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中国VS米国。戦争をする気もないのに挑発する理由とは?

アメリカと中国の軍事衝突が心配される南シナ海問題。前CIA副長官らも開戦に至る可能性を示唆するなど、いつ紛争が発生してもおかしくない状況にあるような印象を持ってしまいますが…。『未来を見る! 「ヤスの備忘録」連動メルマガ』に、「アメリカによる中国挑発は、現在仕掛けているとある国の政変から世界の目をそらすため」との情報が。ウクライナの次にターゲットにされた国とは? そしてなぜアメリカはまたも政変を仕掛ける?

なぜアメリカは中国を挑発するのか

すでに日本でも大きく報道されているので周知だろうが、中国共産党機関紙である人民日報系の日刊紙「環球時報」は5月25日付で、「米中が南シナ海で軍事衝突する可能性が大きい」と題する社説を掲載した。米軍が「挑発」と「侮辱」を続けるなら、「中国軍は尊厳のために戦う」としている。

いま中国は、領有権を主張している南シナ海の南沙諸島の永暑礁(ファイアリー・クロス)で、本格的に埋め立て作業を行っている。滑走路なども完成間近の状態だ。中国のこうした強硬な動きを米軍は監視を続けており、中国が埋め立てを続けている空域で何度も偵察機を飛行させている。メディア関係者を偵察機に搭乗させての取材も行った。

南沙諸島の領有権を強く主張している中国は、米軍機の監視行動を「領空侵犯」として認識しており、強く反応している。中国政府外交部は、「無線警告で米軍機を追い払った」と主張。米軍を「極めて無責任で危険な『領空侵犯』」、「国際法を順守し、挑発的な行動を控えよ」などと非難した。

さらに「環球時報」社説では、中国としては「譲れない最低ライン」は埋め立て工事の完成であり、「もし、米国の譲れない最低ラインが中国の埋め立て工事の停止であるならば、米中の南シナ海における一戦は不可避」であるとし、「中国軍は尊厳のために戦う」と主張した。

マイケル・モレル前CIA副長官の発言

中国のこうした対応に対して、米政府の高官などから発言が相次いでいる。そのひとつは、前CIA副長官のマイケル・モレル氏の発言だ。

モレル氏は「中国の南シナ海での埋め立て行為が、米国の盟友に緊張を与えている。このようなにらみ合いは、中国と米国の未来に『絶対的』な開戦リスクをもたらす」と語った。

さらに、モレル氏は「中国の勢いが続けば、中国と米国は開戦に至るだろう。米国が譲るのか? 彼らが進撃してくるのか? 次期大統領が直面することになる重要な問題だ」と指摘した。

ジョージ・ソロス氏の発言

このような発言を聞くと中国とアメリカが一触即発の危機に向かって進んでいるように見えるかもしれない。そのようななか、注目されているのが世界的な投資家のジョージ・ソロス氏の発言だ。

ソロス氏によれば、中国が輸出でなく内需に経済の主軸を移したとき、中国とアメリカの衝突による第3次世界大戦のシナリオは現実のものとなるとしている。そして、次のように言う。

「米国の軍事同盟諸国、たとえば日本と中国との間に紛争が発生したとすれば、第三次世界大戦が始まるといっても、過言ではないだろう」

この最悪のシナリオを回避するためには、米国がなすべきことは、中国に対する「大幅な譲歩」であるとしている。人民元にIMFの通貨バスケットの一部となることを許し、ドルの強力なライバルとなる国際通貨にして行くことだとしている。

最後に、中国がロシアと政治的、軍事的同盟を結ぶのであれば、そのとき新たな世界大戦は現実のものとなるとソロスは言う。

>>次ページ もはや軍事衝突は避けられないのか?

発言の意図と「オープンソサエティ協会」

こうした発言を聞いていると、中国とアメリカの軍事衝突がいまにも始まりそうな印象を持ってしまうが、こうした発言を行っているのはCIAの高官やジョージ・ソロスという世界の混乱を仕掛ける側の人間の発言だということだ。米中戦争のよる第3次世界大戦の危機を警告する背後には、まったく別な意図が隠されていると見た方がよい。

ジョージ・ソロスだが、早くも1960年代にジム・ロジャースとともにヘッジファンドの「クオンタム・ファンド」を立ち上げ、世界を席巻した投資家というだけではない。「オープンソサイティー協会」のようなNGOを立ち上げ、自由で開かれた社会を目指す政治活動家でもある。

「オープンソサイティー協会」は政権を転覆する市民運動を米国務省とともに仕掛け、数々の革命を引き起こしてきた組織である。2000年から2006年まで中央アジアの親ロシア派の政権を打倒し、親欧米派の政権を打ち立てた「カラー革命」には青年を抗議運動にリクルートし、トレーニングしていたのがジョージ・ソロスの「オープンソサイティー協会」だったことはあまりに広く知られている。

「オープンソサイティー協会」は、いわば米国務省の工作機関である。そのような組織を運営している人物は、客観的な観測の結果として米中衝突による第三次世界大戦の発生を警告するとは到底考えられない。警告の背後には別な意図があると考えてしかるべきだ。

