MAG2 NEWS MENU

アメリカは「永遠」の同盟国なのか? 歴史に学ぶ敵と味方のボーダーライン

アメリカでは日本の核保有容認発言で注目を集めたトランプ氏が共和党大統領候補の座をほぼ確実なものとしましたが、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは「日本が核武装すれば、アメリカを含めた全世界を敵にまわすことになる」と首尾一貫して主張し続けています。同盟国であるはずの米国が敵にまわる? 一体どういうことなのでしょうか。

アメリカは「永遠の同盟国」なのか???

核武装」の話をすると、毎回本当にたくさんのご意見をいただきます。まさに「賛否両論」。あまりにもたくさんメールをいただきますので、個別にお返事することが困難です。しかし、たくさんのメールを読んで、私は「ある傾向」に気がつきました。

日本は、「中国に対抗するため核武装を決意した。その時、アメリカはどう出るのでしょうか? この質問については、その時の大統領や世界情勢など、さまざまな要素がからんできます。しかし、

といった発想になる人は、全然いないのですね。つまり、日本人は、「アメリカ永遠の同盟国と信じている

といった、明確に「アメリカが敵にまわるケース」を想定することができなくなっている。山のようにいただいたメールを読みながら、そういう傾向があることに気がつきました。

アメリカは「永遠」の同盟国。それは、日本が核武装しても不変。これは、真実なのでしょうか? 歴史をみれば、「そんなはずないだろう」と思います。

アメリカは、同盟関係を頻繁にかえる

少し歴史を見てみましょう。アメリカは、「同盟関係」「事実上の同盟関係」を、しばしばかえてきました。たとえば、1917年ロシア革命が起こり、世界初の「共産国家」ソ連が誕生した。ソ連は、「資本主義打倒」を目指して建国された。それで、アメリカとソ連は、「最大の敵同士」でした。

ところが、第2次大戦時。アメリカは、日本とナチスドイツをぶちのめすためにソ連と事実上の同盟関係になります。そう、アメリカはソ連と組んで、日本とドイツをせん滅したのです。

しかし…。2次大戦が終わると、アメリカとソ連は、戦争前の状態に逆戻りしました。アメリカはどうしたか? 戦中最大の敵だった日本、ドイツ西ドイツと組み、ソ連と対峙することにした。それでもソ連のパワーは強く、70年代は、「アメリカはソ連に負ける」といわれるようになります。そこで、アメリカはどうしたか? ソ連と同じ共産国家中国と組むことにした。

どうですか、これ? アメリカは自国の都合でコロコロ同盟関係をかえるので、「日本は永遠の同盟国だ」というのは、世間知らずの乙女のようにナイーブすぎます。

オバマさんも、結構露骨なことをしています。たとえば、中東親米国家の代表は、イスラエルとサウジですね。両国最大の敵は、イランです。オバマさんは、イランの核問題を解決することで、事実上イスラエルとサウジを捨てました。今、アメリカとイスラエル、サウジの関係は最悪になっています。中東で起こったことがアジアで起こらないと誰が言えるでしょうか?

アメリカは、「裏切り」を許さない

日本がアメリカの同盟国になったのは戦後。しかし、その前にも、両国関係が「事実上の同盟」と呼ばれたことがありました。1905年頃のことです。

日本は、日露戦争に勝利した。もちろん日本の努力が、最大の勝因です。しかし、当時の同盟国イギリス、そしてアメリカのサポートもありました。1905年、ロシアを共通の敵とみていた日本、イギリス、アメリカは、日本の勝利を心から喜んだのです。

同年、日本とアメリカは、「桂・タフト協定」をかわします。内容は、「日本はアメリカのフィリピン支配を認め、アメリカは日本の韓半島支配を認める」というもの。そして、そこには、「極東の平和は、日米英の、『事実上の同盟関係』によって守られるべきである」とあった。つまり、1905年当時、日米関係は、「事実上の同盟関係と呼ばれるほど良好だった。

