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AIIB事変で世界が一変。ウクライナ訪問で問われる安倍外交の真価

日本の総理として初めてウクライナを訪問、ポロシェンコ大統領と会談する方針を固めた安倍晋三氏ですが…、国際関係アナリストの北野幸伯さんは無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』に、ご自身の分析に基づいた「会談の際に注意するべき点とその理由」について書いています。

ウクライナに行く安倍総理に伝えたいこと

安倍総理、ウクライナに行かれるのですね。

<安倍首相>G7前、6月5、6日にウクライナ訪問へ

 

安倍晋三首相は6月5、6日の日程でウクライナを訪問し、ポロシェンコ大統領と会談する方針を固めた。政府関係者が26日、明らかにした。日本の首相がウクライナを訪問するのは初めて。

 

首相は続いて7、8日にドイツで開かれる主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)に出席する予定だ。

 

ウクライナとの首脳会談では、ウクライナ問題について、欧米各国と連携する姿勢を強調し、平和的・外交的解決に向けて積極的な役割を果たす意向を伝えると見られる。

今回は、この件について考えてみましょう。

激変するウクライナ情勢

ウクライナ情勢ですが、数か月前と今では、全然違うことになっています。安倍総理は、ウクライナに行かれる前に、その変化について知っておくことが大事です。

簡単におさらいしてみましょう。

2014年2月、親ロ・ヤヌコビッチ大統領がロシアに亡命。ウクライナに、親欧米・反ロシア新政権ができました。

2014年3月、ロシアは、クリミアを併合。これで、アメリカは、日本と欧州を巻き込んで「経済制裁」をかすことにしました。制裁内容は、ドンドン強化されていきます。

2014年4月、ロシア系住民の多いウクライナ東部(ドネツク、ルガンスク州)が独立を宣言。ウクライナ新政府はこれを認めず、内戦が勃発します。

2014年5月、大統領選挙でポロシェンコが勝利。

2014年6月、ポロシェンコが大統領に就任。しかし、内戦はつづく。

2014年9月、ウクライナと東部親ロシア派は停戦に合意(=ミンスク合意)。しかし、この停戦合意は、長続きせず、実質内戦状態がつづく

2015年2月、今度は、プーチン・ロシア大統領、メルケル・ドイツ首相、オランド・フランス大統領、ポロシェンコによる2度目の停戦合意(=ミンスク2)。ミンスク2は、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランス首脳による合意であり、ミンスク1よりも強い。

そして、なんやかんやとウクライナの平和は維持されている。

「最近、ウクライナの話聞かないよね~~~~」
「最近、プーチンの話聞かないよね~~~~」

というのは、そういうことなのです。

>>次ページ ウクライナ革命の「黒幕」とは?

好戦的だった「黒幕」アメリカ

事実だけを列挙してきました。しかし、とても重要な件をまだ書いていません。

2014年2月のウクライナ革命は、アメリカの支援によって実現した。

「トンデモ、トンデモ、トンデモ~~~~!!!」

そんな大合唱が聞こえてきます。しかし、これ、オバマ自身が認めていることなのです。

「ロシアの声」2015年2月3日から転載。

昨年2月ウクライナの首都キエフで起きたクーデターの内幕について、オバマ大統領がついに真実を口にした。

 

恐らく、もう恥じる事は何もないと考える時期が来たのだろう。

 

CNNのインタビューの中で、オバマ大統領は「米国は、ウクライナにおける権力の移行をやり遂げた」と認めた。

 

別の言い方をすれば、彼は、ウクライナを極めて困難な状況に導き、多くの犠牲者を生んだ昨年2月の国家クーデターが、米国が直接、組織的技術的に関与した中で実行された事を確認したわけである。

 

これによりオバマ大統領は、今までなされた米国の政治家や外交官の全ての発言、声明を否定した形になった。

 

これまで所謂「ユーロマイダン」は、汚職に満ちたヤヌコヴィチ体制に反対する幅広い一般大衆の抗議行動を基盤とした、ウクライナ内部から生まれたものだと美しく説明されてきたからだ。

 

米国務省のヌーランド報道官は、すでに1年前「米国は、ウクライナにおける民主主義発展のため50億ドル出した」と述べている。

オバマさんが話している映像はこちら。

つまり、2013年11月からはじまったウクライナのデモ、014年2月の革命、その後の内戦は、「ウクライナ政府と東部親ロシア派の戦い」であると同時に、明らかにアメリカとロシアの「代理戦争」なのです。

しかし、ロシア側は、「クリミア」をゲットして満足。制裁で、経済が相当苦しい状況になっている。だから、「和解したい」と思っていた。

しかし、ロシアを「主敵」とみなすアメリカは、「和解」に反対だった。

2015年2月の「ミンスク2」の際も、アメリカは「ウクライナに殺傷能力のある武器をドンドン送る!」などと宣言し、さらなる戦争をあおっていたのです。

>>次ページ そんなアメリカを変えた「大事件」とは?