また、米国務省や「オープンソサイティー協会」と協力して工作にかかわっているのはCIAである。その前副長官が米中の衝突と第三次世界大戦を警告しているのである。もちろん、背後になんらかの意図があることは間違いない。

本当の標的はマケドニア

「オープンソサイティー協会」がいまどのような活動を行っているのか調べると、意外な国の政権転覆を計画しているとの情報が大量に出てきた。その国とはバルカン半島のマケドニアである。

マケドニアは、親ロシア派のニコラ・グルエフスキ首相が政権の座にある。多くの国々がロシアと欧米とのバランスを取っているときに、マケドニアはロシア支持の姿勢を明白にしている。

そのようなグルエフ政権だが、今年の2月、野党によって大統領や首相の盗聴された電話の内容が公開され、大きなスキャンダルになった。それは不正選挙の談合や野党に圧力をかける密談であった。野党が電話盗聴の高度な技術を持っているとは考えにくいので、アメリカやドイツの諜報機関が与えた情報だとも言われている。野党はEUとNATOの加盟を目指す親欧米派である。スキャンダルの公開以来、首都では政府支持と反政府の市民が対立する緊張した状態が続いている。

また5月18日には野党のクーデターの計画が発覚し、緊張はさらに高まっている。

だが、それだけではない。マケドニアの30%の国民はアルバニア系である。野党の最大の支持母体になっているのはこのアルバニア系住民であり、アルバニア人居住地域を隣国のアルバニアに併合する「大アルバニア主義」を唱えている。これを支援するために隣国のコソボから「KLA」という武装集団がマケドニアに侵入し、マケドニア警察と銃撃戦にもなっている。

このような複雑な状況だが、親ロシア派のニコラ・グルエフスキ政権の打倒を強く支援しているのが、ジョージ・ソロスの「オープンソサエティ協会」なのだ。これは、ウクライナやグルジアなどの親ロシア派の政権を打倒した「カラー革命」、そして2014年2月に起こりいまでも続いている「ウクライナ政変」とまったく同じ構図である。

さらに多くの記事によると、「ウクライナ政変」を実質的に画策した米国務省でネオコンのヴィクトリア・ヌーランドのチームもすでにマケドニアに入り、「オープンソサエティ協会」と協力しながら、反政府運動を画策している。マケドニアのウクライナ化だ。

>>次ページ マケドニア政変を画策するアメリカの真の狙いとは?

「シルクロード経済圏構想」と中露同盟を潰す

これはまだ日本ではほとんど報道されていない。しかしこれは、アメリカが「シルクロード経済圏構想」と中露同盟を潰すための壮大な戦略の一部なのである。

中国が立ち上げた「シルクロード経済圏構想」は壮大だ。この構想は「一帯一路」と言って、中国の貿易ルートとなる海路を整備すると同時に、発展の遅れた中国の内陸部とヨーロッパを中央アジアを経由して鉄道網で結ぶという計画だ。

中国政府は発展の遅れた中国の内陸部を開発し、この地域を産業の新たな拠点にする計画を促進し、膨大なインフラ投資を続けている。でも内陸部は、中国の貿易ルートである沿岸部から距離があるため輸送コストがかかる。この問題を解決しない限り、内陸部の発展は難しいのが現状だ。

これの切り札となるのが「シルクロード経済圏構想」だ。中国の最大の市場であるヨーロッパと内陸部を鉄道網で結ぶ壮大な計画だ。中国と、カザフスタンなどの中央アジア、そしてドイツやスペインとヨーロッパ諸国、さらにはロシアやトルコまで包含する構想だ。この構想で、ヨーロッパ、ロシア、トルコ、中央アジア、中国などのユーラシア全土がひとつの経済圏として結ばれる可能性が出てくる。これからユーラシアが、世界経済の成長をけん引する地域になることは間違いない。

アメリカとEUの排除を目指すロシア

この構想は中国だけのものではない。かねてからロシア、カザフスタン、ベラルーシ、タジキスタンなどの中央アジア諸国との経済同盟である「ユーラシア連合」を構築しつつあるロシアの協力もあって、実現に向けて進んでいる。ロシアは東シベリアの天然ガスをパイプラインで中国に輸出する計画を締結した。

また、「ユーラシア連合」に加盟しているカザフスタンは、「シルクロード経済圏構想」における鉄道網の重要なハブ(中心)でもある。ロシアが主導する「ユーラシア連合」と中国の「シルクロード経済圏構想」は融合しつつある。本格的な中露同盟の出現だ。

一方ロシアの目標は、旧ソビエト帝国の影響力の回復だ。ロシアは、エネルギー大国といってもその経済力は限られている。ロシア単独ではこの目標を実現することは困難だ。そこでロシアは中国と同盟して、中国の経済圏拡大に協力しながら、ユーラシアにおけるロシアの政治的な勢力圏の拡大を模索している。

