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安倍首相は「中国」連呼。G7エルマウサミットは成功だったのか?

中国の南シナ海埋め立てに対して「強い反対」等を表明し閉幕したG7エルマウサミット。はたしてこの首脳会談は日本にとって「成功」だったのでしょうか。国際関係アナリストの北野幸伯さんは無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』でその内容と参加各国の「本音」を詳細に分析しています。

G7エルマウサミットは成功だったのか?

皆さんご存知のように、ドイツのエルマウで6月7~8日、G7首脳会議が行われました。注目すべき点は、なんだったのか?

そう、「AIIB事件後、はじめてのG7首脳会議だったこと」です。

なぜ?

G7参加国は、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ。2013年まではロシアもいて、「G8」だった。ところが、「クリミア併合」で、ロシアはG8から「追放」され、今は、G7に戻った

このG7、冷戦時代は、「アメリカを中心とする西側世界の運営」を協議する場でした。冷戦終結後は、「アメリカを中心とする世界の運営」を協議する場になった。

ところが、アメリカのパワーは徐々に衰えている。ロシアでは、08年のリーマンショックで、「アメリカの一極世界は崩壊した」といわれています。つまり、ロシアの歴史観では、「08年以前と以降」は「別の時代」なのです(たとえば、冷戦時代、ポスト冷戦時代のように)。

そして、世界の運営については、G8(今はG7)より、G20のほうが重要になってしまった。

そんな背景があって、影響力の衰えているG7。しかも、現在は、さらに深刻な問題を抱えています。

それが、例の「AIIB事件」。

G7=7カ国のうち、4カ国、つまりイギリス、フランス、ドイツ、イタリアは、アメリカの制止を無視して、中国主導の「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)への参加を決めた。その他、イスラエル、オーストラリア、韓国なども、アメリカの命令を無視してAIIB参加を決めた。アメリカはこれで、「自国の影響力低下」と「中国の影響力増大」をはっきり認識した。それで、2013年からはじまっていた中国による「南シナ海埋め立て問題」を、大々的に非難しはじめ、米中関係が悪化していった。

とまあ、こういう流れなわけです。

オバマさん、「裏切り者たち」と顔をあわせる気分はどうだったのでしょうか?

>>次ページ 各国が日米に同調せざるを得なかった理由とは?

G7は、中国による「埋め立て」に「強く反対」する

「南シナ海埋め立て問題」(=対中国問題)
「ウクライナ問題」(=対ロシア問題)
「イスラム国問題」

など、いろいろ重要テーマはある。

「AIIB事件前」、もっとも重要なのは「ウクライナ問題」でした。しかし、「AIIB事件後」、もっとも重要なのは「南シナ海問題」になっている。もちろん、自国の覇権を守りたいアメリカ、自国領(尖閣、沖縄)を守りたい日本にとってです。

そして、G7は、中国の埋め立てに「強く反対する」ことで一致しました。

独エルマウサミット 南シナ海埋め立て 日米の危機感に欧州無視できず

 

産経新聞 6月8日(月)10時36分配信

 

【エルマウ=桑原雄尚】中国による南シナ海の岩礁埋め立てについて、先進7カ国(G7)の首脳が4月の外相会合での「懸念」表明よりもさらに踏み込み、「強い反対」を訴えた背景には、安倍晋三首相とオバマ米大統領の危機感があった。

日本とアメリカが、「この決定を主導した」と。

米国は、南シナ海で急速に人工島を築き滑走路を建設する中国に対し、人工島に火砲が配備されたことを明らかにするなど、ここに来て圧力を強化。

 

反発した中国側は、軍幹部が「埋め立ては軍事目的だ」と公言し、海洋進出の野心をむき出しにし始めている。 (同上)

アメリカの態度が強硬になり、中国がそれに反発し、対立がエスカレートしている。

なぜアメリカの態度が急に強硬になったのか? 皆さんは、その「裏事情」を知っています。

こうした動きに、各国首脳に直接訴えることができるサミットを好機と捉えた安倍首相は、東シナ海や南シナ海の現状を説明。

 

中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加表明した欧州首脳も、国際法の順守といったG7共通の価値観を踏まえれば、もはや看過できる状態ではなく、中国非難で日米に足並みをそろえる方向となった。 (同上)

つまり、AIIBへの参加を決めた欧州も、「埋め立て」は「どう考えても悪いこと」なので、日米に同調せざるを得なかったと。

>>次ページ そんなヨーロッパ各国の本音は?

欧州の「本音」は、「中国と争いたくない」

とはいえ、実をいうと、欧州にとって中国による「埋め立て」問題などどうでもいいのです。

なぜ?