ところが、両国関係はその後暗転します。アメリカの鐡道王ハリマンは、日本がロシアから譲渡された「南満州鉄道」の「共同経営」を提案。日本がこれを拒否すると、「日本は、満州の利権を独占するつもりではないか???」と疑念を強めた(確かに、日本は満州利権を独占するつもりだった)。そして、アメリカは一転反日に転じたのです。

ここから重要なのですが、「親日」から「反日」に転じたアメリカは、「黙っていなかったということです。アメリカは、「日英同盟」を破壊すべく、熱心に働きかけていきます。そうこうしているうちに第1次大戦が起こった。この戦争で、アメリカは、全力をあげてイギリスを助けました(アメリカは、イギリスの同盟国ではなかった)。

一方、日英同盟の「同盟国」である日本は、イギリスの再三の「陸軍派兵要求」を無視(海軍は出したが)。イギリスは、「なんのための同盟か!」と失望し、日英同盟破棄に向かいます(1923年失効)。以後、アメリカとイギリスは、一体化して「日本封じ込め」に動いていきます。

この歴史の教訓はなんでしょうか? アメリカを怒らせると黙って見ているだけでは済まないということです。アメリカは、かつてソ連と組みました。今度は、「中国と組んで日本を潰そう!」とならないでしょうか?

「核拡散防止条約」(NPT)は、アメリカがつくった「秩序」

アメリカ、イギリス、フランス、ソ連(後ロシア)、中国は、いわゆる「戦勝国」と呼ばれます(中国建国は1949年なので、「戦勝国」とよぶのは厳密にいうとおかしいですが、ここでは深入りしません)。彼らは「戦勝国」の特権として、国連安保理で「拒否権」をもっています。

また、「俺達戦勝国で核兵器の所有を独占しよう!」と決めた。そして1968年、「核拡散防止条約」(NPT)を作った。これは、主に「日本とドイツの核保有を阻止するため」に作られたのです。

NPTは、全世界を網羅できたわけではありません。インド、パキスタン、イスラエルは、NPTに参加せず核保有を実現した。北朝鮮は、NPTに参加していましたが93年に脱退。過酷な制裁を受けながら、核保有を実現した。

それでも、NPTには190か国が加盟。190か国が「核兵器は保有しません!」と宣言している「秩序」は、戦勝国、特にアメリカにとって「大成功」といえるでしょう。

日本が「核武装」を決意すれば、アメリカが中心につくったこの「世界秩序を破壊することになります。日本は、「中国や北朝鮮が核をもっているので仕方ない!」という正論を主張するでしょうが、正論で勝てるわけではありません。(そういう論理なら、韓国、ベトナム、フィリピンなども、核武装を主張できる)。

普遍的な正義を主張するのなら、「すべての国が、平等に核兵器をもたないべき」あるいは、「すべての国が、平等に核兵器をもつべき」となるでしょう。しかし、これは子供の論理です。

もう一度。日本は、反日国家中国に対抗するため、「核武装」したい。しかしそれをやると、アメリカと4大国がつくった「世界秩序」の破壊者となる。「中国に対抗すること」が目的だったのに、気がついたら「中国だけでなくアメリカと世界を敵にまわしていた」となりかねない。

戦前も同じことをしました。「ロシアの南下政策に対抗するため」に満州に進出した。ところが気がついたら、ロシア(後ソ連)だけでなく、アメリカを敵にまわし、中国を敵にまわし、イギリスを敵にまわし、国際連盟を敵にまわし、結局、大敗戦です。

その当時、「満州は日本の生命線」などといっていた。結果をみれば逆で、日本は、米英を満州に入れ、ロシアの南下政策に対抗してもらうべきだったのです。

「核武装」については、幸いそこまで盛り上がりをみせていません。しかし、「核は日本の生命線なければ中国に侵略される!」などと政府が言い始めたら、「いつか来た道」「必敗の道」です。

 

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け