MAG2 NEWS MENU

英国のプライドが世界を狂わす。EUというドイツ第4帝国からの独立

イギリスの「EU離脱」という国民投票の結果に世界中が大混乱の様相を呈していますが、結局のところ英国のEU離脱によるメリット、デメリットはどういうものなのか、そして、EUとはそもそも何のための共同体なのか。そんな「根本的な疑問」に、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんがわかりやすく回答、さらには今回の結果が日本にもたらす影響までも解説してくださっています。

イギリス離脱で、崩壊に向かい始めたEU

皆さんご存知のように、6月23日の国民投票で、イギリス国民は、「EU離脱を選択しました。ここ数日、テレビも新聞もネットもこの話題ばかり。その気になれば十分な情報がゲットできます。あまりに情報が多いので、別に何か書く必要性も感じていなかったのですが。

しかし、この件に関する質問が多いので、少し触れておきます。

ナショナリズムの巻き返し

元ウクライナ大使の馬淵先生は、現代の世界情勢を「グローバリズム対ナショナリズムの戦い」と分析されています。先生によると、ナショナリストの代表は安倍総理やプーチン。ちなみに、「ナショナリスト」というと、普通「悪い意味」で使われますが。馬淵先生は、むしろ「肯定的な意味」で使っておられます。

グローバリズムとはなんでしょうか? 要するに、「地球を一つにしちゃいましょう」という主義のこと。そのためには、「モノの動きを自由にしちゃいましょう。イギリスが離脱することを決めたEUは、28か国の間で、この理想が現実化されていました(とはいえ、イギリスは「ユーロ圏」に入らず自国通貨ポンドを使い続けていたとか、細かい点はいろいろありますが…。ここでは、ややこしくなるので、触れないでおきましょう)。

もう一つ、グローバル化の特徴は、「主権が制限される」こと。28か国からなるEUには、大統領もいて、議会も存在する。政治統合が年々進み、EUは、イギリス国の上部にあり主権を大きく制限する。

EUの例をあげましたが、グローバル化は、世界中で進展しています。ところが近年、これに対する反発が強まってきた。(たとえばトランプさんは、「人の移動の自由」に反対。サンダースさんは、「グローバル化」「新自由主義」の結果である「格差」に反対)。

イギリスを直撃したグローバル化の「ダークサイド」

EUは現在28か国。とはいえ、大昔からそうだったわけではありません。EUの前身ECは豊かな西欧諸国の集まりだったのです。

ところが、1991年にソ連が崩壊してから事情が変わってきました。それまでソ連の(事実上)支配下にあった貧しい東欧や、あらたに誕生したこれも貧しい旧ソ連諸国をどうする? という問題が浮上してきた。欧州統合を推進するフランスやドイツは、「EUに東欧旧ソ連諸国を加えていけばEUはアメリカを超えることができる!」と野望を抱いた。そして、実際そうしたのです。04年、EU加盟国は、一気に10か国増えました。主に、かつてソ連の(事実上)支配下にあった東欧諸国、そしてソ連の一部だったバルト三国。

貧しい東欧諸国の人たち。「あなたたちは好きなところで仕事しなさい」といわれたら、どこに行きますか?そう、豊かで給料の高いイギリスを含む西欧に行くにきまっています。そして、東欧諸国の人々は、豊かな西欧への移動をはじめたのです。

2015年、イギリスには33万人の移民がやってきたそうです。イギリスの人口は、日本のだいたい半分程度。だから、日本の感覚でいえば、「年間66万人移民が入ってきた」という感じ。

そして、彼らは、入ってきて仕事をする。労働市場に年間33万人も新たな労働力が供給されれば、当然、もとからイギリスに住んでた人たちの賃金が下がっていきます

「移民のせいで、職を奪われた!」
「移民のせいで、給料が下がった!」

普通の国なら、「じゃあ、移民の流入を制限すればいいじゃん」ということになる。しかし、EU加盟国のイギリスには、それができないのですね。「人の移動の自由EUの大事な原則の一つですから。これが、

「グローバル化のダークサイド」
「主権を制限されている」(それで、移民問題を自国で解決できない)

例です。イギリス国民の半分強は、

「主権を制限されていること」
「移民問題」

などが主因で、「離脱を支持したのですね。

EU=ドイツ帝国という現実

「世界の国=すべて平等」と言われています。国連だって、そういう建前で運営されている。

しかし、本音をいえば、すべての国が平等なわけではありません。たとえば、国連で強制力をともなう決定は、国連総会ではなく、安保理でされる。安保理には、常任理事国(=アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)がいて、彼らは(非常に不平等な)「拒否権という特権」をもっている。

EUはどうでしょうか? すべての国が平等という建前ですが、域内最大の経済力をもつドイツが圧倒的に強い。それで、予言者エマニュエル・ドットさんなどは、「EU=ドイツ帝国である!」とよく言っています。

ところで、イギリスにとってドイツは、「第1次、第2次大戦でぶちのめした国」です。その敗戦国が、ちゃっかり欧州一のパワーをもち、いつの間にか28か国の実質支配者になっている。元覇権国家で戦勝国のイギリスには、それが我慢できないのですね。

EU離脱でイギリスはどうなる?

