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シリア拘束・安田純平氏を「自己責任」と言うのは正しいのか?

シリアで日本人ジャーナリスト・安田純平氏が行方不明になってから1年。5月には、安田さんと思われる男性の画像が公開され、日本中に衝撃が走りました。一部からは「自己責任」だと見放すような声も聞かれますが、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、「自己責任」と「助けるべき」という二者択一的な議論を「幼児的」と一刀両断しています。

簡単に「自己責任」なんて言うな!

ジャーナリストの安田純平さんがシリア方面で失踪してから1年になります。

そして、またぞろマスコミでは「自己責任が交わされています。

いわく、「自己責任で渡航したのだから、政府は救出のために動く必要はない。税金の無駄遣いだ」

むろん、それとは逆に「全力を挙げて救出に動くべき」という声もあります。

しかし、これは「あれか」「これか」と二者択一的に議論している点で、幼児的とも言うべき日本の議論のレベルの低さを物語っているように思われてなりません。少なくとも報道に携わる立場では整理されなければならないと思います。

まず、海外で邦人が拉致されたりしたときの政府の立場について整理しておきましょう。

これについては、自衛隊が自衛隊に反対する国民であっても守る姿を思い浮かべれば理解できることです。自衛隊は、レジャー目的のヨットが遭難した場合でも、「迷惑がかかるようなことをするな」とは、絶対に口にすることはありません。

たとえ、危険情報レベル4の退避勧告が継続しているシリアに外務省の渡航制限を無視して現地入りしたとしても、可能な限り救出のために必要な情報収集を行い交渉ルートを探さなければならないのが政府の基本的な立場なのです。

日本政府発行のパスポートの第1ページには『日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。 日本国外務大臣(公印)』と記されています。これは、相手国に自国民の保護を丸投げするのではなく、最初に行うべき日本政府としての努力が前提となっているのです。それを忘れてはならないと思います。

ジャーナリストの側は当然、自分の責任で危険地帯に足を踏み入れるわけです。拘束された場合、自国政府などに負担がかかることは承知のうえですが、たとえ自国から見捨てられたとしても文句を言うべき立場ではなことを覚悟のうえの行動なのです。

ジャーナリストには、必要な情報を世界に伝えるという使命があります。自国政府の渡航制限があろうとも、自分の判断で危険を回避しながら取材する立場なのです。

それを、観光客がちょっとした冒険心から危険地帯に入り込み、拘束されるようなケースと同一視して、自己責任論が出るようでは、日本の世論はまだまだ未熟だと言わざるを得ません。

それに、外務省が渡航制限をしている国や地域でも、NGO(非政府組織)などが危険を避けながら人道目的の活動をしていることも知っておく必要があるでしょう。

例えばソマリアですが、外務省が全土について渡航制限(危険情報レベル4の退避勧告が継続)している一方で、私が理事を務めるNGOでは若い女性スタッフがソマリア北部で活動してきました。同じソマリアと言っても、北部のソマリランド、プントランドは別の国と言ってよいほど、一年の大部分にわたって安全な状態が保たれているからです。

それをひとくくりにして危険な国だから全土について渡航制限というのは、自分たちが勤務したくないからだと勘ぐられても致し方ない面があるのです。

そんなことを口の中で呟きながら、安田さんの無事な姿を思い浮かべています。(小川和久)

image by: Facebook(tarik abdul hak)

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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