剣に模索されている背景には、こうした力学があるわけです。

ほぼ確実に政治的不安定をもたらす「パートタイム連立」

ただ、どう考えてもこのパートタイム連立は、政治的な不安定をもたらします。そして、新政権が崩壊するのであれば、そのトリガーを引くのは連立のパートナーになる可能性が高いわけです。

仮に連立が順調に進んで、政策も最適解で進んで経済も堅調、外交関係も改善できて内閣支持率が上昇という場合も、そうなると多数党の支持率も回復してしまうので、連立のパートナーとしては埋没リスクが高くなります。

ただ、その可能性については組み合わせによると思います。例えば、自公に対して国民民主がパートタイムで連立した場合に、石破が続投し、これを公明と玉木が支え、国民民主も支持するとします。そんな中で、内閣支持率が上昇するのは、玉木氏にはメリットが薄いのです。反対に、立憲の野田首班を維新が支えるのは、自公を叩きのめすというメリットがあるのかもしれません。

国民民主の場合は、例えば「自社さ政権」の村山首班のように、玉木氏が自分で総理になる可能性もあります。ですが、仮にそうなっても、与党連合の中で国民民主という政党は埋没します。

唯一、合理的な選択肢としては、自民党を解体して、新たな穏健保守の大政党に改組し、そこで玉木氏が大派閥の長になって政権を継続するような政界再編のアイディアがあります。ですが、その場合は国民民主の他の議員たちとしては、経歴の薄すぎることが災いして大組織の中では埋没してしまいます。

玉木氏がここ数日、非常に苦慮しているのはこの問題があると思います。とにかく日本の国力維持ということでは、政治を安定させなくてはなりませんが、当面はこれは難しいと言えます。

参院選があまりにも近い中では、フル連立もパート連立も、地獄への道になりかねません。今回の「アンチ自公」選挙で野党としての「おいしい」受け皿の果実を味わった政党、特に維新と国民民主にとっては、非常に選択の難しい状況があると思います。

もう1つの懸念は「日本の民意」と現実との乖離

2つ目の懸念は「民意の平均値」に関するものです。今回の選挙結果をみると中道に寄せたというのは言えます。ですが、完全にプラマイゼロのど真ん中に来たのかというと、必ずしもそうではありません。

今回の民意の平均値としては、漠然としたものではありますが、次のような感触を感じます。

「雇用規制の緩和、DXなどの改革にはやや懐疑的

「防衛費増額、憲法改正、辺野古建設、アジア冷戦の緊迫化にも懐疑的

「原発再稼働を含むエネルギー多様化にも懐疑的

積極的に反対とまでは行かないものの、この3点については、どうも民意の平均値はこのような懐疑的な部分にあるようです。しかし、ではこのような、つまり立憲の野田派のポジションあたりに平均値があるので、そこを採用すれば国の舵取りが上手くいくのか?というと、残念ながらそうではありません。

雇用規制は緩和しないと、人手不足の中で雇用と経済成長のミスマッチは解消しないし、DXも含めた生産性向上をしなければ全員が不幸になります。中国は、簡単に穏健外交に転じるとは考えられません。そんな中で、バランス・オブ・パワーを軽視しすぎると全員が不幸になります。エネルギーの不足と不安定が続けば、鉄も半導体も作れなくなります。

ですが、民意の中間値が中道に少し寄りすぎているにしても、現実との乖離に関しては逃げられないのですから、「何とかなる」という考えもできます。さらには「是々非々の議論の可能性が拡大する」のなら、最終的には着地すべきところに行くのではという考え方もあります。

安倍政権がのらりくらりと改革を避けて時間を空費した時期、民主党がトンチンカンな政治をしていた時期のことを思うと、もう少し建設的な時間が来るのかもしれません。

是々非々の部分的連携、一度はやってみる価値あり?

政策ということでは希望もあります。地方における票の出方が、完全に「バラマキ期待」を卒業したという感触です。

昭和から平成にかけては、保守のバラマキと左のバラマキが地方票を奪い合っていましたが、今回の票の出方については、少し違うものを感じます。有権者の世代が一巡したことも大きいのだと思いますが、希望を感じるのは事実です。

仮に、あくまで仮にですが(連立ではなく政策ごとに部分的に協力する)パーシャル連合をやって、それこそ首班指名も単純過半数は集められずに、棄権・欠席でハードルを下げて内閣が発足する、以降もパートナーは是々非々で政策に乗っていくという可能性は現時点ではあります。

では、本当にこれができるのかというと、それはやってみないと分かりません。分からないのですが、1990年前後の決定的な競争力喪失以来、30年以上、政策は「外し続け」てきたのですから、とにかく「やってみる」価値はあるのかもしれません。

憲法は衆院選から30日以内に首班指名をせよと言っています。反対に言えば30日あるのです。この期間には米大統領選もあります。数週間の空転はあるかもしれませんが、とりあえず石破内閣はあり、衆参両院はある中で、とにかく当面は国家が回っていく選択を模索することになります。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年10月29日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「アメリカ大統領選、最後の戦い」「NYでは『歩行者』はどうしたら良いのか?」もすぐ読めます

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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