MAG2 NEWS MENU

板挟みの安倍総理。オバマ大統領が辺野古工事中断に不快感

辺野古への米軍基地移設をめぐり、沖縄県との和解に応じた安倍総理に対して、日米首脳会談の席上直々に苦言を呈したオバマ大統領。総理は「県との訴訟合戦を回避するため」と説明しましたが、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、その官邸のシナリオは成立しない公算が大きいと断言、そもそも政権の中国脅威論をベースにした辺野古強行論が多国間外交のリアリズムから取り残されていると手厳しく批判しています。

オバマが辺野古工事中断に不満を表明

3月31日ワシントンで行われた日米首脳会談で、オバマ大統領は自分の方から沖縄の辺野古基地建設の問題を持ち出して「日本政府は新基地建設が唯一の選択肢と言い続けて来たが、それならばなぜ沖縄県との和解に応じて工事を中断したのか理解しにくい。どの程度の工事の遅れを予想しているのか」と不満をぶつけた。これは安倍晋三首相にとっては予想外のことで、安倍はいささか狼狽しつつ、訴訟合戦を回避して「急がば回れ」を目指しているなどと、たぶんオバマには何の興味もない法的手続き論をくだくだと説明して理解を求めた。それに対してオバマは「支障のないようにしてほしいとクギを刺した

昨年11月にマニラでオバマと会った際には、安倍は、安保関連法制の成立を誇らしげに報告すると共に、辺野古については「辺野古が唯一の選択肢。県との裁判には必ず勝つ」との見通しを述べていたのだから、オバマが和解を「理解しにくい」と疑問を口にしたのは当然だろう。日本政府はこれを「懸念というものではなく、総理の『急がば回れという』戦略的な判断に大統領が理解を示した」と説明し、日米間に溝がないかのように装っているが、実際はそうではない。「これはむしろ『辺野古移設計画の現実性に疑念を示した』ということではないか」という2日付「琉球新報」社説の見方が真実に近く、安倍は窮地に追い込まれたのである。「沖縄タイムス」ワシントン電もオバマ発言は「安倍政権の判断力に疑念が生じている表れ」と指摘している。

「急がば回れ」は絵に描いた餅

安倍が3月4日に県との和解に応じたのは、本誌No.827で詳しく分析したように、一連の裁判で国が敗訴するリスクがあることが分かって慌てふためいたからである。しかしその時はまだ事態を甘く見ていて、取りあえず6月沖縄県議選、7月参院選が終わるまでは一時休戦とし、選挙が終われば県との再協議を形だけ行ってさっさと決裂させ、地方自治法に沿った是正要求や指示の手続きも手早く進めて再び訴訟に持ち込みつつ、それと並行して工事を再開して本格工事に着手することが可能だと考えていた。

しかしその後の法務省を含む政府部内の検討では、裁判所の和解案は本当に「和解による円満解決」を求めていて、「沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して米国に協力を求めるべきである」とまで勧告していることを、軽視すべきではないとの判断が浮上している。政府が「急がば回れ」でまた訴訟を繰り返しても、国にとって厳しい判決になる可能性があることに変わりはないのだから、政府は裁判という方法に頼らずに、沖縄の声を聞いてちゃんと米国と交渉しなさいと和解案は示唆しているわけで、そうなると県との協議をさっさと決裂させて蹴散らして進むという安倍シナリオは成り立たなくなる公算が大きい。

実際、県との協議に真面目に取り組めば、それ自体、延々と時間がかかるし、それがようやく決裂して、いろいろ手続きを踏んで再び裁判に持ち込んでも、それから高裁判決が出て、最高裁に上がって決着がつくまでには最低でも1年はかかるししかも勝訴の保証はない。さらに、この和解案が出ている中では裁判中から工事再開に踏み切ることはなかなか難しく、それでも踏み切れば県がまた差止訴訟を起こして複数の裁判が錯綜し、再度の和解案が提示されることにもなりかねない。

月刊誌『選択』4月号の「『工事中止』で辺野古を見限った米国/普天間はもう還ってこない」という記事は、安倍シナリオは「具現化するのか」と問い、「答えはノーである。この青写真は絵に描いた餅に終わる」と断言している。

こうして、オバマの任期中はもちろん、18年9月までの安倍の任期中でさえ工事が再開されない可能性も出てきた。

米大統領が代わるとどうなる?

