MAG2 NEWS MENU

中国で異様な盛り上がりを見せる「女排精神」の不気味さ

リオ五輪で大逆転の末3大会ぶりに金メダルを獲得した中国女子バレーボールチーム。伸びないメダル数に沈んでいた中国国民たちは狂喜乱舞し、その直後から中国語で女子バレーボールを表す「女排」を用いた「女排精神」なる造語が登場、国内を席巻していることをご存知でしょうか。この「女排精神」が今やすべてを可能にする「民族の精神」と同格にまで持ち上げられているという現状を、評論家の石平さんは無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』の中で、「その背後にあるのは、現代中国と中国人の精神的貧困さである」とばっさり斬り捨てています。

「女排精神」まるで「救世主」のように崇拝…背後に現代中国の精神的貧困

リオ五輪が閉幕した後、「女排精神」という言葉が中国の国内メディアを大いににぎわしている。

女排とは中国語で女子バレーボールの意味である。8月21日、リオ五輪のバレーボール女子決勝で中国チームが3-1でセルビアに逆転勝ちして優勝を決めたことから、「女排精神」の新造語が生まれた。

今回の五輪で中国の獲得メダル数は当初の予想以下に低迷し、イギリスに負けて世界3位に転落した。国内では一時、諦めムードが漂っていたが、五輪最終日の女子バレーの劇的な逆転勝利によって、中国国民の鬱憤(うっぷん)が一気に吹っ飛ばされたのである。

その直後から、「女排精神」の言葉が国内の各メディアに登場してきた。

たとえば同22日、毎日経済新聞は「改革が困難を乗り越えるのには『女排精神』が必要」とする社説を掲載した。有力地方紙の南方日報も社説で「新しい時代の『女排精神』を高揚させよ」と呼びかけた。同じ日、軍機関紙の解放軍報も論評を掲載して「軍を強くするために女排精神を高揚させるべきだ」と力説している。

それ以来、「女排精神」は毎日のように叫ばれることになったが、同26日、新民週刊は「女排精神は民族精神の時代符号」と題する論評を発表し、流行の「女排精神民族精神にまで昇格させた。同27日、全国紙光明日報は「女排精神」のことを「民族復興の英雄的DNA」だと持ち上げた。

次は人民日報の出番である。同29日から連続3日間、人民日報は「女排精神」を褒めたたえる論評を掲載したが、その中で、「女排精神」を「負けず嫌いの精神」や「団結奮闘の精神」などと定義した上で、「女排精神」をもって「民族の自信を高め民族復興の力を強めようとの大号令をかけた。

こうした中で、「女排精神」の単語がひとり歩きして全国的に広がり、あたかも万能な「魔法精神」であるかのように取り扱われた。

たとえば安徽省の電気供給国有企業は「『女排精神』に学び、電気の安定供給に努めよう」とのスローガンを高らかに掲げ、山西省太原市地元紙は「『女排精神』を発揮して山西省の農特産品ブランドを創ろう」とする情熱的な社説を掲載した。IT業界のある企業が「ネット金融を成功させるのには『女排精神』が必要」とのコメントを発表したかと思えば、LED照明業の業界紙は「『女排精神』はわが国のLED企業にどのような啓発を与えているのか」との分析記事を載せた。

このように今の中国では、「民族の自信」を高めるのにも、「改革の困難」を乗り越えるのにも、解放軍を強くするためにも、山西省の特産品ブランドを創るためにも、ネット金融を成功させるためにも、とにかく何もかも全ては、「女排精神の力にすがらなければならないありさまとなっているのである。

もちろん「女排精神」といっても、それは所詮、中国女子バレーチームの20代そこそこの女の子たちが持つスポーツ精神にすぎない。

13億人の「大国中国」の人民日報から解放軍報まで、IT業界からLED業界までが、彼女たちのスポーツ精神を「民族の精神にまで持ち上げてまるで救世主」であるかのように拝もうとする…。

この滑稽な光景は逆に、現在の中国全体における「精神の欠如」を示している。誇るべき「民族の精神」が実際に何もないからこそ、にわか作りの「女排精神」を利用して心の巨大な空白を埋めようとしているのである。

つまり「女排精神」という言葉がはやった背後にあるのは、現代中国と中国人の「精神的貧困さ」である。このような国と民族に「未来」があるとはとても思えない。

image by: 語文迷(中国語サイト)

 

石平(せきへい)のチャイナウォッチ
誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け