銀座のシンボルでもあった松坂屋銀座店の閉店が象徴的な出来事となり、百貨店の危機が広く知れ渡りましたが、そのあおりをまともに受けた百貨店アパレルも衰退。店舗縮小などで次なる方法を模索しています。今後アパレルはどのような業態へと変わっていくのでしょうか?メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、鋭く分析しています。
百貨店アパレルは衰退
百貨店アパレルの将来を考えるには、百貨店の将来も考えなければならない。既に、百貨店という業態は、小売業ともいえず、賃貸業とも言えない複雑で非効率な業態になってしまった。
立地の良い都心の百貨店は、存続可能だろう。インバウンドと富裕層を対象にして、ファッション、飲食、雑貨等を展開していけば採算に乗るはずだ。
地方百貨店は厳しい。イオンやIY、SCモール、ユニクロやしまむら、青山やアオキとも競合する。多くの地方百貨店は淘汰されるに違いない。
百貨店に依存しているアパレル企業は、百貨店への売上が低下し、経営全般を見直すことになるだろう。
既に、大手百貨店アパレル企業は店舗縮小、ブランドの整理を進めている。このまま、縮小均衡を求めるならば、最終的にブランドの売却、合併等を検討することになる。
百貨店アパレルは、百貨店に遠慮してネット販売等を積極的に進めてこなかった。百貨店も百貨店アパレルも、ネット上の存在感が極めて希薄だ。経済全体がインターネットにより変革していく中で、ネット対応の遅れは致命的である。
百貨店は、いかに「脱アパレル戦略」を推進するかが問われるだろう。そして、百貨店アパレルは、いかに「脱百貨店戦略」を推進するかが問われるはずだ。
勿論、百貨店アパレルが「脱アパレル戦略」に取り組んでもいい。例えば、百貨店イベントを提案したり、新しいタイプの飲食業態を提案するということだ。
多くの百貨店アパレルは中国市場に進出し、成果を上げることができず、撤退している。しかし、今後の活路は海外市場にしかない。これまでの失敗を糧に再チャレンジするという戦略も必要ではないか。
但し、手法は全面的に変えなければならない。日本型商法を押しつけることはできないし、日本百貨店MDをそのまま持ち込んでも成功しない。徹底して、現地の市場を調査し、中国企業では対応できない消費者ニーズを見つけ、それに対応することである。
グローバルSPAは成長を続ける
ユニクロ、無印良品、H&M、ZARA等のグローバルSPAは、成長を続けるだろう。
百貨店アパレル、量販店アパレルは、問屋業態であり、自社でショップをコントロールする能力が欠如している。問屋業態を維持しながら、成長することは困難である。
グローバルSPAは小売業であり、世界で最も安く生産できるメーカーから商品を調達している。
今後は、店舗販売の売上比率を下げ、ネット販売を増やすに違いない。店舗の売上を増やそうとすると、経費倒れになりかねないからだ。
ユニクロは、低価格戦略への回帰を打ち出したが、一方では,クリストフ・ルメール氏との取り組みを強化した。ユニクロパリR&Dセンターのアーティスティックディレクターにクリストフ・ルメール氏を起用し、2016年秋冬から新ライン「Uniqlo U」の販売を発表している。
これは、苦戦している欧米市場での巻き返しだけでなく、日本市場のアッパーゾーンに向けた戦略とも言えるだろう。
ユニクロはテキスタイルや縫製だけの差別化では、価格を上げることはできないと実感したに違いない。そして、ジル・サンダー氏との「+J」の経験を生かし、再度、本格的にブランドビジネスに取り組んでいく決意を固めたのだろう。
残念ながら、大手百貨店アパレル企業は、こうした一流デザイナーとの本格的な協業を経験していない。勿論、一流デザイナーとの取り組みは経験しているが、あくまでブランドライセンスであり、自社ブランドのアーティスティック・ディレクターとして契約するという形態ではないのだ。
この契約ができるということは、今後、様々なデザイナーと協業できるということである。ユニクロにその意志があるか否かは分からないが、グローバルなブランドビジネスの入口に立っているのは確かだ。
無印良品も国内デザイナーと契約しているが、あくまで業務委託契約であり、デザイナー名を公表していない。この姿勢は、ブランドビジネス的なアプローチを否定しているということでもある。無印良品というブランドが重要であり、デザイナービジネスには参入しないという意志の現れだろう。
いずれにせよ、今後、ファッションシーンで影響力を増すのは、国内外に直営店を持ち、グローバルソーシングを行っているグローバルSPA企業であり、百貨店アパレルではないのだ。
セレクトショップはどうなる
百貨店が淘汰され、百貨店が得意としてきた高級品市場の穴を埋めるのは、セレクトショップだと思う。逆にいえば百貨店は、伊勢丹新宿本店を除いて、「ファッション大店」にはなれなかったのだ。
セレクトショップは、商品の選択眼、品揃えの面白さ、丁寧で専門的な接客によって、高級品市場の一翼を担っており、その役割は今後も変わらないだろう。
ファッション以外にも、百貨店の特選売場やギャラリーで扱っていたような、工芸品や作家ものを扱うようになるだろう。次第にファッションの領域を広げ、「小さな高級百貨店」を実現するのではないか。
海外には、尖ったファッション商品だけを集めるセレクトショップが多いが、日本のセレクトショップは日本百貨店の伝統を受け継いでおり、保守的な富裕層も吸収していくと思う。
セレクトショップは、店舗数と売上をコントロールし、必要以上に拡大してはならない。むしろ、百年続く高級品業態を目指してほしいと思う。
SCモール専門店はどうなる
SCモール運営者は、家賃収入で儲かっているが、出店しているテナントは儲かっていない。
当然だが、人気のないSCモールでは空きが出ている。今後は、SC間競争が目立ってくるだろう。同時に、SCアイデンティティが求められ、SC毎の独自のテナントミックスが求められるだろう。それができなければ、SCモールの単位で淘汰が進むと思われる。
あるいは、ヤング偏重のSCモールの中で、どこが本格的なシニア向けモールを展開するかも注目である。既に、アウトドア専門店集積のモールが出現しているが、ここがシニア層を獲得していけば、一気に全国に広がるかもしれない。
SCモールの専門店は基本的にヤングを対象としており、トレンドを意識し、リーズナブルな価格ゾーンで構成するなど、同質化している。
これは、多くのアパレルが企画会社から提示されるサンプルに依存しているためである。同じようなサンプルが、複数のアパレルに提示され、アパレルはその中から商品を選び、量産しているのである。
実は、これはネットモールに出店しているアパレルも同様である。このゾーンは、益々、同質化と価格競争が進むだろう。
同質化が一定以上進むと、個性的なショップが出現する。これまでも繰り返されてきたサイクルである。
特に、ネットでは、手作り商品やアクセサリーなど、個人でもビジネスに参加できる環境が整っている。こうしたネット上の起業家が育ち、やがてはオフラインのビジネスで成長してくるかもしれない。
アパレルは、インターネットにより、競合が厳しくなるが、逆に、インターネットから新しい勢力も生まれてくるのではないか。
image by: Sorbis / Shutterstock.com
『j-fashion journal』より一部抜粋
著者/坂口昌章(シナジープランニング代表)
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