イギリスのEU離脱の理由が「理解できるもの」であったとしても、離脱の悪影響を避けることはできません。たとえば、英通貨ポンドが激安になっている(ポンドは6月24日、対ドルで31年ぶりの安値をつけた。)

経済面で長期的に最大の問題と思われるのは、欧州一の金融センター・シティーの没落でしょう。「英国はどんな国ですか?」と聞かれれば、多くの人が「金融の国です」と答えます。実際、金融関連ビジネスは、イギリスGDPの約1割を占めている。現在、アメリカやアジアの多くの金融機関が欧州の拠点をシティーに置き、そこから欧州のビジネス全体を指揮している。

しかし、英国がEUから離脱すれば、外国の金融機関は、欧州の主要拠点をシティーからドイツ・フランクフルトなどに移すようになるでしょう(日経新聞6月25日付は、三井住友銀行、損害保険ジャパン、日本興亜などが、早速「英国外で新たに欧州統括の現地法人を立ち上げる検討に入る」と報じていました)。

外交面での打撃も避けられないでしょう。アメリカと「特別な関係にある」と言われるイギリスは、常にアメリカとEUの仲介役」を行ってきました。アメリカは、イギリスを通し、EUの政策に影響を及ぼしてきた。しかし、イギリスがEUを離脱すれば、同国はEUへの影響力を失うでしょう。

では、アメリカはどうやってEUへの影響力を確保するのでしょうか? もちろん、EU最強国家ドイツやフランスと直接対話、交渉を行うようになるでしょう。イギリスは外され、国際的地位は大きく下がります

さらに、スコットランドがイギリスから独立する可能性が強まっています。スコットランドは、2014年の住民投票で、独立を否決しました。しかし、6月25日、(イギリスEU離脱の決定をうけ)スコットランド自治政府は、「独立の是非を問う、2度目の住民投票の準備をはじめる」と発表しました。

まとめるとEU離脱を決めたイギリスは、

  1. 欧州一の「金融センター」の地位を失う
  2. アメリカと欧州の仲介役という国際的地位を失う
  3. スコットランドの独立で、国家分裂する可能性が高まっている

と、暗い未来が待ち受けている。

とはいえ、肯定的な点がないわけではありません。イギリスは、「自国のことは自国で決める」ことができるようになる。これが、「イギリス人は主権を取り戻した」とトランプさんが評価した意味です。

EUはどうなる?

では、イギリスに離縁状を突きつけられたEUはどうなるのでしょうか? こちらも、明るい未来は見えてこないです。

まず、離脱したイギリスは、GDP世界5位。EUでは、ドイツに次ぐ経済大国です。EU第2の経済大国が離脱する。それだけでも、EUには巨大な打撃ですね。しかし、最大の問題は、イギリスの「離脱成功」が他のEU加盟国の「離脱派を勢い付けてしまうことでしょう。

EU諸国には、広く「離脱派」が存在しています。たとえば、フランス、デンマーク、オランダ、スペインなどなど。そして、シリアなどからの難民を大量に受け入れつづけるドイツ・メルケル首相への反発から、離脱派は支持を広げている(ナショナリズムの巻き返し)。

たとえば、イギリス同様の国民投票実施を主張する、フランス国民戦線党首のマリーヌ・ルペンさんは、2012年の大統領選挙で3位につけた。極右とよばれるルペンさんの人気は、「ISSUINGテロ」「難民の大量流入」などで、ますます上昇しています。そして、今回の「イギリスのEU離脱」で、彼女の主張があながち「極右だけの危険思想でないことが証明された。もし、ルペンさんが来年の選挙で勝って大統領になり、国民投票を実施。フランス国民が「EU離脱」を選択したらどうなるでしょう?おそらく、EUは存続し続けることが難しくなるでしょう。

将来、「2016年6月23日のイギリス国民投票は、『EU崩壊』の引き金になった」と歴史の教科書に記されるかもしれないですね。

日本と世界はどうなる?

日本はどうなるのでしょうか? 英ポンドが下がり、ユーロが下がるのですから、当然「円高」になります(なっています)。そして、株が安くなっている

アベノミクスは、建前はどうあれ「異次元緩和による円安誘導」が重要な柱。これが挫折するのですから、日本経済も厳しくなるでしょう。そして、世界経済は繋がっているので、イギリス、EU経済の悪化が世界に波及していきます。

中国経済の急減速とEU。これから世界経済は、かなり厳しいことになりそうです。

image by: Hadrian / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け