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忘れられたアラブの春。世界はもはや「独裁の世紀」に突入している

世界全体の「右傾化」が取りざたされる昨今、各国で「強権政治」が目立ち始めていると言うのは、無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者・嶌さん。2010年から12年にかけてアラブ世界で起きた、あの大規模反政府デモ「アラブの春」の機運はどこに行ってしまったのでしょうか。嶌さんは、強権的な国家を「取り押さえる力」を世界が失ってしまったとも指摘しています。その原因はどこにあるのでしょうか。

独裁すすむ世界情勢

本日はこのところ世界で目立ちはじめた「強権政治」についてお話したい。まず、トルコのエルドアン大統領。政権に批判的なジャーナリスト・政治家・企業に対して圧力を強めているとして、国際社会でも批判されている。象徴的な出来事としては2007年の爆破テロ未遂事件。政権側は、この事件を政権批判的な組織が企てたと断定し、大々的な摘発に乗り出し軍関係者約250人を拘束。さらに、ジャーナリスト100人以上までも投獄された。

つい2ヶ月前には、政権に反発する軍の一部が反政権運動、 軍事クーデターを起こすが未遂。ここでも、政権側は、軍、警官、公務員ら6万人を拘束、解雇した。さらに8月12日に報じられたニュースでは、自治体の首長28人をクーデターに関わった疑いで解任した。裁判という手法はとらずいきなり解任となっているのは、非常に強権的だといえる。自分達に反対する勢力は根こそぎにしてしまえという表れだ。

オバマ大統領への侮蔑も話題に

続いて、フィリピンのドゥテルテ大統領。つい先日オバマ大統領を口汚く罵り首脳会談がご破算になった。フィリピンはアメリカに守ってもらっていた国なので、昔だったら大変なことだ。麻薬犯罪撲滅に強権的な動きで数百人の麻薬仲買人、常習者1,000人以上が殺されたとされドゥテルテ大統領は「殺したのはたった1,000人」と語っている。麻薬の常習者ということで市民は拍手するが、そのやり方に関しては眉をひそめている。しかしながら、フィリピン国内では非常に人気がある

中国でも目立つ強権政治

さらに、中国の習近平国家主席もそうだ。汚職をどんどん摘発している。まもなく、次の5年間の人事を決定しなくてはならないため、江沢民派や李克強派と相当激しい闘いを繰り広げている。それに対しては言論統制への「21項目の通達」を出し、習氏の事を重点的に報じ李克強氏のことはあまり報道しない、反習近平氏のネットの書き込みがあったら直ちに封鎖するなど、激しい強権政治を行なっている。

その他、軍制服組トップ数人を解雇。汚職幹部の摘発は一段落したかにみえたが、まだまだ国営企業の幹部や構造改革に反対する人たちに対する摘発は続けるようだ。また、先日、昨年7月に逮捕された人権派弁護士の裁判を実施するとの報道もあった。これらのことから中国も強権的な政治が目立ってきたといえる。

世界の弱体化

トルコ、フィリピン、中国と紹介してきたが、何といっても我々の身近なのは北朝鮮。9月9日の共和国創建記念日に核実験を実施。さらに、この数年で100人以上の幹部を処刑。そして、8月中旬にはイギリス駐在の北朝鮮公使が亡命し、亡命理由は「金正恩体制に嫌気がさした」という。

この金正恩態勢をいつまで放置しておくのかという問題はあるが、アメリカも中国も今一つ強く出られない。今後まだまだ実験を行なう可能性は否めないし、日本に飛んでくる可能性もある。世界中から非難され制裁決議が行なわれてもほとんど効果はなく、世界がそれを取り押さえる力が無くなってきたといえる。

米ソが牛耳った時代

以前は、北朝鮮であれば中国が言えば収まる、新興国であればアメリカやソ連が言えば収まるという状況だったが、残念ながら今はそういう状況ではない。昔も強権政治はあった。例をあげると強権的で有名なフィリピン・マルコス大統領エジプト・サダト大統領とムバラク大統領はこの二人の時代50~60年間エジプトを強権的に支配し、軍が非常に強かった。そして、アフリカ・ソマリアではソ連とアメリカが交互に味方し、政権がソ連派、アメリカ派と大きく入れ替わった、その中で特に印象に残っているのはバーレー大統領時代の強権だ。

冷戦時代は背後でアメリカとソ連がその国をバックアップしていたことによって全体が収まっていたが、今はそういった際に治める人がいなくなった。そのあたりが今の強権政治の難しい流れがあるのだろう。

冷戦終結で事態は一変

昔はアメリカを中心とする「資本主義自由主義の国」とソ連を中心とする「共産主義社会主義の国」とが対立し、世界が二色に別れていたという感じであった。それによって中南米やアフリカでは、ある時はソ連側、ある時はアメリカ側に寄った政権となっていた。有事の際には、最後には背後のソ連とアメリカが話合えば解決できたのである。

しかしながら、西側はG7、社会主義側はソ連が中心となって世界を抑えていたのが、冷戦終結により困難となってきた。ロシアがウクライナに侵攻しても、西側は抗議はするもののそれを阻止することはできないようになっている。

大衆翼賛的なポピュリズム

中国もさまざまな問題を抱えているが、大衆翼賛的なポピュリズムをうまく活用し、汚職摘発などをやりながら、強権政治となっている。その一方で、尖閣、南シナ海、東シナ海で問題を起こしているが誰もそれを押さえることが出来ない。内政的には国民が共感を覚えるような政策を実施し、国内を抑制している。その一方で、国外には反発はあるものの強く出て発散し、それが国民にも喜ばれる。このようにポピュリズムをうまく形容した新たな形の強権政治という感じがする。

そうなってきた一つの要因はアメリカ、ロシアの力が弱まってきた上に、ヨーロッパも混乱しているので、だれも問題が発生した際に抑制できなくなってきた。かつてのG7のような集団体制で抑制するような仕組みにしていかないと、世の中はますます混乱していくだろう。G7が弱体化しG20となり非常に拡散し力を発揮できていないというジレンマに陥っている。これがジレンマのままで終わるのか、内戦などが勃発しそれによってますます混乱するということもある。今、瀬戸際にきているように思う。

(TBSラジオ「日本全国8時です」9月13日音源の要約です)

image by: Slavko Sereda / Shutterstock.com

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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