中国との同盟がロシアの勢力圏拡大につながる理由は、ユーラシアからアメリカやEUの影響力を完全に排除することができるからだ。ロシアにとって最大の宿敵は、アメリカとそれが主導する軍事同盟のNATO(北大西洋条約機構)だ。ドイツの東にはNATOを拡大させないという1991年の約束をアメリカは反故にして、NATOをバルト海3国などの旧ソビエトの共和国まで拡大し、ロシアの喉元に迫っている。グルジアなどもNATO加盟を希望しており、NATOの拡大は続いている。

また、EUに加盟を希望する旧ソビエトの共和国も多く、ロシアの経済圏を侵食しつつある。

これらのことは、ロシアにとって極めて大きな脅威だ。この脅威に対抗するためには、ロシアは中国と同盟して、中国が主導する経済圏構想や軍事同盟に積極的に協力することで、アメリカとEUの影響力の排除を目標にしている。要するにロシアは、中国の力を借りて、ユーラシアにおけるアメリカとEUの影響力の排除を進めているということだ。

>>中国・ロシアの動きにアメリカは?

「シルクロード経済圏構想」とターキッシュ・ストリーム

もし「シルクロード経済圏構想」と中露同盟が進むならば、アメリカとEUの影響力が及ばない一大ユーラシア経済圏が誕生することになる。

では、マケドニアはこうした流れではどこに位置しているのだろうか? 実はマケドニアはこの構想の要衝に位置しているのだ。

周知のように「シルクロード経済圏構想」の要になるのは、中国内陸部から中央アジアやバルカン半島を経由して、中国の最大の消費市場であるヨーロッパへの鉄道網の整備である。最近中国は、ギリシャのアテネにあるピレウス港の3分の2を買収し、ピレウス港からマケドニア、そしてセルビアを経由してハンガリーへと連結するバルカンと東ヨーロッパを結ぶ鉄道網を整備している。マケドニアはこの構想の中心にある。

さらに、マケドニアが重要なのは「シルクロード経済圏構想」だけではない。ロシアがヨーロッパに天然ガスを送るパイプラインは現在関係が悪化しているウクライナを通過している。これを嫌ったロシアは、ウクライナを経由しない「サウス・ストリーム」というパイプラインの付設を行っていた。だが、欧米の圧力による経済制裁にパイプラインの通過国が加担したため、2014年12月、「サウス・ストリーム」の計画を中止した。

代わりにロシアは、ロシアから黒海を経由し、トルコを通過してヨーロッパに至る「ターキッシュ・ストリーム」を建設している。「ターキッシュ・ストリーム」は、トルコ、ギリシャ、マケドニア、セルビア、そしてハンガリーを通過するパイプラインだ。中国の「シルクロード経済圏構想」の鉄道網と同じ地域に「ターキッシュ・ストリーム」は付設される。

欧米の影響力を排除した新秩序

このようにマケドニアは、中国の「シルクロード経済圏構想」でもロシアの「ターキッシュ・ストリーム」でも、地政学的に重要な要衝になる。マケドニアの親ロシア派の政権の元で政情が安定すると、マケドニアを中心としたバルカン半島は、アメリカの影響力が及ばない中露同盟の新しい秩序の元で大発展する可能性が極めて高い。この地域、ならびにユーラシア全域からアメリカとEUに影響力は排除される。

マケドニアを不安定にし、構想を潰すアメリカ

さて、このような状況を見ると、「ウクライナ政変」を仕掛けたヴィクトリア・ヌーランドや、「カラー革命」を仕掛けたジョージ・ソロスの「オープンソサイティー協会」などがなぜいまマケドニアに入っているのかがよく分かる。

つまり、マケドニアに政変を仕掛け、EUとNATO加盟を希望する親欧米派の政権を樹立し、中露同盟による新しい秩序の形成をたたき潰すことが目的だ。

中国の挑発はブラフ

マケドニアの政変は、まだ日本ではまともに報道されていない。南沙諸島における中国とアメリカの対立が注目を集めている。ジョーズ・ソロスやCIAの元高官など、まさにマケドニアの政変を仕掛けている当事者が、中国とアメリカの軍事衝突の可能性を示唆し、第三次世界大戦を警告しているのである。

こうした文脈から判断すると、アメリカが中国と本格的に軍事対立する意図はないと見てよい。南沙諸島で強硬に出ている中国を挑発しながら、中国や国際社会の関心を中国に集中させ、その間にマケドニアで政変を仕掛けると見た方がよいだろう。

すると、中国への挑発とマケドニアの政変は連動していると考えた方がよい。マケドニアの政変で親ロシア派の政権が打倒され、ウクライナと同じように親欧米派の政権ができると、中国との軍事衝突の可能性を示唆するキャンペーンや、また中国に対する挑発は止むものと思われる。

image by: wikimedia commons

『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』より一部抜粋

著者/ヤス
早稲田大学卒。企業の語学研修、IT関連研修、企業関連セミナー、コンサルティング等を担当。世界の未来を、政治経済のみならず予言やスピリチュアル系など利用可能なあらゆる枠組みを使い見通しを立てる。ブログ『ヤスの備忘録』で紹介しきれない重要な情報や分析をメルマガで配信。
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