アメリカを変えた「大事件」

ところが、2015年3月、アメリカの政策を変更させる大事件が起こります。

それが、「AIIB事件」。

イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、イスラエル、韓国などなどが、アメリカの制止を無視して、中国主導の「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)参加を決めた。

「日本以外の親米国家が、俺(アメリカ)の命令を無視して、中国のいうことを聞いた」

このことは大げさではなく、「歴史的大事件」でした。「AIIB事件前」まで、アメリカの主敵はロシアだった。しかし、「AIIB事件後」、アメリカの主敵は中国になったのです。それで、最近アメリカと中国は、南シナ海の埋め立て問題で激しくやりあって
いる。

そして、アメリカは、中国との戦いに集中するためにロシアとの和解に動きました。

アメリカのケリー国務長官が5月12日、ソチにやってきた。

露訪問の米国務長官、ウクライナ停戦履行なら「制裁解除あり得る」

 

米国のジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は12日、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領とセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相とそれぞれ4時間、合わせて8時間に及ぶ会談を行った。

 

その後ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。

引用部分は短いですが、とても重要な内容を含んでいます。

まず、ケリーさんがロシアに来るのは、「クリミア併合後」はじめてである。日韓のことを考えればわかりますが、両国関係が悪いと、なかなか訪問になりません。

ケリーさんがやってきた

それだけでも、まず大事件です。

次に、ケリーさんは、プーチンと4時間会談。ラブロフ外相と4時間会談。テーマは、シリア、イラン、ウクライナだったとか。

それにしても、プーチンと4時間。「悪魔」「ヒトラーの生まれ変わり」と批判していた男と、何をそんなに話したのでしょうね?

これ、個人でもそうですが、仲良くしたくない相手とは、長く話さないものです。仕事でもそうでしょう?取引したくない相手には、あまりご馳走もせず、「すいません次の予定が入っておりますので」などといって、かえってもらうでしょう。

つまり、アメリカ側もロシア側も、「仲直りしたい」という意思がある。

3番目、ケリーさんは決定的なことをいいます。

ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。

制裁解除もあり得る!!」

「AIIB」前と後で、アメリカの対ロシア姿勢は明らかに変化しています。つまり、「軟化」しているのです。

4番目、この記事では触れられていませんが、ロシアのニュースでいっていました。

ケリーは、「クリミア」について一度も触れなかった

これは、要するに、「クリミアはロシア領と認めないけど、黙認ということで『手打ち』にしたい」ということではないでしょうか?

いずれにしても、「AIIB事件」でアメリカは、「主敵は中国だ!」ということを、ようやく認識したのだと思います。

アメリカはこれまで、三つの地域で問題を抱えていました。つまり

中東に関して、アメリカはイランとの和解に動き、イスラエルが怒っている。

そして、ウクライナを見捨ててロシアとの和解に動き始めた。これは、三つの戦線のうち2つをしめて、「中国との戦いに集中する」という意志の現れでしょう。

>>次ページ アメリカの「変化」でもっともひどい目にあう国は?

欧米に捨てられるポロシェンコ

「黒幕」アメリカの政策変更で、もっともひどい目にあうのがウクライナです。どういうことか?

鳩山さん-小沢さんは、中国と大の仲良しでした。それで、アメリカとの仲は最悪になった。

アメリカはいま、中国に対抗するためにロシアと和解したい。てことは、アメリカは、相対的にウクライナに冷たくなる。そういうことなのです。

実際、アメリカ政府の資金で運営されている「ラジオ・リバティー」は、「ポロシェンコの汚職」(特に不正で大規模な土地取得)を報じています。

どんな政治家でも、つついたらいろいろ出てくるものです。しかし、その「ネガティブ情報」を使うかどうかは、「彼がアメリカにとって有益かどうか?」で決まる。

アメリカ政府の資金で運営されている「ラジオ・リバティ」から「英雄」ポロシェンコの汚職情報が出てきた。これは、「捨てられる前兆」とみて間違いないでしょう。

安倍総理のウクライナ訪問について、

ウクライナとの首脳会談では、ウクライナ問題について、欧米各国と連携する姿勢を強調し、平和的・外交的解決に向けて積極的な役割を果たす意向を伝えると見られる。

(前出・毎日新聞)

とあります。

欧米各国と連携する姿勢を強調する

これはつまり、「日本は一生懸命ウクライナを支持してますよ」とアピールしたいということでしょう?

しかし、もうそんな時代じゃありません。アメリカも、そしてそれにつづいて欧州も、ウクライナを捨てロシア側に接近しています。そのことを知らずに、「日本はウクライナを断固支持する!」と宣言すれば

「安倍は、世界情勢の変化を何も知らない」

となる。そして、「日本のトップは第2次大戦前同様、世界情勢の動きを全然把握してない」ことが世界に知られてしまいます。

>>次ページ 安倍総理の取るべき言動とは?

では、どうする?

安倍総理がキエフに行かれ、ポロシェンコ大統領に会う。すると、欧米に捨てられつつあるポロシェンコは、ロシアの悪口をさんざんいってくることでしょう。

その時、安倍総理は、熱心にその話に耳を傾けた後

「大変でしたが、ミンスク合意による平和が維持されていることをうれしく思います。これからも、平和が維持されることを、心から願っています」

などといいましょう。

もう1つ。ウクライナ、今年のGDPはマイナス17%(!)になるといわれています。それで、ポロシェンコ大統領は、「金くれ!」といってくるでしょう。総理は、「その件に関しては、これからG7サミットにいきますので、その場で協議してきます」

などといってかわしましょう。

今の世界情勢は、1930年代同様、変化が速いです。1年前はよかったことも、今は悪くなっている。1年前悪かったことも、今はよくなっている。そんなケースが多々ありますので、総理はお気をつけください。

このメルマガの内容、総理と交流のある方は、ぜひ教えてあげてください。とても大事です。

image by:wikipedia

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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