日本では「ルーピー」というアダ名が浸透しており、もはや何をしても誰もが眉をひそめる存在でしかありませんが、日本国の元首相という肩書は、海外ではそれなりの力を持つと考えられます。
鳩山由紀夫氏のホームページには「たとえ揶揄されても、私には何としても成し遂げたい信念がある」と、なにやら意味ありげな言葉が書かれていますが、要するに「東アジア共同体」をつくるということが鳩山氏の信念だということです。
そもそも中国は「東亜共同体」という日中韓を中心としたアジア秩序の構築を目指してきました。当然ながら、中国の目的は東亜共同体の盟主の地位を獲得し、アジアからアメリカの影響力を排除することです。鳩山氏の東アジア共同体構想が、この中国の構想と共鳴したということなのでしょう。「何としても成し遂げたい信念」のために、アジアにおける中国の覇権を手助けすることが、鳩山氏の行動原理となっているようです。
そしてもしも中国の覇権がアジアで完成すれば、表向きには「共同体」ができたように見えます。もちろんあくまで中国の抑圧と侵略によるものですが、鳩山氏はそのときに「東アジア共同体」の推進者として名誉ある地位を獲得する、そんなことを夢見ているのかもしれません。
そう考えれば、中国の歴史戦において日本を批判する側に回り、中国の南シナ海での覇権主義について日米は黙っていろと主張し、さらには沖縄の基地問題を引っ掻き回して日本政府と沖縄との溝を深めた鳩山氏の背景にどのような思惑があるのかが見えてきます。
だいたい、アジアはEUほど各国の政治体制や文化風習が近似していません。民主主義国だけではなく、軍事政権や独裁政権の国も存在します。EUですら解体の危機にあるわけですから、こんな統一感のないアジアで共同体をつくるのはほとんど無理です。鳩山氏もそのことはわかっていて、中国の独裁体制による強権によって共同体をつくろうとしているのであれば、東シナ海や南シナ海は「友愛の海」どころか「独裁の海」になってしまうことでしょう。
実際、この世界平和フォーラムにおいて、中国軍の孫権国副参謀長は仲裁裁判所の判決を受けて、軍事力強化を表明しました。世界平和を語るフォーラムで軍事増強を明言するというのも、前代未聞のことでしょう。しかし、これに対して鳩山氏が批判したり諌める発言をしたとは伝わっていません。中国にとっては勲章に値する人物でしょう。