これにさらに米国の政権交代という事情が重なる。米大統領選で仮に孤立主義者のトランプが勝つようなことになれば、日米安保体制そのものが大混乱に陥る。彼は「貧しい米国が豊かな同盟国を守ってやっているのはおかしい」という主張で、日本に対しても日米安保条約について再交渉し、今まで通りに米軍に駐留してほしいのなら費用を全額負担しろ、それがイヤなら米軍は引き上げる、後は核武装でも何でもして自分で守れ、と言ってくるだろう。核武装はご免だが、少なくとも海兵隊を日本から引き揚げさせるチャンスは生まれるのではないか。

クリントンになれば、オバマ政権の対日政策を基本的に引き継ぐだろうが、彼女を取り巻く民主党系の外交政策エスタブリッシュメントの間では、辺野古断念論や海兵隊撤退論が強まっている。アジア戦略の専門家であるジョゼフ・ナイ元国防次官補は、2年前から「普天間の辺野古移設は長期的な解決にはならない。中国のミサイル能力の向上で沖縄に部隊を集中させておくこと自体が危険だ」と主張している。またクリントン政権の国務長官になる可能性があるカート・キャンベル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)も、だいぶ前から「当初合意の96年当時と状況は大きく変わった。辺野古移設は政治的にも予算的にも、さらに環境破壊という観点からも、もはやコストが大きすぎて実状に合わない」と公言している。ナイもキャンベルも辺野古移設のSACO合意をとりまとめた米側の中心人物であり、その2人が揃って辺野古は唯一の選択肢ではないないと言い出している意味は大きい。

どちらに転んでも、米国の政権交代で辺野古建設中止海兵隊の国外撤退を交渉する余地は、今までよりも遙かに大きくなると見るべきだろう。従って、上述『選択』記事の見出しのように、辺野古断念なら普天間永久固定化と決め込む必要は全くない。オバマ政権下での米軍のアジア再配置計画は戦略論的に曖昧であるが故に、既得権益にしがみつく守旧的な軍部を押さえ込めずに中途半端で意味不明なものに陥ってきた。トランプならもちろんクリントンであっても、漠然たる「中国脅威論」に立って冷戦時代と同様の米兵力をアジア前線に張り付けておくことの意味を根本的に問い直さざるを得なくなるのは必至で、それまでの間、沖縄県民としては辺野古工事再開をストップさせたまま普天間早期返還の圧力を強めていくことが必要になる。

そうすると、安倍はますます板挟み状態となって、米国の守旧派の側に身を寄せる売国奴として辺野古建設を血を流してでも強行するのか、沖縄県民の側に立って「オールジャパン」を代表する真の日本首相として米国と再交渉するのか──の二者択一を迫られることになる

日米韓vs北朝鮮・中国?

さて、ワシントンでは3月31日、日米首脳会談に先立って2年ぶりに日米韓3国首脳会談が開かれ、北朝鮮の核・ミサイル開発を「重大な脅威」と位置づけて軍事圧力と経済制裁を強めていくことを確認した。日韓が慰安婦問題でいがみ合うのを止めて対北朝鮮で結束せよというのはオバマの安倍に対する至上命令で、安倍はそれに従わざるを得なかった。

しかし安倍の本音は日米韓の安保協力によって対北朝鮮のみならず対中国の軍事圧力を強めることにある。会談では、中国の東シナ海・南シナ海への進出についても議論され、「かなりの部分で問題意識が一致した」と外務省筋は語ったが、実態は違っていて、

  1.  韓国はそもそもからして「中国脅威論」とは無縁である
  2. 米国は南シナ海は重視するが、東シナ海問題にはさして関心がなく、ましてや尖閣の岩礁を巡って中国と戦争する気など毛頭ない
  3. ところが安倍の最大関心事は尖閣で、そこがヒートした場合に米軍に出動して貰いたいがために苦心惨憺、安保法制まで作って「米軍と肩を並べて戦う自衛隊」をアピールしたことを米国から評価してほしい

──という同床異夢状態にある。

南シナ海を巡る米中の確執は、中国が海南島を基地とする戦略原潜に米本土を攻撃可能な長距離核ミサイルを配備しつつあるのに対して、米軍が空中・洋上からのあからさまな偵察行動を展開し、それを牽制するために中国が島々の軍事建設を急いでいるという問題であって、「中国がどこまでも領土・領海を拡張しようとする膨張主義的侵略行動に出てきた」とかいう大仰な話ではない。米中関係の基調は、米ボーイング社が今年、海外初の旅客機組立工場を中国に開設することが象徴するように、濃密な経済関係をベースとした協調にあり、それはそれとして南シナ海の軍事偵察ゲームには鎬を削るという、言わば大人の関係にある。「中国が尖閣を手始めに島伝いに沖縄に攻めてくる」というような安倍の冷戦思考は米中首脳からすれば子供じみて映っている

北朝鮮に軍事圧力をかけるというのも、そう単純なことではなく、米国は表向きそのような強硬策を唱えながらも、裏では北朝鮮及び中国と「38度線の休戦協定を和平協定に置き換えるための協議を始めることを条件に、それと並行して北を核放棄の6カ国協議に復帰させる」というウルトラCについて水面下交渉を進めている(和平協議が北に核・ミサイル協議を止めさせる早道であることについては、本誌No.824参照)。

今年1月6日の北朝鮮の4回目の核実験の後……、

──が、この重要な動向をきちんと報道した日本のメディアは皆無だった。

要するに、安倍の時代遅れの中国脅威論」をベースにした辺野古強行論も尖閣防衛論も北朝鮮制裁論も、東アジア政治の表も裏もあってそのまた裏もある多国間外交のリアリズムから酷く取り残されしまっている。今回のワシントンの舞台で浮き彫りになったのはむしろそのことである。

image by: 首相官邸

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
<<無料サンプルはこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け