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【書評】熊本コッコファーム、成功の秘訣は「Needs」と「Wants」

見かけ重視の卵と、新鮮でおいしい卵、食べるのならどちらを選びますか? とんでもない愚問のようですが、これが物を売る立場となると見えなくなるものなんだそうです。すなわち「お客様の要望の本質が理解できない」ということですね。無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さんが九州で大人気の企業の例を引き合いに、顧客が本質的に求めている要望のつかみ方をレクチャーしています。

お客様の要望の本質を見極める

最近読んだ本の内容からの話。

1949年に熊本県菊池市の山奥の農家に長男として生まれた松岡義博氏は、農業の専門学校で学んだ後に家業に入った。

しかし、専門学校で学んだ機械化・大規模思考の近代的な農業と、山奥の高低差のある棚田を上り下りする過酷な零細農業との落差に、松岡氏は失望して家を飛び出し、職を転々とする。

しかし、横浜の自動車工場で大怪我をしてしまい、帰郷してやっぱり農業を継ぐことになった時に、平坦地に負けない収入を上げる農業を追求し、養鶏業に乗り出すことを決める。

そして菊池市にコッコファームを設立し、安い価格と厳しい規格を要求する流通とは別れ、生産も販売も自分たちで行なうようにした。

現在は、物産館とレストランなどを備えた複合施設「たまご庵」が人気を博し、九州を代表する食のテーマパークとして大きく成長を果たしている。

しかし当初は、なんとかお客様の要望に応えようと、お客様の要求どおりに、いろいろな加工品、パッケージ、チラシなどを作ってきたが、実際にはうまくいかないし、売れなくて、気づくと倉庫は在庫の山、包材の山になっていた。

そんな頃、兵庫県の三田屋の廣岡償治社長「お客様のニーズに応えるな」と講演で話しているのを知った松岡社長は、自分が努力してきたことを逆のことだと不思議に思い、真意を確かめるべく兵庫県まで車を走らせた。

すると、山奥の辺鄙な場所にあるのに家族のお客様で賑わっているのだが、例えばレストランのメニューにはジュースがなくて、子どもが「ジュースを欲しい」と言っても絶対に出さないという。

お客様にニーズに応えていないことになるが、帰り際にその子どもの母親が「うちの子は、ここへ来たらようご飯を食べてくれる」と感謝してくれるのだという。

つまり、この場合お客様の本当の要望は、子どもにご飯を食べて欲しいから連れてくるわけで、ジュースを飲んで欲しいからだけではないのである。

>>次ページ 松岡社長が取った常識外れの卵販売法とは?

そのような事例を見て、視察に来た松岡社長は、お客様のニーズにただ応えるのではなく、「お客様が本当に望んでいるもの」をうまくつかみ提供することが大事なのだということを教わった。

では、自分たちの商品である卵の場合は、お客様が本当に求めている要望は何なのか。

生産される卵は、大きかったり小さかったり色が濃かったり薄かったりといろいろだから、通常は大きさ別に選別して、L、M、Sと分けてパック詰めで販売するのが普通である。

当時はバブルの時期で過剰包装が普通だったが、松岡社長は思い切って、ふた無しの段ボールにサイズ関係なくバラで卵を詰め込んで、「3kg入り朝取りたまご」という箱売りをしようと考えた。

その松岡社長の考えに、社内からは「絶対に売れない!」「たまごが割れてしまう!」と、思いっきり猛反対にあったが、松岡社長は反対を押し切って販売を開始した。

すると、段ボールにバラで詰めたたまごは、お客様がそっと大事に抱えて持ち帰るため、ほとんど割れたという問題は発生しなかった

そして、この段ボール入りのたまごは、現在1日に1,000箱も売れる日もあるほどの同社最大のヒット商品となった。

熊本県菊池市の山の中の店にまで、熊本市内を中心に、福岡、山口からもドライブを楽しみながら立ち寄って、20箱以上も買い求める人がいるほどである。

たまごの品質を伝える気持ちは大きくても小さくても一緒なのだから、規格に合わせて細かく選別するのではなく、良いたまごは全部同じ箱に入れればいい、と松岡社長は考えたのである。

つまり、お客様の本当の要望は「整然とパック詰めされた見かけだけを重視したたまごが欲しい」のではなく、「新鮮で美味しいたまごが欲しい」というシンプルなことだったのだ、とコッコファーム創業者の松岡義博氏は述べている。

>>次ページ 「相談窓口を24時間対応に」という要望にはどう応えるのが正解?

出典は、最近読んだこの本です。中九州で大人気のコッコファームの松岡前社長の著作。地方企業が生き残るためのヒントが満載の冊子です。

松岡義博氏(右から2人目)

コッコファーム創業者の人生十訓 松岡義博氏著 トライ

「自分たちはお客様の要望を十分聞いている
「自分たちはユーザーのニーズに十分応えている

と思い込んで、実は方向違いだったという場合が、経営において一番始末に負えない間違いです。

「こんな機能が欲しい」「あんな機能が欲しい」と、ユーザーから出てくる機能に1つ1つ応えて、「ほら、全部応えてるでしょ」と驕っていると、実はユーザーには使いにくくなっていた、という本末転倒なことが起こってしまいます。

経営不振、販売不振に陥ってしまう会社やお店は、だいたいそういうケースに陥っているんですね。

個別の要求を聞けばいいのではなくて、「要求の本質は何なのか」という本質的願望を見極めなければなりません。

その要求の本質を見極めてみると、数多くあったお客様の要望は、実はすごくシンプルなことだったりするのです。

例えば、「分からないことがあればすぐに聞けるように、相談窓口を24時間対応にして欲しい」という要望があれば、要求の本質は窓口の24時間対応なのではなくて、「いつでも調べられたらいい」という話なのです。

だったら、窓口の人員を増やすのではなくて、ウェブサイトのQ&Aを充実するとか、商品の解説書を1ページ増やすとか、ものすごく単純な工夫で済んだりするんですね。

自社が応えなければならないお客様のニーズとは、本質的にどういうニーズのことを指すのか。

社員が勘違いをしないように、今一度きちんと定義付けておきましょう。

【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)

image by: コッコファーム

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