理由は、「距離」です。

もっというと、中国や南シナ海は、欧州から「遠すぎる」。「国益」にはいろいろありますが、「もっとも大事なことを2つ挙げろ!」と質問されたら、

となるでしょう。どっちも大事ですが、実をいうと、「安全」が「経済」より優先されることがしばしばあります。

たとえば、欧州は、「経済的利益」を犠牲にして、「対ロシア経済制裁」をしています。

では、「中国による南シナ海埋め立て」は「欧州の安全を脅かすのか?」。

答えは、「全然脅かさない」でしょう? つまり、欧州にとって、中国は「脅威でない」。だから欧州は、対中国では、「金儲け一番」なのですね。

同じ理由で、ロシアとウクライナが東欧で争っていても、正直日本には関係ない。

「遠い」から。

しかし、日本は、ロシアに制裁しています。本音をいえば、「つきあい」で制裁しているのです。

欧州も同じで、「南シナ海埋め立て問題」はどうでもいいが、日米との「つきあい」で「強く反対」している。そして、本音は、「南シナ海はどうでもいいから、中国と金儲けしたい」ということなのです。

G7が南シナ海における中国の行動にそろって反対姿勢を示したことは、習近平政権が近年、強引に進めてきた対外拡張路線そのものに「ノー」を突きつけたとも受け取れる。

 

中国外交は1989年の天安門事件後に経済制裁を受けて以来、久しぶりに厳しい状況に直面したといえる。

 

しかし、中国政府は強気の姿勢を崩していない。

 

その理由について共産党関係者は、「G7で南シナ海問題を提起したのは中国と対立する日米だけで、ほかの国々は遠く離れた場所で起きたことへの関心はほとんどなく、反対はポーズにすぎない可能性が高いからだ」と説明する。 (産経新聞 6月9日)

「G7で南シナ海問題を提起したのは中国と対立する日米だけで、ほかの国々は遠く離れた場所で起きたことへの関心はほとんどなく、反対はポーズにすぎない可能性が高い。

まさしくこれが、「G7の現状に関する正しい認識」といえるでしょう。

>>次ページ では、世界の中の日本の現状はどうなのか?

しかし、日本は正しい道を進んでいる

「世界情勢」を見るときは、「2つの視点」がとても大事です。

1つは、「世界的」に「広く見る」ことです。

2つ目は、「歴史的」に「流れを見る」ことです。

つまり、「過去はどうで、現在はどうで、未来はどうなっていく」という、方向性を見る。この2つの視点で、日本の現状を見てみましょう。

2012年9月、日本政府は、尖閣を「国有化」しました。中国政府も中国民も大激怒し、超大規模な「反日デモ」が起こった。2012年11月、中国は、モスクワで「対日戦略」を明らかにしました。

その骨子は、

(●驚愕の対日戦略、詳細はこちら。 )

この戦略にそって、中国は、全世界で大々的に「反日プロパガンダ」をしていった。

そして、2013年12月26日に、安倍総理が靖国を参拝すると、世界的大バッシングが起こったのです。安倍総理は、中国の思惑どおり、「右翼」「軍国主義者」「歴史修正主義者」とレッテルをはられ、日本はとても孤立していた。

ところが、2014年3月、ロシアがクリミアを併合したことで、日本は救われました。アメリカは、日本と欧州を巻き込んで、「対ロシア制裁」を課す必要がでてきた。

このとき、中国は、はっきりとロシア側につき、世界は、「日欧米 対 中ロ」という構図になった。これが2014年3月以降の状態。

ところが、2015年3月に「AIIB事件」が起こった。これで、欧州は、グッと中国よりになった。そして、アメリカの主敵は、もはやロシアではなく、中国になったのです。

現在、世界は、「アメリカ 対 中国」の「覇権争奪戦」を中心に動いています。日本は、はっきりとアメリカ側についている。

ロシアは、中国側についていますが、アメリカの視線がロシアから中国に移ったことで、「ホッ」としている。

欧州は、アメリカと中国の間を、フラフラしている

こういう流れを「時系列」で見ると、日本のポジションは、ここ2年でずいぶんよくなりました。

中国は、「日本を孤立させ、中国、アメリカ、ロシア、韓国で袋叩きにしてやろう!」と画策していた。しかし現在、中国自身が、「世界でもっとも悪い国」になっている。もちろん、批判する国々に温度差はありますが、少なくとも「道徳的」「国際法的」に、中国の行動を「正しい」と擁護できる国はいないのです。

このように、ここ数年の流れをみると、日本は「正しい道」を進んでいることがわかります。

しかし、「油断大敵」。現在は1930年代のように、大国間のパワーバランスがコロコロかわります。

1つのミスが破滅的な結果をもたらすこともありますので、総理には「石橋を叩いてわたる慎重さ」が求められるのです。

image by: 自由民主党

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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